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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海


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第26話 美術室に先輩と二人きり……何も起きn

 その日の掃除時間。

 美術室内で作業をしていた雪海に、俺は早速話を通した。

 そして。


「へぇ。私の頼みは断っておいて、自分には従えと?」

「あ」


 開口一番、これは無理な雰囲気だと踏んだ。

 何故なら雪海が、物凄く妖艶で魅力的な表情をしていたから。

 別の言い方をすると、目に殺気が籠っているとでも言うのだろうか。

 どっちみち、この表情の雪海はダメだ。

 なんなら握り拳も作っているし、バイオレンスな匂いがする。


「あ、あの。取り下げます。すみませんでした」

「いえ、付き合いますよ」

「え?」

「何を驚いた顔をしているの? 貴方が言い出した事でしょう?」

「それはそうですけど……」


 じゃあその左拳は何だと言いたかったが、振り抜かれるのが怖かったので言えませんでした。

 雪海は戦闘力も高いタイプのお嬢様なので、本当に洒落にならない。


「本当に良いんですか?」

「えぇ。快諾すると言っているの」

「あの、俺の知ってる快諾とは意味が違うかも」

「不快感を忍んでの承諾です」

「あ、やっぱり違うっす」


 首を振る俺に、そこで雪海はようやく笑みを見せた。

 ただの茶目っ気だったらしい。

 数日前までは睨み合いの毎日だったため、こうした反応にもまだ慣れない。

 若干は心を開いてくれたようで、何よりなのかどうなのか。


 と、俺達のやり取りを見ていた季沙が震える。


「ま、マジで女たらしだ……」


 この一瞬に何を見たのか、随分と酷い評価をされたようだ。

 しかし、言いたくなる気持ちもわからなくはない。

 難攻不落と言っていい鉄壁のお嬢様とモブが談笑する姿は、さぞ異様だろう。

 もっとも、難攻不落というか誰も攻め入らないだけだったのだが。

 なんなら、今のやり取りは談笑ではなく愛想笑いの睨み合いだが。

 さながらほぼ冷戦状態である。


 俺は箒で掃きながら、雪海に言った。


「っていうか先輩、邪魔なんですけど」

「は?」

「掃除するから、奥の部屋に籠っててもらえませんか? ゴミを纏められないです」


 堂々と作業机を占領されているため、かなり邪魔だ。

 箒も通らないし、普通に鬱陶しい。


「……貴方、相変わらず先輩への態度というのがなってないんじゃないの?」

「何でもいいですけど、ほらどいて」

「……後で覚えておきなさい」


 ”後で”がいつを指すのかは知らないが、また機嫌を損ねたようだ。

 でも邪魔なんだから仕方ない。

 それに、少々好感度が上がり過ぎているきらいがあるからな。

 ここはウザい後輩感を出して良い感じに嫌われておこう。

 几帳面でプライドが高い雪海の事だし、ウザい系後輩は地雷と見た。

 仲良しフラグは適度に折らせていただく。


「ほらほら、早くしないと先輩の事も奥まで片付けちゃいますよー?」

「やれるものならやってみなさい」

「……」


 しかし、何故か立ち上がって顎で促してくる雪海。

 え、なにこれ。

 どういう状況?


 意味不明な展開過ぎて、俺は困りながら箒でこつんと先輩を突いた。

 お望み通り、お掃除してあげたのだ。

 すると次の瞬間――


「誰が箒で突けって言ったのよ!」

「――ぅぐふッ!」


 先程握りしめられていた左拳が、見事に俺の鳩尾に振り抜かれた。

 悶絶しながら蹲る俺。

 雪海はそれを見下ろしながら、ふんっと奥に消えていく。


 ……マジで何なの? ほんとに。


 自分がやれって言ったくせに、なんで殴られたんだよ。


 込み上がる胃液を必死に抑え込む俺。

 と、そこにまた季沙の独り言が聞こえてくる。


「もう隠しもせずに堂々とイチャついてるじゃん。ヤバ。しのりんに報告しとこ」

「……はぁ、はぁ。それだけは、やめて……」


 感心したように放たれる季沙の的外れな言葉を聞きつつ、俺は涙を流すのであった。





 掃除終了後、俺は買い出しに出ていた。

 いや、違うな。

 出させられていた。

 命令主は勿論雪海である。


『備品が切れたので買い出しをお願いします』


 との事だ。

 俺はパシリでも何でもないはずなのだが、断ったらその後が怖いので従うしかない。

 それに先程の勉強会の件もあるため、罪悪感もあって今に至る。

 

 買わされたのは画材等ではなく、何故かお菓子。

 雪海曰く、創作には糖分が必要不可欠なのだとか。

 大量のお菓子が入ったビニール袋を抱えながら、学校まで帰ってきた。

 

 美術室に戻ると、雪海はまた作業に戻っていた。

 今は小さな画用紙のようなものに、鉛筆で薄っすら線を引いている。


「戻りました」

「早かったですね」

「まぁすぐそこのスーパーですし。それよりも、何を描いてるんですか?」

「下描き案です。イメージは湧いた時に残しておかないと、すぐに忘れてしまいますから」

「なるほど」


 そう言えばこの人、普通に美術の凄い人だったな。

 すっかりエロゲの印象や気性の荒さに気を取られていたが、その筋では名が知れた先輩だったのを思い出した。

 ラフの線だけでも勢いが伝わってきて、なんだか感動する。

 美術品には興味がないし、俺の好きな絵は二次元の美少女くらいなものだが、こうして見てみると普通に良い物だ。


 ぼーっと鑑賞していると、雪海がため息を吐く。


「というか、なんでしたっけ。私に中間考査の対策勉強に付き合えと?」

「あ、あぁそうです。先輩が頭良いのはみんな知ってるから、ぜひご助力いただけないかなぁと」

「貴方が教えれば良いじゃない。成績はかなり優秀だったと思うのだけれど」

「仮にそうでも四人は面倒見れません」


 梓乃李は良いとしても、季沙・暁斗・右治谷の三人は普通に成績が悪い。

 俺一人では手に負えない。

 雪海を呼ぶための建前ではあるが、実際俺も一人でアイツらの世話をするのはごめんだ。

 

「私で良いのなら、構いませんけど。……後悔しても知りませんよ?」

「いやいやそんなぁ。先輩に教われるのに後悔なんてしませんよ!」

「……そういう噓臭いところが癪に障るのよ」


 笑顔で胡麻を擦ってみるも、心底気分を害した様子であしらわれた。

 チョロインではないため、煽て作戦は失敗。

 好感度調整という点では成功だが、なんだか負けた気がする。


 なんて話していると、雪海が立ち上がって手招きしてきた。


「少しこちらで話しましょう」

「……中、入って良いんですか?」

「どうぞ」


 美術室の奥。

 扉の裏にある個室へ初めて案内され、少し心が躍る俺。

 今まで掃除時間も立ち入りを許されなかったし、なんだか少しわくわくする。

 未知の世界にテンションを上げつつ、俺は雪海の背中を追った。


 中に入ると、そこは完全に雰囲気の異なる別世界だった。

 

「すっげ……」


 入ってすぐに視界に入ったのは大きなキャンバスだ。

 色鮮やかな絵の具が乗り、見る者を一瞬で取り込むような魅力的な絵。

 その周りには作業台があり、少し意外なPCやモニターなんてのもある。

 部屋の外周をずらーっと立ち並ぶのは本棚で、教本から画集など、幅広い本が揃っていた。

 

 倉庫的な場所を想像していたが、これは真逆だ。

 アトリエという言葉が真っ先に思いつくような、そんな空間だった。

 だがしかし、すぐに俺は目敏くその部屋の不自然さに気付く。


 ハンガーに掛けられた大量の部屋着。

 そしてコスメやサプリなどが散乱した机。

 他にも床には雑誌が散らばっていたり、絵画制作とは全く関係ないような受験教材等も落ちている。

 よく見ると、完全に私物化されていた。


「先輩……片付け苦手なんですか?」

「よ、余計なところは見る必要ないでしょう?」

「一応学校の中なんだから私物化は……」


 まぁ私立だし、七ヶ条のお嬢様だから、学校側も容認しているのかもしれないが。

 それでも俺としてはジト目にならざるを得なかった。


 と、そこで雪海が何故か部屋の鍵を閉める。


「え? なんで閉めたんですか?」


 身の危険を覚えて聞く俺。

 雪海はそれに答えるように、部屋の中でゆっくり俺に近づいてきた。


「それは、外に情報が漏れるのを防ぎたいから」

「……どういう意味ですか?」

「先日の話の続きをするだけです」


 具体的には言われなかったが、嫌でもわかる。

 雪海を襲った連中への復讐の件だろう。

 前回断った話だが、勉強会の件で一方的に要求を呑んでもらった手前、逃げるわけにもいかない。

 

 俺は観念して、その場に留まるしかなかった。

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 ……お姫様抱っこて、奥に「片付ける」!
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