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魔物狩り

裕太は教室の隅で縮こまっていた。   

6月に入り、早くもこのクラスには仲良しグループができ上がっているからだ。

HRが終わり、隣りの生徒達は仲良くお喋りし、ファーストフード店に行こうとかファミレスへ行こうとか話している。  

その内の一人がふざけて丸めた紙を投げると、裕太の頭に当たった。  

その様子に気付いた先生が声を掛けてくる。   

「あんた達裕太君も仲間に入れてあげなさいよ。」 

すると隣の生徒が困ったような表情を浮かべこう切り替えした。 

「仲間に入れて上げても良いけど…裕太ってずっと変な本読んでんじゃん?なんか暗いし。俺らSFとか興味無いしさぁ」

先生は呆れた表情を浮かべると、更に注意しようとする。  

「だったら仲間外れにしていいなんて理由はないでしょ!裕太くんと仲良くしなさ…」 

「先生良いんです。俺が暗いから…皆ごめんね。」

裕太は早やかに荷物を持つと、逃げるように帰った。 

「あっ!ちょっと裕太君!」  

先生は言いうと、心配そうに裕太を呼び止めようとした。

  


家に着いて荷物を置くと、直ぐにおばあちゃんの家を尋ねる。  

  

着替えずに学生服のまま、おばあちゃん家に向かい家にあげて貰う。 

二人は縁側で話ししていた。

「でさでさ、森に強いスライムが潜んでてさ、主人公が全部倒しちゃうの!主人公はお城に招かれて王様に認められるんだ!!」  

「まあまあ、凄いわねぇ。そうなの?裕太くん麦茶おかわりは?塩大福たべる?」 

「飲む!食べる!でさ、城の兵士と試しに戦ってさ…」 

   

 

  

学校ではほとんど一人ぼっちだったが、どんな嫌な事があった日でもおばあちゃんと話しすればすっかり忘れる事が出来た。  

 

昔の夢を見ていた。   

 

「起きろ、ユータ!今日一緒にお出掛けするって言っただろ!」

「起きないとこうしちゃうよ、えい」 

「うーん…ッ!ぎゃははは!!辞めてぇ!くすぐったいの無理!助けてー!!」  

裕太を起こしたのは、最近11歳になったばかりの双子だった。


この世界に来てから9ヶ月が過ぎていた。  

元の世界の事やおばあちゃんの事は少しづつ懐かしい思い出になってきている。 


俺はすっかり言葉を覚え、今では文字の読み書きもそこそこ出来るようになっていた。 

今日は馴染みの親父の屋台に双子を連れて遊びに来ている。     

クロッカスと同い年の男が店主だ。 

同い年と言ってもこちらは見た目通り50歳を過ぎた叔父さんで、ちょび髭を生やしている。

「はいよユータ、コボコボ鶏の串焼き3個な。水鹿も一個サービスしてやるよ」

「ありがとう!ダン」  

俺はダンから串焼きを貰うと銅貨を3枚支払い、双子達と歩き出した。

コボコボ鶏は鶏に似た家禽で肉やや臭いがあるが、ダンが上手く薬草で臭いを消してある。  

水鹿は沼に生息し、牛肉に似た味わいがある。  

マイロはコボコボを平らげると、サイラスが食べてる分まで奪って食べ始めた。 

「マイロずるい、それ僕の…ユータ!マイロが僕の串焼き食べたぁ」  

サイラスが裕太に泣きついてきた。 

裕太は軽く抱きとめてあげる。

「のろのろしてっからだよ!おめぇ食うのおっせーんだもん。こんなやつ無視して良いよユータ」 

双子は、初めて見たときはどっちがどっちか分からなかったが、こうして一緒に暮らしているとはっきり違いが分かる様になってきた。 

マイロは兄で、性格ははっきりと物を言いガツガツとしている。  

マイロは以前裕太の頭を思い切りぶん殴った子だ。

対象にサイラスは弟で、マイペースで大人しくすぐ泣く。  

「お前らなぁ…喧嘩はそのへんにしとけよ。サイラス、水鹿はやるから泣くな」  

「やったぁ!ユータありがとう!」

「ずりー!俺が狙ってたのにぃ…」 

今度はマイロのほうが地団駄を踏んで悔しがっている。

三人で歩いていると、前方からバリスが歩いてきた。 

「ユータさん丁度良かった、今からお家に向かおうと思ってた所です。マイロとサイラスも久し振りねぇ。ユータさんは来週の魔物狩りは参加されます?」 

「魔物狩りって…俺まだレベルは5ですけど。薬草採取は?」 

実は裕太はクロッカスに流されてギルドに冒険者登録してあるのだ。   

前回の通り、仕事時の成長スピード(力仕事にかぎる)やレベルの上がりやすさが見込まれている裕太は、冒険者の方が向いて居るのでは無いかとクロッカスに諭され、一応仮登録という形で落ち着いている。   

「今回はスモールウルフ駆除で適正レベルは2ですよ。裕太さん方がずっと強いです。この魔物は群れで生活しますが、この時期は発情期ですので少し気が荒いですが、基本一体で行動しますので初心者でも倒しやすいですよ。」 

スモールウルフといえば前回倒したあれか。 

「ずっと格下の相手って事なら…」  

裕太ら承諾したが実は精神的にキツイので断りたかった。 

魔物は殺す時ゲームの様に消えるのでは無くて、腹を切れば内臓がとびで、首を切れば血が噴出するのである、 

バリスは裕太の表情から緊張を読み取ると助言をくれた。 

「冒険者の皆さま、最初はそうやって魔物を倒す事に躊躇なさるんですよ。もしやりたくないのであれば、薬草採取など別の仕事をご用意しますけど」

せっかく仕事を用意して貰ったのに、わがままはいけない。 

「分かりました…俺魔物駆除がんばります!」 

「やって頂けますか。こちらとしては助かります。では武具はこちらで用意しますのでまた7日後ギルドへ来て下さい。」  

バリスは愛想良く挨拶するとその場を後にした。  

彼女を見送ると双子が暇そうにあくびしていた。  



まだ少し時間が余ってたので少し町から出て、双子と遊ぶ事にした。 

「こらっ!マイロ、精霊魔法を使って逃げるな(汗)」 

「悔しかったらここまでおいで!お尻ペンペン」 

「ねーユータ、眠いよぉ。帰りたいよぉ。」  

二人共もう11歳になるのに相変わらず自分のやりたい事に没頭している。  

こうゆう所は父親に似てるんだな。 

結局気力と根性でマイロを捕まえて、サイラスをおんぶするとそのまま家に帰った。 

家に帰って今日の事をクロッカスに話すと、「いよいよ勇者のデビュー戦だな!」と喜んでいた。 

  

 

当日になり、裕太はギルドから剣と装備、荷車を借りる。  

荷車は倒した魔物を入れるのに使う。

早速魔物の森に入ってみると思ったより明るく、普通の森と変わらないようだった。  

5分程歩くとスモールウルフが出た。 

裕太はスモールウルフを素早く剣で突き刺し、弱った所で首を落とした。  

グロい… 

毎回これを見せられると思うとげんなりさせられると裕太は思った。

首からピンクや紫の筋が見え、血が滴り落ちている。 

けれど、少しだけ力がみなぎってくる気がする。

この調子で2匹、3匹と倒していく度に素早く動け、力が強くなっていく感じがした。

5体くらい倒すと遭遇しなくなったので、裕太は荷車にスモールウルフを載せギルドに直行しようとする。 

「フーッ!!」 

するとけむくじゃらで二足歩行の魔物の群れに遭遇する。   

「っ!?」 

裕太は恐怖で動悸が止まらなくなった。

ざっと見て10体以上くらいか? 

木の上から覗く者、茂みから顔だけ出している者。 

全く警戒していない者もいる。 

色とりどりの魔物は敵意をむき出して、今にも襲いかかって来そうだ。 

どうする?この数相手に?  

戦うか? 

「フシャーッ!!」

考える間も無く魔物は襲いかかってきた。  

裕太は剣で一匹目の首を切断すると、横に回った者に裏拳をかまし撲殺する。後ろから襲いかかった者に爪で肩を引っ掻かれるが、そいつを中段蹴りでふっ飛ばす。

この調子で裕太は13体の魔物を倒した。  


残りの一体を倒す前に、こいつが急に大きい声で叫んだ。   

「何だ?威嚇か?」 

裕太は最後の魔物を倒すと、妙な胸騒ぎを覚える。 

とにかく急いで帰る事にした。   


すると大きな魔物が現れる。

筋骨隆々で2メートル位身長があり、牙を向いている。 

「フシャー!!」  

バキバキバキッ

ボスは木を引っこ抜くとそれを武器に襲いかかってきた。

「なんつー馬鹿力だよ!」 

裕太はボスらしき魔物の攻撃をかろうじて全て避けきる。   

俺、早く動けるようになってる… 

避けている間も考えている余裕があるくらいだ。

ここで間を詰め剣で思い切り首を切り付けた。 

が、ここで剣が折れてしまう。  

「しまった!剣が!!」

ボスはニヤリ笑うと、裕太の身体に木を思い切りぶつけた。  

どーんと凄い音がなる。

裕太は思い切りふっとんだ。木には潰れた人間の血肉がへばりつく…はずだったが裕太は生きていて、木にはぶつけた人間の型が残っている。 

「痛ってーな!こんにゃろ」 


俺が魔物を倒しまくったからレベルが上がって、攻撃が当たっても大丈夫なのか?  


とはいえダメージは食らうもので、鼻血を出してしまったしくらくらする。 

何だか素早く動ける様になってるし、防御力も上がったている。 

なら攻撃力は?さっきは剣が力負けして折れたけど…  

裕太は思い切り間を詰めると、折れた剣でみぞおちを思い切り殴りけた。 

魔物は一瞬苦悶の表情を浮かべ、よろけた。   

その隙きをのがさず、後ろに廻り首を両腕でロックすると万力のように締め付けた。

「グウェェ!!」    


ボスは激しく暴れまわったが口から泡を吐き始め、長い舌をたらし絶命した。   

   


死闘の末、何とか倒す事ができた。

予定より時間がかかってしまったがまあ良いだろう。  

裕太は荷車に魔物の亡骸を乗せると、一旦血を洗い流しに川に向かってからギルドへ向かう。  

  


「これ兄ちゃんが倒したの?すげーな!今日が初陣なんだろ!」

 「こんなのたまたまですよ、ははっ…」 

 ギルドではほんの少しだけ騒動になっていた。 

E級の冒険者が大量の魔物を荷車に積んで入ってきたからだ。  

「大変申し訳ございませんユータさん、回復薬をどうぞ。あの森にコボルトが居たなんて…危うくユータさんの命を危険に晒すところでした。後できちんと保証させて頂きます。」  

裕太はハイポーションを飲んだ。 

シュワシュワしてて炭酸ジュースみたいな味がする。

「良いんですよ、何か強くなってる気がするし。それより今レベルって調べられます?」  

一応どれだけ強くなっか気になる。 

バリスはひたすら謝ると、裕太を例の部屋へ通し計測機を出した。    

こちらはステータスも測れるタイプのものだ。 

裕太は鏡に手を触れてみる。 

レベルは32 攻撃75 防御67 速度72 魔法66 回避70「レベル32!?もうそんなに上がったのですか?あなたはつくづく規格外ですね…」 

バリスによるとレベル32ならCランクに移行出来るらしい。   

レベル20くらいでD、それ以下はEだと説明した。   

というか魔法も使えるのか? 


俺はcランクに移行するか聞かれたが、断っておいた。 

加護やスキルが分からないので、極力目立つのを避けたかったからだ。 

もしこの事が他人に知れたら、魔族の手先とか新種の魔物かと思われるのかもしれない。

クロッカスの読みが当たり、仕事は適正かもしれないけど皆とは離れたくない。  

元々コミュ症だった俺が冒険者としてやっていくなんて… 

俺はバリスから報酬と見舞金をたんまり貰うと、ギルドから出てダンの串焼きや酒を土産に、家に帰った。  

 

「そんな事があったの!?怪我してるじゃない!」 

カメリアは酷く心配している。    

「平気だよ、ギルドでハイポーション飲んだし。傷自体はもう塞がってるんだ。ほい!串焼きにワインもあるよ、保証金もたんまり貰ってきた。」 

済まし顔で応えて土産やお金を見せてやったが、あちこち服が破け乾いた血が付いている。

「ユータギルドなんか行くな!」  

「ユータが死んじゃ嫌、サイラス達ともっと遊んで」

二人はがっしり抱きついてきた。 

「わっ!血が付くから離れてね…クロ先輩は?」  

「もう飲んでるわ、貴方のデビュー戦祝いだって。馬鹿よねぇ。ユータは風呂に入ったらすぐ休みなさいよ?」 

やや口うるさく言うと荷物を受け取り、奥にひっこんだ。  


結局風呂に入ってからクロッカスに引っ張られ、休まず宴になった。  

既にかなり出来上がっており、無理矢理裕太にお酒を飲まそうとしてくる。 

「俺の酒がひょめねーってのか?ええ?あおびょうたんが」 

「うっ…酒くせえ!だからまだ大人じゃないから無理だって!」

カメリアが今日怪我した場所に響いて無いかひどく心配したので、傷が全快している事を証明するために上着を脱いで見せた。 

「俺の女をユーワクしてんじゃねぇよ?ませがき!」 

へらへらと笑いながらクロッカスがヘッドロックしてくる。 

一連の話を聞き、裕太の真似しているのだ。  

「酒くせー!クロ先輩飲みすぎ!」

「良い加減にしな!あんた!!」 

カメリアが強く頬をつねると痛ててっと声をあげ、裕太を開放した。  

「ユータ、今日は一緒に寝てぇ?」 

「オメーは父ちゃんの介抱してろサイラス!ユータは俺と寝るの!」 

酒宴は一定の盛り上がりを見せるとゆっくりと終焉に向かった。

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