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8話 魔法使いの少年(1)


「僕は父さんや母さんの子じゃないの?」


 幼い少年が魔女に尋ねた。

 魔女は気にした様子もなく質問を返す。


「どうしてそう思うんだい?」


 少年は椅子に座って足を揺らしながら、視線を下げる。


「僕だけが魔法を使えるから……」


 窯を眺めながら魔女は少年に問いかけた。


「魔女や魔法使いはどうやって生まれると思う?」

「わかんないよ。普通の人間とは違うの?」


 窯からは生地の焼けた匂いがしてくる。魔女は焼き加減を確認しながら口を開く。


「一緒さ。親の子どもとして生まれてくる。だから、気づかないのさ。自分たちが魔女だってね」

「どういうこと?」

「アンタの言うとおり、魔法使いや魔女は血のつながりによってでしか生まれない。でも、本人が気づいていないから、魔女ではない普通の親から生まれてきていると勘違いをしているだけで、本当はアンタの両親もどちらかが魔女の血を受け継いでいるんだ」

「どうして気づかないの? 僕は魔法使いだって気づいたのに」

「使い方を知らないからさ。何をするにも知識が必要だ。アンタはアタシと会うこともあったからね。アタシの魔法を見て、やり方に気づいたのかもしれない」


 魔女は少年の方に少し目を向ける。彼は金色の目をぱちくりさせて、こちらを見ていた。魔女はそれを見て、小さく笑う。


「だが、普通は知らないことはできない。もちろん、できるようになろうと試行錯誤すれば、できるようになるけれどね。でも、やろうともしなかったことをできないのは当然だろう?」


 少年は不思議そうに首を傾げた。母親によく似た金色の髪がさらりと揺れる。


「母さんは魔法を学ぼうとしなかったの?」

「そうだね。きっと自分の進むべき道は魔女じゃないと思ったんだろうよ」


 魔女は焼きあがったパイを取り出すと、少年に見せた。少年の顔がパァッと輝く。


「環境や立場のせいで道を狭まれることは多い。けれど、案外道は自分で選べるものさ。魔法使い以外にも道はある。ゆっくり考えてごらん」





「おい、魔女の娘」


 そう言われて、アリスは思わず振り向いた。そこにいたのは自分よりも少し歳上の少年たちだった。


 魔女に頼まれて、薪を集めていた。夢中になって集めていたら、村の近くまできてしまったらしい。


 村の子どもだと思われる少年たちは腕を組んでアリスを見下ろす。


「おまえ、魔女の家に住んでいるだろ」


 アリスはその問いに躊躇いもなくうなずく。少年たちは「うわぁ」と声を上げた。


「魔女がどうしてこんなところにいるんだ。人を食いに来たのか?」


 アリスは不満げに顔をしかめた。


 魔女は人間を食べない。そう教えてもらった。だが、村の少年たちはそれを知らないのだろう。だが、教えたくてもアリスは話すことができない。


「おい、何か言ったらどうだ」


 少年の一人がアリスを突き飛ばした。アリスはバランスを崩して、地面にお尻をついた。拾っていた薪が地面に散らばる。

 それを見て、少年たちは笑う。


「魔女なんかが人間の村に近づくからこうなるんだ」


 少年の一人がアリスに近づく。アリスが立ち上がることができずに少年たちを睨んでいると、視界の端で火花が散った。


「うわあっ!」


 落ちていた薪に火が付く。少年は思わず後ろに下がる。


「女の子一人を男が数人でいじめるなんて、良くないと思うな」


 後ろから声がした。振り向けば、金色の髪を持った少年がいた。


「な、なんだよ、おまえ」


 村の少年たちよりも身なりの良い彼は、どう見ても村の人間ではない。金髪の少年は笑みを浮かべると、指で村の少年たちの方を指差した。


「魔法使いだよ」


 彼の指差した枯れ葉に火が付く。村の少年たちは怯えた表情を見せると、逃げるようにその場を走って去っていた。

 ポカンとして見ていたアリスを見ると、少年は指を鳴らした。火が一瞬にして消える。彼はアリスに近づいて、手を差し出した。


「こんにちは、アリス。僕のことを覚えているかな?」


 アリスは彼の問いにうなずく。そして、その手を取った。


 ……エリック。


 アリスの口がそう動く。それを見てエリックは笑みを零した。




 エリックは魔女に会いに来たと言う。アリスは来た道を戻りながら彼の話を聞いていた。


「君は婆ちゃんと一緒に住んでいるんだろう? 魔法を教えてもらっているのかい?」


 彼の問いにアリスは首を横に振った。


「どうして教えてもらわないの? 君は魔女じゃないのか?」


 アリスはわからない、といった風に首をかしげる。アリスの様子を見て、エリックは自嘲気味に笑う。


「……僕からしたら、とても羨ましいのにな」


 家に着けば、魔女はアリスの後ろにいるエリックを見て鼻を鳴らした。


「何だい。また来たのかい?」


 そう口では言いながらも、エリックが家に入ることを咎めない。


「アリス、お茶を出してやりな」


 アリスはうなずくとお茶の用意をする。エリックは魔女に促されて椅子に座った。アリスが当たり前のように火を扱うのを見て、エリックは「へえ」と感心したように声を漏らした。


「すごいな。あんなに小さいのに家事ができるんだ」

「アンタみたいな坊ちゃんには必要のないものだろう」

「坊ちゃんって……僕はただの商人の息子だよ」

「アタシから見たら、使用人に世話されているだけで、十分坊ちゃんだと思うけどね」


 アリスがお茶を運んでくる。全員の前にお茶が置かれると、エリックが包みを取り出した。


「これ。お菓子を持ってきたんだ。アリスと仲良くなるためにね」


 アリスはお菓子を見て顔を輝かせる。魔女は呆れたように息を吐いた。


「アンタ、食べ物で釣るつもりかい?」

「僕は婆ちゃんの真似をしただけだよ。幼い僕がここへ初めて来たとき、あなたは大きな林檎のパイを焼いてくれた」


 魔女は肩をすくめてカップに口をつける。


「そんな昔のことは忘れたよ」


 仏頂面の魔女にエリックはクスクスと笑う。


「僕はよく覚えているけどね」

「覚えがいいなら、アリスに勉強でも教えてやってくれ。ほかの誰かと勉強するのもいい刺激になるだろうからね」


 魔女はそう言って、石板をエリックの前に置いた。


「文字は書けるの?」

「書けるさ。アタシが教えたんだからね」


 エリックは「へえ」と言うと、アリスに向き合った。


「じゃあ、婆ちゃんの名前を書いてみてよ」


 その言葉にアリスは困った顔をする。そして、石板に文字を書いた。


『名前を知らないの』


 それを見て、エリックは驚いたように魔女を見た。


「名前を教えてないの?」

「必要ないだろ。どうせ二人しかいないんだから」

「アリスには名前を付けたのに?」


 エリックはアリスの方を見ると、内緒の話をするように教えてくれる。


「婆ちゃんの名前はティアンナだよ。可愛い名前だよね」

「アタシにもアンタらみたいな可愛い時期があったんだよ」

「それって、僕たちが可愛いってこと?」


 エリックの言葉に魔女は嫌そうな顔をする。


「うるさいね。追い出すよ」


 エリックは気にした様子もなく、お茶を飲んだ。アリスは二人の会話を聞いて、クスクスと笑う。魔女は咳払いをすると、エリックの方を見た。


「それで、今日は何しに来たんだい?」


 エリックはカップを置くと魔女と向き合った。


「魔法の勉強がしたいんだ。僕に魔法を教えてくれませんか」


 魔女は目を閉じると横に首を横に振った。


「どうして?」


 エリックは不満そうな顔して魔女を見た。魔女は彼の方を見ないで口を開く。


「魔法使いがどんなものか知らないからさ」

「人間には使えない魔法が使える人のことだろう?」

「それだけじゃない」


 魔女はカップを空にすると、立ち上がった。


「とにかくダメだ。アリス、アタシは調合室にいるからね」


 魔女はアリスに声をかける。アリスはうなずくと、魔女のカップを片付けはじめた。



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