考えの先には
夜半過ぎ……
私は一人湖畔にチェアを置き、水面を眺めていた。
「どうした? 眠れないのか?」
「あれ……大翔」
振り向くと大翔が立っている。
「大翔こそ、いつもはすぐ寝ちゃうのに」
クスッと笑ってしまう。ほんと大翔は寝つきが良くて、いつも羨ましいぐらいなのだ。
大翔はチェアを持ってきて折り畳みチェアを広げると、隣に座る。
「今日は特別なんだよ。だってお前とキャンプ久しぶりだろ」
そう言うと、嬉しそうな顔でそう答えた。
「ホントだよね。大翔とキャンプ行くのというか……キャンプ自体久しぶり」
私は湖畔を走る風を感じながら、湖畔の向こう岸を眺めていた。
「箏羽……お前らって何があったんだ?」
大翔がポツリと呟く。
「え? あ、うーん……いろいろ……かなぁ」
私はちょっとドキッとして言葉を濁した。
「お前さぁ」
大翔は立ち上がると私にそう言葉を投げかけた。
「本当にいろいろと鈍いよな」
大翔も向こう岸を眺めながらそう付け加える。
鈍い?
何が鈍い?
私何かした?
「どういうこと?」
私は意味が分からなくて聞き返す。
はぁ~とため息をつくと、大翔は私の方を向いて、私の椅子の背もたれを掴む。
「ずっと傍に居るのに」
見下ろす状態で、そう言う大翔の眼差しがいつになく真剣で……私はどうしていいのか分らなく、時が止まったかのように大翔の眼差しから目が逸らせなかった。
一瞬大翔の集中が別な方に向けられた気がした。
そして、チッと舌打ちをした後に、「『後の祭り』ってこのことだな」と吐き出すように呟く。
そして、またため息をつくと、私の頭をポンポン撫でた。
「何かあれば俺を頼れよ」
大翔の優しさがその言葉には詰まっている。私は素直に「ありがと」と言葉を返した。
チェアを畳みながら「早く寝ろよ」と言いテントへ戻っていく。
私は本当に良い友達を持っているなぁ、と思って嬉しくなっていた。
「でも、何か私気づいてないことあるのだろうか?」
鈍い、って単語の意味が分からず風に吹かれながら、その意味をずっと考えていた。
❖ ❖ ❖ ❖
「本気なのかよ」
大翔は立ち止まりそう尋ねた。
立ち止まった傍の木陰には、大木にもたれ掛かり腕を組んでいる周がいる。周に向かっての質問であった。しかし、返答はない。
咄嗟に大翔が周の胸ぐらを掴む。
「お前が本気だとは知らなかったが、こればかりは譲れない」
絞り出すかのようにそう告げる大翔。
「お前には関係ないし……」
そう答えると、周は胸ぐらを掴んでいる腕を掴み返す。
「箏羽は俺の女だ。手を出すな」
大翔を睨みつけ、そう言い放った。
チッと舌打ちすると、大翔はその手を振りほどくかのように、荒っぽく手を放す。
それ以上何も言わず、自分のテントへ帰って行った。