彼女の希望
俺は別にどうこう思っていなかった。
たぶん朝霧も。
箏羽だけは勘が鋭いというか……空気を敏感にキャッチして「あのぉ~、二人とも?」と聞いてくる。
その言葉に朝霧が普段と変わりなく返答する。
「ん? どうした、箏羽?」
ちゃっかりお菓子を渡すという演出付き付きである。流石というか俺は感心してしまった。
――俺そんなに雰囲気出してたかな?
確かに意識してないというと嘘である。
箏羽との関係を考えても、朝霧の存在の大きさはオレより上だろう。
考えない訳が無い……そんな自分が嫌だった。
朝霧を家の前まで送り、荷物を出すのを手伝う。朝霧は終始俺には無言だった。
俺も必要以上なことは話さない。別に慣れ合う予定も無かった。
箏羽が助手席に座って、じーっと俺を見ていた。
「ん? どうした?」
俺は運転しながら尋ねる。
「なんか今朝から二人とも変じゃない? 大翔もなんかキャラ違ったけど……周は機嫌悪いの?」
そう言われて、箏羽には自分が「機嫌が悪そう」と捉えられていたことを知る。
「いや、そんなことないよ。久しぶりのキャンプだったし、リフレッシュできたから」
その言葉を最初不審そうに聞いている様子な箏羽だった。
俺は箏羽に微笑むと頭を撫でた。
ちょっと戸惑っていた箏羽だったが、フフッと笑い返してくれる。
よかった……箏羽にあまり心配をかけたくない。
それにこれは俺と朝霧の問題である。
箏羽には悪いが、俺はかっこよく身を引くという選択肢は持ち合わせていない。
マンションについて荷物を出しながら、箏羽に夕飯のリクエストを尋ねる。
「ナポリタンとか食べたいかな」
ナポリタンという単語から冷蔵庫の中を思い出す。
「おれ、ちょっと買い物してくるよ」
クルマを駐車する前だったし、そのまま行ってしまおうと思い、降りた箏羽には先に家に入るよう促す。
「それなら私も一緒に行くよ」
「疲れてないか? 別にピーマンとベーコン買いに行くだけだぞ」
「私、お菓子買うもん」
そう言うと、助手席に乗り込んできた。
俺はもちろん、箏羽と買い物に行きたくないという思いは一ミリも存在しない。なんならお菓子と言わずケーキ店へ連れて行ってあげたいし、その前に大抵のモノなら作ってあげたい。
俺は人が思っているより、箏羽の為なら自分はかなりの努力家だと思っている。
「食べたいお菓子何かあるのか?」
試しに聞いてみる。
「ポテチの新味、『ぜんざい味』とか出ているんだよっ! なんか凄くない?」
それ……美味いのか?
少なくとも今の俺には作れない……。
俺はため息をつきながら、この変わった彼女の希望を叶えるべく、少し大型のスーパーへ足を延ばした。




