もう一度振り返る
俺は休み時間になると、保健室のドアを叩いた。
その度に目覚めていない箏羽の顔を見て去る。
琥珀は俺のことを「好きだ」と言ってくれた。でも俺は琥珀に偽りを伝え、琥珀を縛っていた。
なんで……こうなってしまったんだろう。
後悔がずっと付きまとっている。
きっと暴漢が箏羽の家に押し入った時、それが俺と箏羽の関係を修正する糸口だったんだ。
それを俺は裏目に使ってしまった。
昼休み――。
「如月、ちょっといいか」
朝霧が俺の机の前に立っていた。雰囲気がいつもと違う。
俺にとって今はこいつを構っている気分でも暇でも無かった。
出来ればお断りしたい。
「俺、今お前とどうこうするほど暇ないんだけど」
俺は立ち上がる。
朝霧は立ち上がった俺の胸ぐらを掴んだ。
「……俺はお前に用事があるんだよ」
それは殺意が籠っていそうなほどの気迫である。
しかし、その程度……それも同級生程度でビビる心臓は持ち合わせていない。
俺はそれを手で振り払う。
「箏羽はなんで倒れた」
静かに呟くその言葉に、俺は反応する。
「お前には関係ない。それよりも同好会の報告書を箏羽に任せっきりにしたお前に、落ち度があるんじゃないのか」
その言葉にビクッと朝霧が反応したのを、俺は見逃さなかった。
今朝、箏羽は泣きながら走っていた。
俺が捕まえた時、箏羽は泣いていた……何故だ?
俺は何かが引っかかっている。
「後で同好会の部屋へ行く」
俺は朝霧にその一言だけ告げると、教室を後にした。
廊下を歩きながら、俺は自分のことばかり考えていたことに気づき、改めて朝からの出来事を時系列で追っていた。
事の次第はいつだ?
たぶん俺が帰ってから何かがあったんだ。
それで箏羽は次の日ひとりで学校へ向かった。
俺が見つけた時は泣きながら走っていた。
……確信が見えてこない。珍しく俺は焦っていた。
箏羽が目を覚まさないことも焦りに拍車をかけているが、
箏羽は俺に会った瞬間……「好きだ」と言ってくれた。
何故だ?
何故そのタイミングなのか。
昨日、箏羽と最後に会ったときは……確か涼風美咲と電話をしていた。
こいつがキーパーソンなのか。
俺は涼風美咲を探すことにした。




