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現実に気付く

「朝霧に説明する必要はないけど」

 俺は振り向くことなく、そう答えた。

 俺は疑惑が確信に変わった瞬間、朝霧に対して敵視していたのだ。我ながら大人げないと思う。しかし、自分のことは棚に上げて「怒り」が込み上げていたのは確かだった。

 なんでもっと真正面から攻めない。こんな回りくどい事をしているんだ……と。


 本当はそれは安堵なはずだった。

 でも……俺は自分自身の「怒り」に対処できず焦りが生じる。本当は回りくどい事をしているのは自分である。その葛藤が消化できない。

「なんだよ、それ」

 その言葉を放ち、朝霧の動く手が止まった。朝霧は俺に何か言いたそうな瞳をしている。

 俺と朝霧の間に流れる重々しい空気を壊したのは、戻ってきた箏羽だった。


「もうできたのー? 凄いじゃん!」

 嬉しそうに駆け寄ってきた箏羽も、一瞬この空気を読んでしまったのか、言葉に詰まっている。

「何か……あった?」

 箏羽が心配そうに声を掛けてきた。

 俺は我に返り笑顔を向ける。この程度で箏羽に心労をかけたくない。箏羽が楽しければ……それが俺の「望み」だった。


「別に何もないよん」

 朝霧がいつも通りの笑顔を箏羽に向けている。

 今回は……その笑顔に救われた。

「箏羽は心配性だな」

 俺は不安そうにしている箏羽の頭をポンポン撫でる。

「俺ちょっとトイレ」

 そう言い残して俺はその場を立ち去った。


 俺は分かっていたんだ。

 俺では埋めることのできない関係が朝霧や箏羽にはあることを。

 それは今から俺が塗り替える気でいるが、それは俺の勝手な理由であり、箏羽を引きずり込むのは本意ではない。


(俺……焦っているのか?)

 自問自答している自分に苦笑している。ほんと……この拗れた関係を修復するのは容易ではないと思った。

 その前に俺は箏羽に「嘘」をついている。

 俺はこれ以上……箏羽を縛りたくはなかった。




 夜半過ぎ……。

 俺は物音で気づいた。普段からキャンプ時はあまり熟睡しない質である。

 今回は特に「このメンバー」で熟睡など無理な話であった。

 隣でゴソゴソ音がしている。この位置からして箏羽であることは明確であった。

(こんな夜半過ぎに何やっているんだ?)

 俺は折り畳チェアを持って湖畔へ向かう箏羽を追いかけようか考える。

 しかしキャンプ場と言っても、こんな夜中に一人はやはり心配だった。


 起き上がって、テントから出ようとした時……俺はテントの前を横切っていく影に気づいた。


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