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それぞれの想い

 ノックをすると、返事はない。

 部屋に入ると箏羽はまだ起きていない。眠り姫のようにただ静かに眠っていた。

 俺は箏羽の手を握る。少し暖かいその掌は、俺の荒ぶっていた心を平常へと戻していく。


 握りしめていた手の筋肉が微かに動いたことに気づいた。

 俺は咄嗟に「ことは……」と声をかける。


 俺は怖かった。箏羽に拒絶されてしまったら……覚悟はできていたつもりだった。

 でも箏羽の顔を見ると決心が揺らぐ。


 箏羽は俺を見るとびっくりした表情をする。

 俺は言われる覚悟をした。


 ……俺の手が震えている。


「ありがとう。私を助けてくれたのは周だよ。本当にありがとう」


 それは予想すらしない返答であった。

 箏羽が泣いている。

「どうした、箏羽」

「ううん、嬉しかったの。本当に……周は私のことを自責の念から付き合ってくれて……こうやって優しくしてくれているんだと思ってた」


 その言葉に俺はどうしていいたわからず首を横に振る。

「俺は……おまえにずっと嘘を言っていって縛り付けていたんだぞ」

 咄嗟に俺は思っていたことを口にする。

「周の優しさは私が一番わかっている。周が私の部屋に来てくれたとき……助けてくれた事には変わりないじゃない」

 そういうと、箏羽は天井を向くと息を吐いた。

「でもちょっと安心もした。やっぱり気にしちゃっていたから……何もなくてよかった」

 そう言うと、また大粒の涙が箏羽の頬を流れていく。

 俺は箏羽を抱きしめていた。


 ごめん……俺がバカだった。

 もっと早くに……素直になっていたらよかったんだ。


「俺はずっと箏羽のことが好きだった。昔からずっと……」

 俺は初めて箏羽に自分の気持ちを伝えていた。

 箏羽は微笑みながら涙を拭う。


「私の方がずっと前から好きだっだけどね」

 そういう箏羽は笑っていた。

 俺はその箏羽の笑顔がたまらなく眩しかった。嬉しくて嬉しくて……。

 ついつい「俺の方がその前から好きだったけどな」と反論してしまう。


 俺も箏羽に釣られて笑っていた。


 俺たちは今になって初めてお互いの気持ちを「認識」できたようだ。


 笑いながら……

 俺は初めて箏羽とキスをする。


 それは温かく優しい……箏羽を感じた瞬間だった。


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