第35話 主人公の活躍をモブは演出する
暁斗と二人きりになったところで、俺はようやく口を開く。
「聞いて欲しい話があるんだ」
雰囲気を察したのか、真面目な顔で頷く暁斗。
それを確認して、俺は今まであった事を話した。
雪海が去年襲われた事。
その復讐を彼女が企てている事。
俺はそれを止めようとしていた事。
だけど丁度今、そのせいで相手グループと思しき連中に刺された事。
説明の途中、梓乃李のいじめ解決の件も俺が関与していたと話した。
所々詳細は省き、シナリオ云々や暁斗と梓乃李のカップリングを企てている事はぼかした。
しかし、大筋はそのまま話した。
そもそも、本来は暁斗が知るはずだった出来事である。
関係ない葵子と違って、暁斗は知るべきだと思ったから俺は全てを打ち明けた。
後で雪海に怒られるかもしれないが、そこは一旦諦めるしかない。
というか、そんな事よりも優先したいことがあるのだ。
一連の騒動を話した後、暁斗は唸る。
「……なるほどね。僕も先輩の噂は聞いたことがあったよ。まさか、そんな騒動になってるとは知らなかったけど」
「急に言っても混乱させるだけだよな」
「気にしないでよ。どうせなら力になりたいし」
「そう言ってもらえると助かる。……でもまず先に確認すべきことがあるんだ」
そこまで言った後に、俺は一度話を切った。
今日の事件の説明は正直優先度が低い。
別に俺は死ぬほどのダメージを負ってないし、恐らく傷も数日で塞がる。
縫う必要すらない程度だろう。
だがしかし、心配なのは梓乃李だった。
亜実達が動き始めた事で、アイツに被害が及ぶ可能性が出てきている。
俺と違って今の梓乃李に攻撃するメリットはないはずだが、俺との交渉も破談になっている現状。
とりあえず早めに梓乃李の安否を確認しておきたかった。
「羽崎が心配だ」
「確かに、加藤さん達と会わせるのは危険だし、安否確認はしておきたいかも」
「あぁ」
と、すぐに暁斗は俺に連絡を促してくる。
しかし、俺はそれを首を振って断った。
「暁斗からかけてくれ」
「え? いいの?」
「勿論」
こういうのは大切な人間からかかった方が嬉しいだろう。
この世には吊り橋効果というものもある。
「危ない事件の時に私を心配してくれた須賀君カッコいい♡」と思わせた方が得だ。
それに、最初から暁斗に連絡をさせるつもりだったから、わざわざ風呂を待っていたわけで。
スマホを持ったままベランダに出ていく暁斗を見送りつつ、俺はほくそ笑む。
実はもう既に、作戦は考えていた。
暁斗と遭遇して、こうして家に上げてもらって。
そこで閃いた。
――俺はこの事件の処理も本来のモブとしての使命も、その全てをまとめて解決する策を見つけ出したのである。
まさに丁度良いきっかけだった。
これまでなぁなぁで俺の好感度だけ上がりかけていたところを、ようやく元の道に戻す手筈が整ったと言っても過言ではない。
これは、俺の動きで狂ってきたシナリオの進行も含めて、全てを完璧に調整できる作戦なのだから。
そういう意味では、もはや俺が刺された事自体もむしろ都合が良いくらいに、今は思っている。
と、そこで俺のスマホに着信があった。
メッセージならまだしも、電話とは珍しい。
しかしスマホを確認した瞬間、俺は苦笑をせざるを得なかった。
「もしもし?」
『今日あった事を話しなさい』
「……その口ぶり、もう何が起きたかは知ってるんでしょ?」
電話に出るや否や、間髪入れずに本題に入ってくるがもはや驚きもしない。
冷たく無機質なように思えて、どこか情のこもった声だ。
電話越しに、七ヶ条雪海はため息を吐く。
『それでも、話しなさい』
「はいはい」
このタイミングでこの言葉だ。
もう俺の状況なんて、わかり切っているのだろう。
そもそも、今までも散々身辺を探られていたわけだ。
恐らく先程まで七ヶ条家の者に監視されていたのだろうが、ツッコむ気にもならない。
俺の今日の行動は、雪海に筒抜けだったらしい。
或いはここ最近の動き全てが監視下だった可能性もあるが、もうどうでも良い。
淡々と今日あった事を説明すると、彼女はやや間を置いた後に言う。
『……そうですか。では、後はこちらで対処します。貴方は安静に――』
「いや、それは困ります」
勝手に事を進めようとしている雪海を俺は遮った。
意表を突かれたのか、雪海は困惑する。
『は?』
「だから、勝手な事はやめろと言っているんです。俺に策がありますから」
『……策?』
「えぇ。俺を襲った奴も、先輩も、そして羽崎も。全員を救ってみせる作戦を思いついたんです」
俺の頭の中にある作戦は若干賭け要素もあった。
まだ完璧ではないため、抜け落ちているピースもある。
だがしかし、これに関しては上手くいく気配がしていた。
何故なら、俺一人で成し遂げる計画ではないから。
正直、絶対成功させられる自信もある。
と、俺はそこでいつもの調子で電話越しにツッコんだ。
「というか先輩、どうせ俺の代わりに早瀬たちを殺すとか言い出すんでしょ?」
『人をバーサーカーみたいに言わないでくれる? その辺は臨機応変よ』
「その場の状況次第では殺すって言ってるようなもんですよ、それ。でも先輩の手を汚させるわけにはいかないので結構です」
『どういう意味よ』
「この件は超絶クリーンに片付けて見せます」
俺の考える作戦に後ろ暗い要素は一切ない。
なんなら、甘過ぎるくらいだ。
だがしかし、それでいい。
この世界の中心は、俺ではなく主人公なのだから。
それに、復讐に復讐を繰り返しても負の連鎖は止まらない。
「まぁ見ててください。問題を解決するのは主人公の仕事ですから。――では」
言ってすぐに電話を切った。
返事を待つ必要はない。
もう俺の意志は定まっているのだ。
スマホの電源を落としつつ、俺は頷く。
とりあえず、これで雪海の動きも止める事に成功した。
どのみちこちらから連絡しようと思っていたため、向こうからかけてくれたのは手間が省けてラッキーだ。
後はこっちで主人公君と作戦を詰めるだけである。
と、丁度暁斗も安否確認が終わったらしく、部屋に戻ってくる。
「羽崎さん、無事に家に居るって」
「そりゃよかった」
「詳細は話さなかったから訝しがられちゃったよ」
「まぁそれは追々わかる事だから」
「あと、流れで今度遊びに行く約束もしたんだよね」
「あぁ、そう」
さらっと言われて若干顔が引きつった。
コイツ、流石はエロゲ主人公だ。
こんな時にまでデートの約束立てとは、流石にモノが違う。
どうせならその器量をフラグ立ての時に発揮して欲しいのだが、まぁここは目を瞑ろう。
それと、なんだか少し寂しい気分になった。
梓乃李と居る時間が長かったせいで、情が移ったらしい。
すっかり暁斗と良い仲そうな梓乃李に、嬉しいようななんというか、複雑な心境である。
「で、これからどうする気なの?」
聞いてくる暁斗を、とりあえず俺は前に座らせた。
そして満を持して、告げる。
「じゃあ暁斗、作戦を聞いてくれ――」
ここから先は、モブと主人公の共同作業だ。
俺の計画に、暁斗は目を見開きつつ、うんうんと頷く。
たまに口を挟んだり、補足したりしてくれながら、二人で意見をまとめていった。
しばらく経って日付も変わった辺りで、暁斗が手を打つ。
「ほんと、凄い事考えるね」
「いや、暁斗の顔の広さにも助けられたよ」
「まぁいいや。こんな大仕事、任せてもらえて嬉しいよ」
俺達はそこで笑い合い、手を握り合った。
ここからは、久々の大仕事である。
「でもいいの? 僕なんかで」
「いや、お前じゃなきゃいけないんだ。俺の言葉は、届かないから」
「そんな事ないと思うけどね。でもまぁ、わかったよ」
最後に確認してくる暁斗に、俺は笑って首を振った。
これまで散々思い知らされたことだ。
亜実達へのハッタリも、雪海への説得も。
全て俺如きじゃ、上手く立ち回れなかった。
俺がいくら原作基準でのトゥルールートに運ぼうと動いたところで、結局モブ如きでは舐められて雑に流されるだけだ。
だからこその、主人公なのである。
ようやくカッコいい顔つきになって来た暁斗に、俺は感心した。
そして確信する。
この作戦でいいのだ、と。
週明け月曜の放課後。
そこで俺は、この腐った世界の全てを元ある場所に戻してやる。




