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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海


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第28話 モブ陰キャは今日も試されている

「はぁ……」


 気が重いまま引き摺った翌日の事。

 机に肘をついてため息を吐いていると、影が落ちてきた。


「どうかしたの?」

「あぁ……羽崎か」


 そこには梓乃李が心配そうに立っていた。

 俺の反応を見てから、少しいじけたような顔を見せる。


「何その反応。他の女の子じゃなくて残念?」

「……別に俺、そんなに女好きじゃないんですよ?」

「ふーん」

「信じてないだろ。……大体、俺が幼稚園からここまで一度だって女絡みで盛ってたことがあったか?」

「ないね。皆無。そう言えば」

「……」


 流石は幼馴染。

 十年以上の関係性だからこそ、説得力がある言い訳だった。

 即答されたのは若干イラつくが、そこは気心の知れた仲という事で大目に見てやろう。

 ……いや、ここ最近までほとんど話したこともなかったのに、仲もクソもないな。


「っていうか凄い顔してたよ? 白目向いて、涎垂らして」

「マジ?」

「うん」


 疲れた時に黒目が消滅する癖は直した方が良さそうだ。

 ドン引きした様子の梓乃李を見て俺はそう思った。


 しかしまぁ、落ち込むなと言われても無理な話である。

 昨日の雪海の話を聞いて気楽に過ごせたら、それはそれでどうかと思う。

 問題の根は深いし、そもそも俺の言葉如きじゃ雪海の復讐欲にブレーキをかけることができない気配もしている。

 やはり、主人公である暁斗の言葉でなければいけないのだ。

 とは言いつつ、その暁斗はまだ雪海に名前すら認知されていないわけで。

 これは例の勉強会を通して、早急に接点を持たせなければいけない。


「ねぇ、ほんとに大丈夫? 体調悪いなら保健室でも行く?」

「いや、授業中は寝るから大丈夫」

「なんでそれで成績良いの?」

「知っての通り、幼少期から天才気質なので」

「うわー、うざ」


 優しくされて、つい茶化してしまった。

 ただ、梓乃李に迷惑をかけるわけにはいかない。

 俺が裏で何をしているかは、梓乃李には特に知られるべきではないからな。

 雪海のイベントで参っているとは言え、あくまで俺が一番気にすべきなのは梓乃李だ。

 変な揉め事に巻き込んで、これ以上事態を複雑にするのは是が非でも避けたい。


 いつものような軽いやり取りした後、伸びをして気持ちを切り替える。


 と、俺はそこで羽崎が持っている筆箱に視線を移した。

 最近たまに視界に入る、新しい筆箱だ。

 あの一件のせいで元の筆箱はゴミになったため、どうやら買い替えたらしい。

 数日前からこの新しいのを使っていた気がするが、一体どうしたのだろうか。


「筆箱、可愛いの買ったんだな」


 俺が触れると、彼女はハッと驚いたような顔をして、すぐに俯く。


「……気付くんだ」

「当たり前だろ。なんなら数日前から気づいてたし」

「じゃあすぐに言えばいいのに。……この前、須賀君と買いに行ったんだよ」

「ほぉ」


 そう言えば、最近は結構距離が近そうな二人だ。

 一時は梓乃李が興味を無くしそうになっていたし、冷や冷やしていた。

 しかし少し間を置いてみれば、暁斗との仲はまた復活したらしい。

 筆箱を一緒に選んだという事は、どこかでデートしたという事である。

 いやはや、これで俺の気苦労も報われるな。

 

 なんて考えていると、梓乃李がじっと俺の顔を見てくる。


「……どう、思った?」

「は?」


 要領を得ない質問に首を傾げる俺。


「どうって……今回は金属製じゃなくて布製で、これはこれで可愛い趣味してるなーとしか」

「っ! ……そういう話、してないんだけどなぁ」

「……」


 ちょっと待て。

 雲行きが怪しいぞ。


 俺が喋るごとに顔を険しくさせる梓乃李に、冷や汗が滲む。

 なんだか試されているような視線だ。

 まるで『他の男の子と遊んできたけど、君はどう感じた?』くらいの意味合いを感じ取ってしまうのだが、流石に自意識過剰だろうか?

 はっきり言って、嫉妬させようとしてきているようにしか見えない。


 最近の俺と梓乃李との距離は離れ気味ではあった。

 逆に暁斗と一緒に居るのはよく見た。

 一瞬の気の迷いを忘れ、本来の純愛ルートに向かっているのだと、俺はそんな風に捉えていたくらいだ。

 だがそれが全て、俺の反応を見るための工作なのだとしたら……。


 いやいや、考え過ぎだ。

 原作通り、梓乃李は暁斗とくっつきつつある。

 その事に対し、梓乃李は第三者の客観的な意見を求めているだけだろう。

 『一緒に筆箱買いに行ったんだけど、これって良い感じに見える? 須賀君は脈ありって事で良いんだよね?』くらいの確認に違いない。


 質問の意味について慎重に考え込む俺。

 と、無言の間に流石に気まずくなったのか、梓乃李は慌てて手を振った。


「べ、別に深い意味はないから! じゃあね!」

「お、おう」


 すぐさま自分の席に戻る梓乃李。

 彼女はそのまま、隣の席の暁斗と談笑に戻って行った。

 ふむ。


 しかし、アレだな。

 ……なんかちょっともやっとしたぞ。

 暁斗と梓乃李が俺の知らないところでデートか……。


 あ、でも別に変な感情はないですよ?

 娘の嫁入りを見送る親心とでも言ったところだ。

 いやほんとに。

 そうに違いない。


 誰かに弁明するようにうんうんと頷いていると、次は別の女に声をかけられた。


「あれ、浮気発覚して詰められてた?」

「どこから否定すればいいんです? それ」


 毎度の如く俺と梓乃李の関係を揶揄ってくるのは季沙である。

 視界の中で、ポニーテールがぴょこぴょこ揺れた。

 それを見て思い出す。

 ぼーっとしている場合ではないのだ。

 俺はコイツに聞こうと思っていたことがあった。


 雪海の件に関して、俺は本人の口から聞いた話とゲーム内の知識でしか知り得ない。

 しかし、陽キャの季沙ならどうだろうか。

 情報通っぽいし、何か別の筋から情報を知っているかもしれない。


 というわけで、雪海について聞いてみると。


「あー、七ヶ条センパイがエグい事件に巻き込まれたって噂、うちも聞いたころあるわー」

「マジか」

「うん。それでセンパイ、一週間くらい欠席してたんだって。事件の真偽は知らないけどね。ただ、実際に同タイミングでセンパイの悪口言ってた連中が四人同時に退学したのは知ってる。しかも他校でも何人か急に学校来なくなった人いるらしいから、多分マジの話っぽい」


 やはり思った通りだった。

 欲しかった情報を得られて、俺はほっとする。

 原作シナリオや本人の口からも聞けない生のゴシップストーリーは、意外に貴重だからな。


 聞き入る俺に、季沙は首を傾げる。


「でも急にどしたん」

「いや、最近あの人と話す機会もあって、噂も少し聞いたからさ。何か俺にできることがないかなーと思って」


 誤魔化したが、かと言って嘘でもなかった。

 実際、俺だけの力ではフォローし切れていない。

 暁斗をぶつけるのが一番なのだが、俺ももう少し力になってやりたいのである。

 正直、これはもはやシナリオとか関係なしに、人間としての感情論だ。

 

 俺の言葉に季沙は一瞬目を丸くした後、すぐにいたずらな笑みを浮かべた。


「やるじゃん。流石女たらし」

「そんなんじゃないって」

「はいはいわかってるよー。でも、よく考えたらちょっと似てるよね。この前のとよちんの噂と」

「何が?」

「いじめとかそういう、ヤバい事してた人が一斉に退学するって事案の事」


 言われてみれば確かにそうかもしれない。

 しかし、実情は大違いだ。

 俺は精々ネットに晒すと脅して、自分の身を若干犠牲にしたお粗末な手口。

 対して雪海の方は、お家が本気で社会に根回しして、警察をも無効化した状態で口封じに動いた本気の組織制裁。

 内情を知っている俺としては、格が違い過ぎて失笑が漏れるレベルである。


「……で、どんな事が七ヶ条先輩のためになるかな。やっぱり、復讐したいとか思うものなのかな?」


 さりげなく本質を混ぜて聞くと、季沙は唸った。


「うちはほとんど事件の真相は知らないけどさ。聞く限りレイプ未遂だったらしいじゃん? だったらまぁ、殺したいくらいには憎いだろうね」


 普段お茶らけた彼女の言葉だからこそ、『殺したい』という言葉に重みがある。

 しかも等身大の同じ女子高生なわけだ。

 俺なんかよりも、余程共感した言葉と言える。

 その上で『殺したい』という選択肢があるのなら、やはり俺みたいなモブ如きに雪海を止めさせるのは不可能なのかもしれない。


 と、黙り込む俺に、季沙はふっと薄い笑みを見せた。


「でもどうするの? センパイが仮に殺したいって言ったら、とよちんは加担して殺しを手伝ってあげるの?」

「……馬鹿な事を言うなよ。やるわけないだろ」

「相手ってほぼ反社の大学生とかだろうしね。ま、流石のとよちんも危ない橋は渡らないか」

「……高校生のガキにできる事なんか、何もないからな」


 言いながら思う。

 具体的な策を持ち得ないのは一般庶民の俺だけで、雪海は違うのだろう。

 明確に自信を持って計画しているし、彼女が動くなら相手が誰であろうと戦えそうだ。


 俺が再び考え込んでいると、そこで季沙は明るく笑った。


「だよねー。あはは。でもま、気を付けなよ。うちらはただの子供なんだし、危ない事に首突っ込むと痛い目見るからさ」

「そうだな」


 痛いほど理解している言葉に、俺は再度頭を悩ませる。

 すぐに別の友達と話しに行く季沙の後姿に、何故か視線が奪われた。


 うーん、なんだろう。

 何かを見落としているような気がするんだよな。

 だけどそれが何かはわからない。

 正直、考え過ぎて頭がぐちゃぐちゃだ。

 何故か心がざわついているが、それが指すものが掴めない。


 しばらく考えてみたが、結局この場では自分の行動の最適解なんて、見つかるわけもなかった。

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