お互いの想い
自転車を置くと、俺はそのままの足で部室がある「同好会」の方へ走り出した。
箏羽が辛いのは俺も辛い。もうこんな茶番は終わりにした方がいいのか。
俺は覚悟を決めていた。今までは自分の為に枷たこの関係も……箏羽の表情を一番近くで見る機会が増えて、俺の気持ちにも変化が出ていた。
箏羽の笑顔が俺、一番好きだ。
それが俺の出した結論だった。
校舎の別館ですれ違う瞬間、それが箏羽だということに気づく。
その表情……余りにも感情が複雑だ、と言いたそうな辛そうな表情に俺はびっくりして振り返った瞬間、同時に彼女の腕を掴んでいた。
「あま……ね?」
箏羽は涙目のまま、びっくりした表情で俺を見ていた。
「どうした! 箏羽、何があった!」
俺は昨日から引っかかっていて、不安だった質問を投げかける。
箏羽は掴んだのが俺だと分ると、彼女は急に涙が止まらない状態となる。
「箏羽……俺……」
もうこんな辛そうな箏羽は見たくない。
箏羽には幸せになって欲しい。それが……幸せにするのは俺でなくてもいい。
もう既に俺の心のわだかまりは溶けていた。
「周……私、周のことが好き。ずっと前から好きなの」
泣きながら箏羽の口から紡がれる言葉。
俺は最初聞き間違いだと思っていた。いや、絶対耳がおかしいと思っていたのだ。
箏羽が俺のことを好き?
ずっと俺のことを鬱陶しそうにしていた箏羽が……?
俺は時が止まっていた。
人生に於いてこれほど理解に時間を要したことは無い。
俺は只々箏羽の……俺を捉えて離さない瞳に、目が離せなかった。
「箏羽……」
その瞳が俺を見ている。揺らぐことなく「俺」を見ている。
俺はそれで箏羽の言葉を……この現実を理解し受け入れることができた。
何て言っていいのだろう……。
無意識のうちに俺は箏羽を抱きしめていた。
箏羽
箏羽
箏羽
箏羽
箏羽……。
俺はどれだけ名前を呼んだであろうか。
名前を呼びながら、俺も箏羽に「真実」を伝えなければいけない事を覚悟した。
もう隠してはいけない。
箏羽はに対して俺も全てを出そう。
告白されて……箏羽の気持ちを知ったのに、ブチ切れて拒絶されるかもしれない。
それでも……俺は伝えないといけない。
もう虚勢を張らなくていい。
見栄もいらない。
箏羽が笑ってくれれば……俺はそれでもう十分だ。




