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第5話 草刈り

「すいません、こちらお願いします」


「はい。草刈りでお間違いないでしょうか・・?」


「そうですね、草刈りの依頼書で間違いありません。」


「分かりました。そうしましたら、受理いたしますが、もしかしてローグ様は風魔法使いなのでしょうか?」


「そうですね、草刈りは得意なのでおまかせください」


 魔法は火魔法が人気なのだ。見た目もかっこいいし、なによりインパクトがある。また魔物に対しても威力が高く、強いので、冒険者になる魔法使いのほとんどが火魔法使いである。風魔法はまずいない。だから、わざわざ受付嬢も確認をしたのだろう。風魔法を使えることをいうたびにいつもこのような反応が返ってくるので慣れているが、ギルドでも同じであることに少なからずのショックを受ける。風魔法の奥深さに触れた時の感動は素晴らしいのに。。と一人思考の溝に入っていく。


 「これで受理完了です。この受理証明書を見せてくださいね。」

 我に返ってその証明書を受け取ると、後ろの人の邪魔にならないようそそくさと立ち去ることにした。ギルドの中を見回すと、筋骨隆々のいかにも冒険者という人が入ってきたところだった。少し人の数が増えたかもしれない。


 もう兄もいないので絡まれる前にさっさと依頼主の屋敷にむかうとする。


 すれ違いざまに絡まれないか不安だったが、そういうイベントは起こらないようだ。


 そそくさとギルドを出てきた私は、今、郊外のバカでかい屋敷の前に来ている。

 初依頼にしては広すぎたのではないかと少し後悔した。

 ちゃんと、広さを確認するべきだったのだ。


 「報酬いくらだったかな。。。」


 その声は誰にも聞こえない。

 しかし、ブツブツと独り言をいう少年を門衛は不審に見ていた。


 「すいません、ギルドの依頼を受けて草刈りにきました」


 「一人か?」


 「はい、一人です」


 「・・・・・・・分かった。そこで待っててくれ」


 しかたないので、待っていると奥からさっきの門衛ともう一人、多分執事の方がやってきた。歳は40歳ぐらいだろうか。動きにスキがない。さっきギルドであった人と同じかそれ以上にがっしりしている。かなりの手練れだろう。本当に執事なのだろうか。


 「ついてこい」


 だまってついていくときれいな庭が見える。庭師がいるようだ。この庭ではないようだ。どんどん屋敷の奥へと入っていく。この間一切話しかけられない。無礼になってもいけないので、ただだまってついていく。


 角を曲がるときれいなお嬢様がお茶をしていた。執事の方が一礼するので続けて一礼し、後ろをついていく。

 お嬢様はこちらを一瞥し、またおしゃべりに興じている。


 入り口から見えている以上に中は広い。草刈りをするのは屋敷の裏だった。


 「ここだ。屋敷の裏から、、ここからだと見えないが、20分程歩くと川がある。そこまでを草刈りしてほしい。火事にならないようにだけ気を付けてくれ」


 そういうとすぐに去ろうとするので、細かい条件を確認した。話しているうちに気づいたのだが、


 この執事、脳筋だった。


 話をまとめると


・もともと訓練場と使っていたが、王都に引っ越してからは放置されていた。


・娘が住むことになったので、門から屋敷までの間までは庭師にきれいにしてもらったが、裏までは手が回らないので、今回ギルドに依頼したこと。


・草刈り後の用途は未定。


・報酬は100万トロンで、全て終わらないと報酬は支払われない。

  (1トロン1円くらいのイメージ)


 人力ですると、100人集めても一日で終わるか終わらないかの広さがあるので、この金額も妥当なのだろう。

全て終わってからの支払いのため、何日もかけていてはまた雑草が生えてきて、無限ループに陥る。

執事は最後に


 「2,3日で全部できないのであれば、やめたほうがいい」


と言って去っていった。

 風魔法の使い手である私には関係ない話だが、意外と親切な人かもしれない。


 さて、始めるか。

 目の前には身長の倍近くに育った”草”がどこまでも広がっている。

 風魔法が使えない人にとっては絶望でしかないだろう。

 繰り返しにはなるが、まぁ、私には関係ない話だ。


 元訓練場ということで、切っていはいけない木や集めないといけない薬草といった制約が一切ない。

 最初は貧乏くじを引いたかとかと思ったが、報酬もいいし、Fランクの以来としてはかなり当たりだろう。今日も「豪運」様に感謝である。

 (貧乏くじではなく、内容を確認しなかった人間が完全に悪いのだが)


 用途は未定らしいが、感謝の気持ちを込めて、また訓練場として使えるまで整えようと思う。

 もうさっきのおっさ、、んん、執事の方が立ち去られたので、遠慮することもない。


 まず、ガタガタの地面を整地する。


 土魔法で地面を20cm程掘った高さで揃え、その土を使って壁を作る。


 ポイントは土のみを壁側に利用することだ。通常土魔法を使うと、その中に含む石や草なども一緒くたに固められる。そうしないと料が減るし、土だけだと硬くならないので、そうするのが一般的である。


 そこで一工夫、敢えて魔法を解除すると、その固まった塊がうまいことほぐれて土の山ができるのだ。畑を耕す時に使うので、農家は知っていたりするが、冒険者は意外と知らない。


 柔らかくなった土を風魔法で外側に飛ばし、敷地の外周に壁を作っていく。今度は魔法を解除せずに完全に固めてしまう。

 すると、目の前には根っこがあらわになった草が土という支えをなくして倒れている。それをウインドカッターでどんどん刈っていき、中央に集める。


 順番にこれらの工程を歩きながら繰り返し進めていく。

 大量の土を吹き飛ばしたり、物凄く伸びきった草をばっさばっさ刈っていくのは爽快で気持ちがいい。幸い魔力量には自信があるので困ることはない。こんな気持ちのいいことをして、お金までもらえるなんて幸せだなぁ。


 そうこうしているとようやく川が見えた。ふむ、なかなかだったから。魔法よりも歩き疲れた感じだが。


 振り返ると大量の草が積まれている。通常燃やすのだがなんとなくもったいなく思ったので、縛ってアイテムボックスに入れることにした。

 草をアイテムボックスにしまいながらもと来た道を戻り、屋敷まで帰ってきたのでちょっと一休み。アイテムボックスからお茶を取り出して飲む。


 仕事終わりの一杯はうまい。

 早く帰ってエールを飲みたいが、まだ仕事中なのでそこは我慢する。


 さて、そろそろ報告に行くかな。

 と、後ろを振り返ると、口を開けて固まっている執事の方がいるではないか。

 もしかして不備でもあったのだろうか。







 「あ、、あ、、、あ、、、」


 「終わりました、確認お願いします。」


 「あぁはい、そうですね。」


 少しぎこちない返事に、自分のミスに気がついてしまった。

 やはり勝手に壁を作るのはまずかったか。勝手なことをした私に呆れているのだろう。


 「すいません、勝手なことをして、すぐ壁を壊しますね。」


 「あ、いや、壁はそのままにしておいてくれ」


 よかったぁ、壁があることは大丈夫みたいだ。ほっと胸を撫で下ろす。


 「では依頼受諾書をください、サインしますので」


 あ、口調が戻っている。

 受諾書を渡すとすぐにサインしてくれた。

 さっきのは一体なんだったのだろうか、考えても分からないので、受諾書を受け取りギルドに戻ることにした。

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