星の歌
生まれたばかりの地球は地獄のような有り様でした。次々と隕石が降り注ぎ、地表に衝突していました。無数の火山は頻繁に噴火を繰り返し、うっすらと赤く輝く溶岩が流れ出していました。辺りは熱気と硫黄の臭いが立ち込めていました。空には厚い雲が立ち込め、激しい雨が降り続け、ひっきりなしに雷が鳴り響いていました。その様子を遠くから星たちが眺めていました。
「ごらん。あそこに生まれたばかりの星があるよ」
「本当だ。何だかものすごいことになっているね」
「もう少し、落ち着くように語り掛けてみよう」
そして星たちは地球に向かって歌い始めました。それは小さな子供をじっと見つめている母親の子守唄のようであり、壮大な天地創造を描いた宗教曲のようであり、宇宙を運行する惑星の律動を思わせる交響曲のようでした。星たちの歌はずっと続きました。やがて地上に落下する隕石はなくなりました。ずっと怒っていた火山は落ち着きを取り戻しました。降り注いだ雨は小さな水たまりを作り、それが集まって海ができました。そして雲の隙間から晴れ間がのぞき、地表を照らしました。
「噴火や嵐はおさまったようだね」
「大きな水たまりみたいなのができたね」
「何もいないのはちょっと寂しいね」
すっかり落ち着いた地球の様子を眺めながら、星たちはまた歌い始めました。それは揺りかごの赤ん坊を落ち着かせるピアノのようであり、原子や分子が飛び交う様を奏でるヴァイオリンのようであり、鎖状の遺伝子の運命的な配列を奏でる琵琶や笛のようでした。やがて海の中で原初的な生命が誕生しました。
「小さないのちがふわふわ浮いているね」
「ずっと同じ格好だね」
「もっとにぎやかにしたいね」
生命が誕生した地球の様子を眺めながら、星たちはまた歌い始めました。それは四季折々の季節の美しさを歌い、海や大地に棲む生き物たちの躍動を歌い、その複雑な身体の設計図を格納した遺伝子のコードは五線に散りばめられた音符のようでした。やがて地上も海も、いろんな生き物たちで満ち溢れるようになりました。
「なんだか楽しくなって来たね」
「もうすっかり一人前の星になったね」
「僕たちに似たものがほしいな」
いろんな生き物で満ち溢れた地球の様子を眺めながら、星たちはまた歌い始めました。それは愛と憎しみを歌い、栄華と衰退を歌い、喜びと悲しみを歌ったものでした。やがて地上に人間たちが現れました。人間たちは楽器を作り、歌いました。それは天上の星たちにも聴こえて来ました。
「美しい音楽が聴こえて来るね」
「もう僕たちの役割は終わりだね」
「あそこにちょっと変わった人間がいるね」
星たちはクラヴィーアの前で作曲している一人の人間を見ていました。
「ド・ド・ソ・ソ・ラ・ラ・ソ」
それはとても素敵な音楽でした。