表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしあなたが居なかったら  作者: MEGko
side 箏羽
8/44

ズルい女

 次の日、私は寝不足な目を起こすために洗顔に勤しんでいた。

「おはよ」

 隣に立ったのは周である。

「あ、周おはよぉ~ちゃんと眠れた?」

「その顔で聞くなよ」

 周はそう言うと隣で顔を洗い始める。私は顔を拭きながら「そんなに凄い顔してるのかなぁ」と心配になってしまった。

「え? 私そんなに凄い顔してる?」


「そんなことないない、いつもと変わんないぞ」

 ふっと後ろから大翔が声を掛けてきたので振り返った。いつもと変わらない大翔に私はかなり安心してしまう。

「よかった。ちょっと心配したんだから」

 私は少しぶつけるように言うと、周を睨んだ。普通ならそこでケンカになるのだが……あれ以来周は私にぶつかってくることは無い。そして大翔はそれにツッコむことをしてこなかった。


 なんだろう……凄い違和感。


 これって二人の関係とか突っ込んでいいのかなぁ。何なんだろう、この空気。

 ど……どうしよう……今まで大翔ともこんな空気なかったし、何がどうなっているんだろう。そう思って二人の顔をチラリと見る。

 二人とも笑顔なのが逆に怖い……。


「と! とりあえず朝食にしよう!」

 私はパンッと手を叩くと、うんうんとか言いながらその場から退散してしまった。



 あのぉ~

 大翔くん、周くん~

 もしもーし


 私は帰りの車の中、心の中でそう叫んでいた。

 何なのだ、この空気は。

「あのぉ~、二人とも?」

 なんかピンッと張られた糸のような空気を感じる。耐えきれなくなって私は声を掛けた。朝食時から……いや、洗顔時から続いている。

「ん? どうした、箏羽?」

 大翔が後ろを振り向き、お菓子の袋を出しながら尋ねた。そのお菓子をもらいながらモグモグ……ゴクンッ。


「いや、なんでもない……」

 やっぱりよく分からないけど、聞けない……聞いちゃいけないと、私の警告センサーが告げている。


 そのまま、静かに大翔を見送り私たちは静かに帰っていった。



 ❖ ❖ ❖ ❖

「あーもうなんかよく分かんないキャンプだった!」

 私は携帯をハンズフリーにして叫んでいた。

《なにその三角関係~》

 私は愚痴を美咲にぶつける。向こう側でケラケラ笑っている美咲の声がしていた。


「三角関係っていうか……別に大翔とは友達だし。そんなものでもないし……」

 そう言ってふっと話していた言葉に詰まる。

 あれ? そういえば、あの大翔の言葉って……「鈍い」を思い出した。

「私さぁ、大翔に『鈍い』って言われたんだよ~。何か気づいていないようなことってある?」

 素直に美咲に質問してみる。

 その後に沈黙が続いた。


《まぁ、今までは良かったんだろうけど……如月が出てきちゃったからねぇ》

 という返答が沈黙の後に返ってきた。

「どーいうこと?」

《そこが鈍いんだよ。朝霧は箏羽のことずっと『特別』な目で見てたの知ってる?》

「へっ?」

 想定外の言葉に、変な返事をしてしまった。


 なにそれ!

 大翔が私にラブと言うやつですって!

 いやいやいやいやいやいやいやいや

 ないないないないないないないない

 と思って「あっ」と思い出す。


 あの夜の大翔の言葉って……

 冷静になって思い出す。


《どうやら心当たり有りそうじゃん》

 美咲が突っ込んでくれて我に返った。

「うーん……でも……」

《如月と付き合っている……から?》

 その言葉がズキンッと心に刺さった。


「私は……周のこと……」

《好きなんでしょ? そんなことお見通しだけどね》

 そう言われると思わなかったのでびっくりしてしまった。


《箏羽ってわかりにくいのよ。あんなに如月に突っかかっていたのに、一人になると切ない目で如月のこと見てるんだもの》

《朝霧もそんな感じよ。箏羽と仲良しみたいな態度していて……いつも箏羽に向ける眼差しはそんな『仲良しオトモダチ』とは違うものだったし》

 ため息を尽きながら、美咲が説明してくれる。私にとっては青天の霹靂というものであった。


《でももう答えは出てるじゃん? 箏羽は如月と付き合いだしたんだし》

「……うん」

 そう、私は混乱に乗じてこの地位を得た。棚から牡丹餅というのか……そんな良いことではない。通話の向こうで美咲が《ごめん! お母さんが呼んでるから》と言い《またね》と通話を切る。


 私は大翔のこと、周のことを考えてソファーで三角座りをしながら俯いた。俯いていたら涙が溢れてくる。


 私はどうしたらいい?

 私は周が好き! 好きなの……

 ――でも

 今なら周を「解放」できるかもしれない。


 そんな「ズルい女」にまた逃げようとしている自分が嫌だった。嫌で嫌で――

 どうしたらいいのか分んない


 ……涙は取り止めもなく流れ落ちていく。

 私はそのまま声を押し殺して泣いていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ