それぞれの思惑
キャンプ場は車で行くと案外近くて、びっくりだった。
クルマも侵入可のキャンプ場なので本当に便利! と大翔と感激してしまっている私である。
サイトフリーなので周が増えても問題は無い。受付で人数変更だけ伝えるとあっさり「大丈夫だよ」と返答してもらった。
私や大翔は慣れているので、せっせと自分のテントを組み立てる。久しぶりのこの感覚に、夢中になって私は組み立てていた。
ふっと周が居たことを思い出す。辺りをキョロキョロ見回すと……周は自分のテントを組み立て終わっていて、そばで大翔が感激している。
「はやっ! って、それワンタッチテントじゃん。いいなぁ~」
ワンタッチテントとは、折りたたみ傘みたいに簡単に設営できるタイプのテントである。
私たちはコンパクト重視なので、骨組みから組み立てるタイプなのだが、時間が少しかかる代物であった。
「ほれ、タープ設営してやるから出せよ」
周が「ほれほれ」と言うのを見ながら、「なぬ! 周はタープも設営できるのか!?」と私は言葉を疑った。
「オレ今からやるから手伝えよ」
と大翔がポールを組み立てながら、それを渡していく。私は本当に設営できるのか、道具を整理しながら観察していた。
周は設営方法を理解しているようにポールをセットしていく。これってインドア派でキャンプ初心者です! って動きではない。
それは大翔も実感しているようで、何も言わず二人で設営を行っていた。私と大翔で組むより早いかも……。
私はその手際の良さに惚れ惚れしていた。そして、設営したテントを満足そうに眺め、何か足りないことに気づく。
「あ、使用カード貰うの忘れた。ちょっと貰ってくるー」
使用時に掲げておかないといけない「使用カード」を忘れていたことに気づき、受付に向かった。
❖ ❖ ❖ ❖
「一体何の術使ったんだよ」
大翔はロープを引っ張りながら周に尋ねる。
「なんのことだ」
「お前らあんなに犬猿の仲だったのが……葉月が戻ってきたら『彼氏面』かよ」
吐き捨てるように大翔が呟く。
「朝霧に説明する必要はないけど」
周は振り向くことなく、そう答えた。
「なんだよ、それ」
大翔の動く手が止まった。二人の間に微妙な空気が走る。
「もうできたのー? 凄いじゃん!」
その時、走って戻ってきた箏羽の言葉で、その空気はかき消されていった。
❖ ❖ ❖ ❖
なになに、何この空気は……私は青くなってしまった。気のせい? 一瞬険悪なムードが漂っていたのですが――。
「何か……あった?」
恐る恐る聞いてみる。そりゃあ確かに大翔と周がめっちゃ仲がいいという記憶は無い。でも別に私たちのような犬猿の仲でもなかった……はず。
「別に何もないよん」
大翔の笑顔を見て少し安心することができた。周は……なんか変わらずである。気のせい……かな?
とりあえず、私は楽しいキャンプがしたいの!
そう心の中で祈った。






