プロローグ
「ピピピ!」
聞きなれた音がする。枕元に手を伸ばし、アラームを止める。そのまま顔の近くまでスマホを引き寄せ、電源を入れた。
画面には真っ黒な背景に『5:30』の文字が表示されている。
「もう朝か」
そんな言葉を吐きながら、おもわずため息が漏れる。ついさっきまで、カナと何気ない会話をしながら、散歩をしていた。もう細部までは思い出せないが、そんな幸せが全てまやかしだったことに気づいてしまったからだ。
「なんでだよ」
おもわずそんな言葉も続いて漏れてしまう。
ユウマには、大学生の頃から付き合っていた彼女カナがいた。容姿がそれなりに良く、少し世間知らずなところがあるが、笑顔が似合うそんな彼女だった。
大学卒業を期に社会人になったユウマに対して、カナは1年遅れで社会人となる選択をした。そんな中で、カナは夜のアルバイトを始めた。
社会人と学生という立場の違いはあったが、ユウマは、ややブラック会社の激務をこなしながら、精一杯カナのことを大事にしていたつもりだった。
しかしつい先月、
「ごめん。別れよっか」
突然、カナからの死刑宣告がなされた。
理由を聞いてもなんとも曖昧な返答が返ってきた…気がする。もう記憶がない。まだまだカナにぞっこんだったユウマにとっては、その言葉は、記憶を吹っ飛ばすには充分な破壊力を持っていた。
そんなことが直近にあり、ユウマ絶賛傷心中だった。
「いつまでも引きずってらんないよなぁ」
またため息が出てしまう。中高大と運動部に所属し、やや小柄ながらもがっしりとした身体をしており、一見頼りがいがある風だが、実は、臆病者のユウマにとって、カナはまさに生きる糧、安息の地となっていた。
「よしっ」
気合いを入れ直して、ユウマはいつも通りの朝を始める。
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早起きし、朝は散歩を行う。1度帰宅し、シャワー等の準備をして会社に向かうのがユウマの中の朝のルーティンとなっていた。諸々の事情があり、朝の散歩は、小さい頃からのルーティンとなっているのだか、詳細は割愛する。
いつもどおり自宅周辺の緑豊かな道をゆっくりと散歩する。だが今朝はいつもと違っていた。
「こんな神社あったか?」
見られない神社があった。
就職を期に今のマンションに引っ越して来た訳だが、毎朝の散歩していることもあり、ある程度周辺の地理は理解している自負があった。そんなユウマの記憶の中に目の前にある神社はなかった。
どことなく不思議な感覚に襲われながらも足は自然と神社へと向かっていた。
入口の鳥居はまだまだ鮮やかな朱色をしており、奥に見える本殿もそこまで大きいものではないが、どことなく風格が感じられた。
参道をそのまま進むと気づけば本殿のお賽銭箱の前まできてしまっていた。
「まぁ。ここまで来てお参りしないのもな」
手持ちの10円玉を投げ入れ、鈴を鳴らす。
「えっとー。2礼2拍手1礼だったかな」
誰もが知ってるところであろう仕来りに従う。告げられた時の顔を思い出すと、何となく違う気がする。
仕事が辛いかと言われると、傷心中の俺からすると、激務だが、金払いがいい今の会社で、忙殺されている方が気が紛れている気がする。じゃあどうする…?思考が巡る。
いっその事、世界平和でも願おうかと思ったが、今は世界より俺という一個人の幸せを実現に尽力して欲しいのが正直なところである。
――もう考えんのめんどくさいな
俺は願う。
『おっぱいが大きくて、超絶可愛いお嫁さんが欲しいっっ!』
「フッ」
急に後ろから吹き出すような笑い声が聞こえてきた。
咄嗟に振り向くと、そこには1人の美少女が立っていた。