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旅へ

美化委員の仕事が終わり玄関へ着くと、帰ろうとした。

「痛っ!」 

土踏まずより少し上に痛みを感じ、俺は靴を脱いだ。  

足の裏に何か鉄のような丸いものが刺さっているのでそれをひっこ抜く。  

血が付いていた。

「ドッキリ大成功〜!裕太くんびっくりした?」  

何人かの男子が登場する。 

ギャハハと大声で笑っているものも居る。

最近大人しめの生徒の靴の中に押しピンを置くという、少し悪ふざけが過ぎた遊びがクラスで流行っていて、俺も仕掛けられた訳だ。

「あれ?裕太くん…泣いてね?マジで!?(笑)」

俺は鋭い痛みと悪ふざけに本気で嫌悪し涙を流した。  

「ごめんごめん悪気は無かったんだってば!」 

何も言わずに同級生を振り切りそのまま帰った。

    


「それでさ、でっかい家を貰って住んでさ、お姫様の許嫁になってめでたしって思うじゃん?でも実は王様の部下がさ国家転覆を企んでてさ。でもそいつらも実はただの操り人形でさ…」

「そうなのねぇ。裕太くんは長い物語が好きなのねぇ。」  

おばあちゃんはのほほんとして、それでいて鋭く指摘した。  

嫌な事があったのだろと、暗に指摘されているようにも思えたが流す事にする。

「えっ?俺の話長い?ごめんおばあちゃん!退屈だった?」  

思い切りしらばっくれたが、あんな事があったせいで先程から俺は延々と喋り続けているのだ。 

手に持った湯呑みもすっかり冷え切っている。

「退屈じゃないわ。裕太くんたらたえ間なく話すんですもの。お茶も飲むと良いわ。もしも裕太くんが異世界に行けるとしたらどれ程長い物語になるかしらね?」

「はは…どうなんだろうね?」 

生きていると良い事ばかりじゃないのかもしれない。 

別の世界に行きたいと思ってる人も沢山居るのかも知れない。

おばあちゃんの言った事が、フラグになってるなんてこの時は思いもしなかったんだ。



「すごい早さだな…もう薪割りを終わらせたのか!?」 

酔っぱらいはまだ眠たそうにあくびして様子を見に来たが、裕太があっという間に薪割りを終わらせると大層驚いた。  

「一応昨日怪我してたみたいだし…暫くは休んでて良いんだぜ?マイロとサイラスもちょっとショック受けてたみたいだし…」  

ほんの数時間前に強引に酒宴に参加させ、首を締めてきた男がバツ悪そうに謝っている。 

一応やりすぎな部分を反省している所がクロッカスらしい。 

「平気だよ。急に目が冴えちゃってさぁ」

昨夜の酒宴の後、双子と一緒にベッドに寝たのだが二人共寝相が悪く、叩き起こされてしまったのだ。  

今は大体朝のの4時半位だ。

「怪我の功名だよ!クロ先輩まだ休んでて。水汲み行ってきまーす」 

こうしていつもの数倍のスピードで仕事をこなし始めた。 

 

 

昼前に大半の仕事を終わらせた裕太は魔法を習う事にした。  

昨日ステータスを見ると一応魔力も成長しているようだったし。

習うと言っても初級魔法の魔術書が先生だ。 

怪我しないように魔法も覚えてとマイロとサイラスが買ってきてくれたのだ。 

二人共なけなしのお小遣いを崩した様なので、たんまりお釣りが帰るくらい渡してやる。 

二人は一応遠慮したが、なら父ちゃんの酒代に消えると言うとちゃんと受け取った。  

   

裕太は町から少し離れ平原に着く。  

ワクワクしながら早速魔術書を2〜3ページか開いてみる。 

【手軽に学べる攻撃魔法とサポート魔法!】  

まえがき 

本書では魔法が初めての人でも簡単に魔法が出せるように…   

魔法はとても危ないので屋外で練習を… 

お子様の場合大人の方と一緒に… 

更に裕太はページを捲ってみた。

【ファイアの出し方】

このページで良いかな? 

さてと、まずは…なになに?まずは集中し、対象に魔法がかかるイメージをします?手のひらをかざしたり杖を使うと魔法が出やすくなります。試しに空中にファイアを。  

魔術書に書かれている通りにしてみる。 

集中して…「ファイア!」 

ボワッと小さな炎が燃え上がると、1秒程で自然消滅した。 

「うーん…成功だか失敗だか良く分かんないかも…もう一回!ファイア!」

今度は先ほどより少しだけ大きな炎が燃え上がると、2秒程で消えた。 

少しだけ成功したか。 

この調子で何度も何度も繰り返してみると、少しずつ精度が上がっていった。  

裕太は他の魔法も練習してみた。

「ボルテス!アクア!」 

手から噴出した水流に雷の魔法を混ぜる。

魔法の組み合わせ技も何とかさまになってきた。   

そうこうしている内に裕太は幼い頃からやりたかった事を思い出す。

そうだ、今度は浮いてみよう!  

魔法はイメージが大事って書かれているし…  


浮かべ…浮かべ…浮かべ…  

かなりゆっくりとだが、体が浮上していくのが分かる。 

以前サイラスにかけられた魔法みたいだ。  

1メートル程浮いて、前進する。 

上手く進む事ができず、平泳ぎしたりして移動した。

このまま練習しながら空中を移動してみようか、少しづつ速度を上げてみてっ…てやばい後退してる! 

日もとっぷり暮れてきたし、裕太はこのまま家に帰る事にした。  

あまり上手く飛べなかったが、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしながら確実に前に進む。   

家に着き、練習の成果をエルフ一家に話しながら食卓を囲んだ。  

今晩の食事はパンにカエルの脚スープ、サラダにタガメのドレッシングを掛け、メインはフライコボコボだ。 

「へぇ!跳躍なら俺もできるけど。ここまで飛んで来るなんて大したもんだな…かなり集中しないと難しい筈だけど」 

クロッカス曰く、自分で飛び続けるのは疲れるので精霊魔法を使っても難しいんだとか。  

マイロとサイラスが自分達も飛べるようになりたいから秘訣を教えろとせがんで来るが、難しいから辞めとけとクロッカスが即答した。 


 

「C級ダンジョン攻略おめでとうございます!」 

一ヶ月が経ち、魔法も上手く使える様になった所で隣町近辺の地下ダンジョンに挑戦してみた。  

裕太は特別にC級の任務をこなす事が許されているのだ。

(今回は魔物の死骸は持って帰ら無くて良いので、ボスの部屋のアイテムを持って帰る事)

ダンジョン内の魔物の適正レベルは25〜30で、裕太の実力ならボスまでは簡単に攻略できた。  

このダンジョンのボスはダークゴブリンだった。 

ゴブリンより力が強く、知能も高いので魔法や武器をつかい、倒すのが少し厄介だった。

途中毒矢を受けたりしたが、弱い毒なので初級魔法でたえず回復させ続ければ支障なく戦闘を続行できた。   

倒すのに決め手になったのは、外したと見せかけアクアでゴブリンの周りに水溜りを作り、ボルテスで感電させ気絶させた。 

その隙に首を跳ねた。

 

どんどん敵を倒し、力が湧くのを感じる。 

こうして今回も難なく雑魚敵やボスを倒し、町で解毒薬を買い毒消ししてからキーライルまで戻る。   

ギルドで一応レベルを測ってみると、このような数値になった。 レベル48 攻撃105 防御111 速度97 魔法92 回避98  

バリスによると、このレベルになるとB級の依頼も楽にこなせるらしく、ぜひとも次はB級の依頼で呼びますと言われた。  

裕太はダンの店で串焼きを買ってから家に帰る。 

エルフ一家にダンジョン内で毒矢を受けたと話すと、カメリアや双子に酷く心配された。   

「またこの子は危ない事ばかりして!」    

「まあまあカメリア、解毒は済んだって言ってるじゃないか。ユータだって男なんだから多少の無茶はするさ。」

叱責しようとする妻をクロッカスが諌める。 

一応暫く安静にしてろと二人に言われ、その日は風呂に入り夕飯を食べたら雑談に興じる間も無くすぐ寝た。  

今日は泣いている双子と一緒にだ。 

「グスン…ユータのばか、危険な事しないって言ったじゃん!」

「ユータ死んだら誰が僕達と遊ぶの…?ひっぐ…」 

「二人共大げさだよ、俺は居なくならないからね?おやすみ」  

二人を寝かしつけて自分も寝る。


 

二日後、昼食時テーブルにもたれ、足をぶらぶらさせながら行儀悪くタイガーシープのサンドイッチを食べていた。   

タイガーシープはクロッカス家で数十頭飼っている。 

羊と、魔物(羊が魔性を帯びたもの)をかけ合わせた種で、特徴は性格が荒く体は牛のように大きく、良質な肉や毛が取れる。 

肉質は臭みが強いが旨味が強い。  

すると家長が話を切り出してきた。 

「ユータが嫌なら良いんだが」

クロッカスは別段深刻そうな顔をするわけでも無く、仕事を辞めて冒険者になれと言ってきた。

「え?何で…?俺仕事が嫌なんて思って無いよ?…」  

裕太は突然の解雇通知に、顔をしかめた。   

場の時が止まったような微妙な雰囲気が流れる。 

行儀が悪すぎたか?怒っているのか? 

姿勢を但し、足をしゃんとする。

「違う、怒っているわけじゃないよ。ユータ、俺はお前にいつまでも家に居ても良いと言ったし、お前の事を息子だと思ってる。俺はお前自身が楽しく暮らせる事を願っているんだ。本当は冒険がしたくてうずうずしてるんじゃないか?」 

「そんな事は…」 

そんな事はあった。

正直、今みたいなスローライフは嫌いでは無い。 

朝5時に起きて力仕事をこなし、昼前には殆ど終わらせ残りは魔法の練習をする。   

夕時になると、エルフ一家と団らんするのが日課になっている。

カメリアの料理は美味しいし、双子は可愛いし、今だって彼は息子だと思って接してくれている。

だが物足りなさを感じ始めていたのも事実だ。  

この世界にはどんな世界が広がっているのだろう。 

どんな人種や種族が存在するのだ? 

そういえばクロッカスはメンタルフィールが使えたな。 

心を読まれたか?

裕太の考えを察した家長はこう答える。

「別にスキルを使った訳じゃないぞ?顔に書いてあるんだもん。まあゆっくり考えろ、ここに居たいなら行かなくていいからな!」 

そういうとクロッカスが温かいハーブ茶をコップに注ぎ、ナッツ入りのスパイスケーキを切り分けてくれた。 

何となくだがおばあちゃんに言われた事を思い出した。  

 

裕太くんは長い物語が好きなのね。  

 

どれほど長い物語になるかしらね。

 


その日の晩、エルフ一家に冒険者になると話した。 

カメリアは亭主を睨みつけ、お前ユータに余計な事言っただろと凄い剣幕で責める。   

「ユータを旅に出すなんて…意味が分かってるの!?」

「落ち着いてカメリア、クロッカスは関係無いから!前から僕が勝手に思ってた事なんだ…」

すると今度は一変し、心配そうにしてくれる。  

「いつでも帰ってきて良いのよ…」

双子エルフは、突然の別れに悲しみ抗議しようとするがクロッカスからお前らも一緒に旅に出るんだよと尻を叩かれた。  

「え?マイロとサイラスも旅に出るの?」 

「ったりめーよ、代々俺らエイルランドエルフ族の伝統だからな。まずは隣国のバラキアに行ってみたらどうだ?」 

この国のエルフ達やその血統の者達は成人前になると家から放り出すらしい(成人と言っても12歳)

クロッカスもカメリアも混血種だが実はそうして一度は旅に出た事がある。   

「父ちゃん母ちゃん、途中で死んじゃったらどうしよ?」 

「僕死ぬのはいやー…ぐすっ…!」 

「泣くな!サイラス。死なせない為にユータと旅に出すんだろ。しっかりユータから戦い方を学んでこい。」

結局バラキアという国へ行く事になる。  

この国は吸血鬼やアンデット達が多く暮らしているそうだ。  

一週間かけて荷造りし、夫婦が見送ってくれる。  

「何かあったらすぐ帰って来いよ!ユータ。バラキアには美人が多いらしいから、妻にしてつれて帰ってこいよ!!」 

「それじゃ旅になんないよ笑。二人共近い内また会おう!」   

マイロとサイラスも両親に別れの言葉をかける。

「父ちゃん母ちゃん、俺レベル100くらいになって帰ってくるからね!」 

「僕は飛べるようになってるからね!」

裕太と双子は二人とハグすると、バリスに別れを言う為にギルドに向かう。 


「そうですか、今日行かれるのですね…可愛いお供さんもレベル計測する?加護やスキルも調べる?」    

「はい、お願いします」 

二人共緊張している様なので代わりに答えてやった。 


マイロ レベル1 攻撃2 防御2 素早さ4 魔法1 回避3 加護 大地の加護  スキル スタートダッシュ

サイラス レベル1 攻撃1 防御1 素早さ1 魔法10 回避1 加護 大地の加護 スキル 不屈のバリア

このような結果になる。   

 

前述の通り大地の加護は普通の魔法とは別に使えるエルフの魔法の様な物で、威力は術者によって異なるが大概は強力である。 

 

スタートダッシュは戦闘開始一分だけ倍の速度で動く事ができ、気軽にノーリスクで使える使えるスキルだ。

不屈のバリアは他のステータスを下げる代わりに防御力を大幅にアップさせるというものだ。

こちらは使い所が肝心か。 


「では、ユータさん、くれぐれも加護やスキルが無いと周りにバレない様に気を付けて下さいね…調べてみましたが魔族達ですら前列が無いらしいですから。バレたら私達ギルドの者やクロッカス達も全員拷問にかけられますよ。」 

バリスはたらたらと汗を流しながら説明し、見送ってくれる。  


三人はダンの店で串焼きを買って町から出る。  

「サービスだ、持っていきな。」 

「え?こんなに良いの?ありがとう…」

サービスのコボコボ10個の他にオオツノ牛の燻製10個、フクロブタのソーセージを袋いっぱいくれた。  


串焼きを三人で食べながら、平原を歩く。 

まずは魔物の森で双子をレベルアップさせなければ。  

  

 

「真か?もうユータはキーライルを出たと?」 

オーワイン王はやや眉に皺を寄せ小人に訪ねた。  

あの盗み聞きしていた小人にである。  

部屋には金で出来た豪華な置物もそうだが、都一の匠が作った椅子やテーブル、ベッド等も存在間を放っていた。 

「はい、いずれにせよ彼奴らは己の出自も存在も明かさず王や私達を欺き国外へ行こうとしています。厳重に処罰するべきかと。魔族のスパイかもしれません」 

小人の男は言う。

「その必要は無い。既にBランク並みの強さなら直ぐにでも余の護衛にしたい程だ…そなたも我が国の現状を知っておろう?エイルランドの兵は弱い。連合国が魔族と友好条約を取り付けねばとっくにこの国は滅んどった。」  

小人の男は食い下がらずに言う。 

「ですが、気味悪過ぎませんか?私は確かに見ました!測定機の中に灰色の虫のような物が…加護やスキルが無いと…」

「完全に信用する訳ではない。少しでも怪しい動きがあれば捕らえれば良い。」 

小人の男は納得がいかないという顔をしているが、ようやく王の言うことに従う事にし、部屋を出た。

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