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第3話 浮かれポンチな破滅ヒロイン

「一旦順調、か」


 帰宅後のこと。

 自室にて、俺はコーヒーを片手にノートを見る。

 書かれているのは、記憶にある範囲のゲーム内シナリオだ。

 その中でも今日、4月15日のイベントを見返す。


 今日は梓乃李と暁斗がデートの予定を立てるという、梓乃李ルートまでのまず第一の関門だった。

 これに関してはなんとか俺が繋ぎ止める事に成功した。

 

 梓乃李に接触した後、俺は慌てて暁斗の方ともコンタクトを取った。

 そこではテキトーに梓乃李の事を喋り、それとなくデートの約束を取り付けるように助言したのだ。

 そのおかげか、気が変わった暁斗は梓乃李に改めてデートの誘いをし直した。

 梓乃李はこれに笑顔で承諾。

 バッドエンド直通だったシナリオは俺の介入により、なんとか梓乃李ルートへのレールに戻すことができたのである。


 我ながら、良い働きっぷりだったと思う。

 そして何より、全能感と安心感に満たされている。

 これなら、いけるかもしれない。

 梓乃李を救い、俺の巻き込み死亡エンドまで回避できる可能性が上がったのだ。

 一旦喜んでおこう。


 しかしながら、暁斗の挙動に関しては要チェックだな。

 どうやらこの世界線の主人公君は行動がかなり鈍感っぽいので、俺が見張っておかないといつ地雷を踏むかわからない。

 今日のイベントはなんとか強引に繋げたが、次はわからない。


 次は来週の月曜日だ。

 梓乃李がついにいじめの決定的な被害を受け、それを主人公が助けるという一大イベントが起こる。

 いくらデートの約束を結ばせたところで、根本的ないじめ問題を解決できなければ個別ルートに入ることすらできない。

 加えて、梓乃李というヒロインに関しては『さくちる』のゲーム性がそもそも、個別ルートに入らない=死である以上、彼女のいじめ問題を潰すのは至上命題と言える。

 これに関しても、俺が動くしかなさそうな気配がしている。


 ちなみに俺は今、一人暮らしをしている。

 転生体という事もあり、年不相応な言動が多かったため、気味悪がられて親とはあまり仲が良くないからな。

 半ば追い出されたような形だが、かなりの額の仕送りをもらっているので不満はない。

 自由に過ごせるため、むしろありがたいくらいである。


 なんて思っていると、珍しくスマホにメッセージが入る音がした。

 チェックしてすぐに俺は目を見開く。


『今日はありがとう』

『豊野君って優しいんだね』


 入っていた二件のメッセージはどちらも梓乃李からだった。

 連絡先を交換した覚えはなかったのだが、恐らくクラスグルから追加したのだろう。

 今日の会話で嫌われたと思っていたが、そうではなかったのか。

 予想外の事で、意表を突かれた。


 しかしさらに驚いたのはこの後だ。

 テキトーに返信していると、画像メッセージが新たに二つ送られてくる。


 一つはビッグシルエットのデニムジャケットにタイトスカートを合わせた、カジュアルなコーデの写真。

 もう一つは対照的にお淑やかな白のワンピースに、春らしい桃色のカーディガンを合わせたコーデの写真だ。

 どちらも着ているのは梓乃李。

 姿見に映る姿を、器用に顔だけ隠したアングルで送ってきた。


「なにこれ」


 困惑していると、続け様に『どっちが好き?』と質問が飛んでくる。

 どうやら、今週末の暁斗とのデートのコーデを俺に聞きたいらしい。

 昼の奔走も報われるお熱い関係性で俺としては安心なのだが、それはそれとして若干うざったい。


「まぁどっちかと聞かれると、俺はデニムジャケットの方が好きかな」


 素直に答える。

 するとすぐに返信が。


『ありがとー』

『じゃあワンピースの方にするね笑』


 あまり人の事を舐めるなよ、とスマホをつい握りつぶしそうになった。

 

「こいつ、完全に俺の事をおもちゃにしてるな」


 余程デートの約束ができて嬉しかったのか、テンションの高さが窺える文面だ。

 絡まれる俺としてはこれまた複雑である。

 二人の関係をすぐ近くでチェックできて助かるというのは事実だが、目の前でイチャイチャを見せられるのもかなりイラつく。

 というか、俺の好みに文句があるなら最初から聞いてくるなよ、とも思った。


 とりあえず『どういうつもりだ』と抗議のメッセージを送っておいたが、浮かれポンチな年頃乙女にとってはこれも燃料だろう。

 今頃きっと目に涙を浮かべながら笑い転げているに違いない。

 

 ジト目をスマホに向けていると、梓乃李から追加で可愛らしい猫のスタンプと共に新たな文章が送られてきた。


『今度お礼にジュースでも奢るから許して』


 随分安いお礼だが、まぁいいだろう。

 

 俺はスマホの電源を切り、ベッドに仰向けに寝転がる。


 そして思った。


「……いや待て。なんか俺と梓乃李も順調に仲良くコミュニケーション取れちゃってね?」


 暁斗との関係値を修復させるために慌てて話したが、そのせいで俺が梓乃李と仲良くなってしまったような気がする。

 今だって楽しくやり取りしてしまったし、これはモブの行動としてどうなんだ?

 

 ここで一度、今まで考えもしなかった可能性について想像してみる。


 もし万が一、億が一にも俺と梓乃李が良い感じになったとして。

 そうなると暁斗と梓乃李は結ばれなくなる。

 すると、梓乃李は多分死ぬ。


 ――飛び降り・心中・幼馴染との不自然な死・第二の彼氏候補……。


 俺の頭の中で、不穏なキーワードが踊り始める。


「いや、まさかな。はははっ」


 不安が具体化し始める前に、首を振って布団をかぶった。

 とりあえず、俺はモブに徹して暁斗と梓乃李の関係を応援するだけだ。



―◇―


【羽崎梓乃李】

暁斗への好感度:80%(→)

響太への好感度:50%(↑)

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