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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海


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第27話 お嬢様のバイオレンスお悩み相談

 『さくちる』のストーリーの中でも、恐らく一番闇が深いのは雪海の暴行事件だ。

 本人のヘイトが高過ぎる故に流されがちだが、作中で殴る蹴るの暴行を受けているヒロインは雪海のみ。 

 だがしかし、あくまでそれはゲーム内で語られるシナリオの情報に過ぎない。

 内情は、想像より遥かに人間の醜悪さが窺えるものだった。

 

 静まり返った密室の中。

 俺は改めて、詳細に集団暴行事件の話を聞いた。

 正直『さくちる』のプレイ記憶がある俺にはほとんど既知の話だったが、中には少々耳寄りな情報もあった。


「……犯行グループって学生なんですよね? 七ヶ条先輩の家が犯人全員の家族ごと潰したって言ってましたけど、それは一体」


 暴行は高校生十名弱の集団犯行である。

 ここ明嶺学園の生徒もいれば、他校の生徒もいたり、学年もバラバラで幅広い。

 学内生徒の雪海への敵対が発端とは言え、それが次第に『美人で有名なお嬢様を集団レイプできるってよ』的な解釈になって仲間を集ったそうだ。

 しかし、重要なのは犯行が起きたその後である。


 雪海は暴行事件の後始末を語る上で、ぼかしてはいたが『家の力を使って実行犯にその家族諸共制裁を加えた』と話していた。

 ゲームでは詳しく語られなかった内容なので、少し興味が湧く俺。

 俺の問いに、雪海は若干都合悪そうに表情を曇らせる。


「犯人のうち一人は、父親が七ヶ条グループの傘下企業に勤めていたので、人事に話を通して解雇させたそうです。勿論、再就職もできないように手を回したと聞き及んでいます」

「そ、そんなことできるんですか?」

「えぇ。七ヶ条は顔が広いので、そのくらいは容易い事です。そしてその解雇をきっかけに路頭に迷った彼は自殺したらしく、母親はそれを受けて精神病を患って現在入院中。当の本人は生活のために高校を中退して現場職に就いたのだとか」

「……」


 いきなりヘビー過ぎて面食らった。

 予想はしていたが、本当にとことんやる事をやっていた。

 流石は七ヶ条グループ。

 やはり敵に回すのは恐ろしい人だ。


 俺みたいな庶民の価値観では想像もできない攻撃が、水面下で行われていたらしい。

 戦慄している俺を他所に、雪海は続ける。


「二人目はそもそも高校をサボり気味だったので、裏回しして退学処分に。しかし転校してからは日常生活に戻り、今は大学に入学しているそうです」

「え、なんかその人は普通ですね」


 退学処分も十分だが、一人目がグロ過ぎて霞んで聞こえた。

 大した制裁を受けていない気がして拍子抜けする俺。

 と、そこに雪海は冷たく言った。


「いえ、入学後に反社会的グループとつるみ始めたそうなので、決定的に()()()きっかけが得られるまで泳がせているだけです。仲間の大半を集めたのも彼が起点だったので、エサが釣れるのを待っていたまで」

「囮捜査って奴ですか……?」

「この場合は泳がせ捜査でしょう。次に三人目ですが、こちらは部活に精を出していた生徒でした。大会成績も優秀だったため、プロを目指していたのだとか。ですが、退学処分にさせた事で絶望して自ら命を絶ったそうです。余程スポーツの道が潰えたのがショックだったのでしょう」

「えっ?」


 驚いた。

 てっきり犯人集団は全員存命だと思っていた。

 雪海の目的が犯人集団を全員消す事なのは知っていたから、既に欠けがあったとは思わなかったのだ。

 原作でもこんな情報は出てこなかった。

 完全に、七ヶ条家の中でのみ知られる極秘情報なのだろう。


 既に命を絶ってしまった人もいたと知り、気付けば俺は姿勢を硬直させてしまう。

 緊張感が一気に高まった。

 冗談めかして『人死にがリアルタイムで出そうだ~』なんて考えていたが、全然笑い話じゃなかった。

 心のどこかで、自分がシナリオを弄れば誰も死なずに済むと思い込んでいたのである。

 しかし、実際はもう始まっていた。

 

 自分が首を突っ込まされている事件の重さが、雪海の一言一言によってその都度わからされていく。

 そして俺の反応などお構いなしに、雪海は続けた。


「四人目ですが、こちらは私との件が噂として()()漏れ出たらしく、転校を余儀なくされたそうです。しかし地方に移ったはいいものの、その地で()()()不良に構われて今は不登校の引きこもりになったのだとか」

「偶然? 運悪く? そんな事あるんですか――?」


 この件は七ヶ条が完全に闇に葬っているはずだ。

 多少の噂は流れても、犯人が特定されて日常生活に支障をきたすレベルになるわけがない。

 そう思って聞いたのだが。


「何か?」

「いえ、なんでもないです」


 冷たい声音でぴしゃりと言われ、思わず首を振ってしまった。


 怖い。

 怖過ぎる。

 予想はしていたが、やはり重すぎて首を突っ込みたくない事件だった。


 その後も犯人集団の現状を聞かされたが、全員退学したか不登校になっているか、()()()()()()()()()()()()()かのどれか。

 明言は避けられていても、その全てに七ヶ条が関わっているのはわかる。


 しかし、だ。

 ここまで聞いても、どこまで雪海の意志があったのかは不明である。

 今まで聞かされたのは全て、あくまで七ヶ条の家がどう動いているかという説明。

 雪海が手を回した話なんて、一つもなかった。


 そして恐らく、この始末に雪海は無関係なのだろう。

 淡々と語る雪海の口ぶりからは、満足感が見えない。

 あくまでこの制裁は家の決定で、だからこそ雪海の復讐は終わるどころか、始まってもいないのだ。


 彼女の生の声に、俺はようやく全容を把握してくる。

 雪海が何故ここまで復讐にこだわるのか、その理由に繋がる道筋が見えてきた。


「お菓子食べません?」

「……チョコを取ってくれる?」

「どうぞ」


 流石に暗い話が続いて気が重くなってきたので、一度雪海にお菓子を渡す。


「……貴方、凄いわね」

「何がです?」

「よくこのタイミングでお菓子を食べようとできるなと思って」

「このタイミングだからですよ」

「……本当に貴方は人の調子を狂わせる天才ね」

「褒め言葉として受け取ります」


 一度休憩し、テキトーにやり取りする。

 部屋の中に甘い匂いが広がり、少しだけ気が和らいだ。


 と、菓子を飲み込んでから俺は口を開く。


「話してくれて、ありがとうございました」

「……自分の気持ちを、整理するためでもありますから」


 どんな理由であれ、相談されること自体は嬉しい。

 それだけ認められている証明だからな。

 梓乃李という爆弾処理に追われていなければ、普通に誇らしかっただろう。


 雪海は一息つくと、本題に入った。


「今現在、二人目の泳がせていた男が怪しい動きを見せているのです。動くなら今しかない。しかもその彼の年下妹弟(きょうだい)が本校へ通っているらしく、足掛かりは既に作っています。私ももうそろそろ受験ですし、早めに不安因子は取り除いておきたい。……それに何より、もう過去とも決別しないと」

「妹弟ってそれ――」


 言おうとして、俺はすぐに口を閉じる。

 良く見ると雪海の唇は震えていた。

 それを見て、目を逸らしてしまう。


 良く見ると雪海の唇は震えていた。

 俺はそれを見て、目を逸らしてしまう。


 当然だよな。

 いくら強い心を持っているお嬢様だとしても、所詮17歳の子供である。

 強姦寸前の暴行被害など、そう簡単に忘れられるものではないだろう。

 特に雪海のようなプライドの高い人間にとっては、消し難い記憶のはずだ。


 俺はここで話を纏める。

 

「要するに、自分の意志関係なく家の決定で行われた生ぬるい制裁には満足できないから、七ヶ条とは別に自分で動いて、過去と区切りを付けようって事ですよね?」

「……えぇ」

「だけど、それで先輩は具体的に何をするつもりなんですか?」


 気持ちは分かった。

 共感もできる。

 だがしかし、頷くわけにはいかない。

 俺の問いに、雪海は目を細めて射抜くような視線を投げてきた。


「わかっているでしょう? ……殺すのよ」

「……ダメですよ、絶対」


 相手がやった事は許されざる行為だ。

 とは言え、復讐に殺人をすることも絶対に許されない。

 これは、倫理の問題なのだろうか。

 慎重に答える俺に、雪海は鼻で笑った。


「警察の動きは家の名前で封じ込められますし、そもそも極秘裏に進めるので問題はないですよ。……倫理問題を指摘するのも的外れでしょう。気に入らない相手を集団で暴行して、あまつさえ性欲の捌け口にしようとする野蛮な家畜集団に、何の配慮が必要なのですか」

「どんな屑にも人権はありますよ」

「そこが間違っているのでは? 本来幸福尊重の象徴であるはずの人権が、今の世の中では人を害した際の免罪符として機能している。じゃあそんなものなくなって仕舞えば良いのに」


 とんでもない事を言い始めるが、気持ちはわからなくもない。

 しかも俺は、雪海の葛藤をゲームのシナリオという面でも知っている。

 この先、雪海は暁斗と付き合う個別ルートに入ってもなお、たまに魘される描写が入っていた。

 心の奥深くまで侵食し切ってしまっていて、完全に癒えることなんか一生ない。

 できる事があるとすれば、誰かが隣で寄り添う事くらいだ。


 きっと、家では今も泣く夜だってあるだろう。

 それがわかっているから、簡単に彼女の言葉を否定することは、難しかった。


 だが、やはり復讐が何も生まないのも事実だ。

 『さくちる』のプレイ記憶によって俺は、彼女の心情を把握しているのと同じく、この復讐の先に待っているのがバッドエンドだという事も知っている。

 もし暁斗が雪海の復讐を肯定してしまった先には、彼女が殺人に手を染めてしまう未来があるだけだ。

 それがわかっていながら、GOサインを出すわけにはいかない。


「でも先輩にも、私刑する権利はないですよ」


 権利というワードから切り口を見つけると、彼女は鋭い視線を向けてきた。

 そして俯く。


「じゃあ、私の尊厳はどうなるのよ」

「……」


 不意に発せられる弱々しい声に、俺は言葉を失った。


 ダメだ。

 やっぱり、俺には雪海の心を晴らすことなんかできない。

 きっとこの役目は主人公じゃなければ、ダメなんだ。


「……そんな作戦に乗ってたら、テスト勉強できなくなっちゃうじゃないですか」


 一度断った俺への、雪海の恐らく最後の頼み。

 そして既に原作から大きくかけ離れている展開。

 俺はどう答えるべきか、答えを即座に出せない。


 苦し紛れに返事から逃げる事しか、俺にはできなかった。




―◇―


【七ヶ条雪海】


暁斗への好感度:――

響太への好感度:43%(↑)

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― 新着の感想 ―
被害者を前にして復讐の無意味さを説く事の、なんという虚無感…… と思ったら好感度上がっとるやないかーーーーい!
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