期待してもいいのか
体力低下に俺はかなり焦ってたが、箏羽は体育にも参加できるようになっていた。
俺は別に運動全般も自慢ではないが、それなりにできる。体育如きのことなど、本気にならなくても卒なくこなす。
それよりか琥珀の心配が先行していた。
琥珀は学校では前と変わりないよう生活していた。
誰も「自宅であんなことがあった」事実など微塵にも思っていないだろう。
実際何も無かったのだ。
俺は苦笑する。
家に帰ってからの箏羽は外へ出ようとはしなかった。
俺の買い物に付き合ってくれる程度はできていた。
ただ、学校内でもいろいろな変化には気づいていた。
俺はモテると思う。
実際箏羽の気を引き換えに色々な女と付き合ってきたが、特に心ときめくことは無かった。恋愛対処スキルばかり上がっていく。
「羨ましがるような優しい彼氏」の演出ぐらいは朝飯前だった。
俺が欲しかったものはそんなものではない。
箏羽だけだった。
負のループなのは分かっていた。分かっていたが、結局自分にも意地が出てしまい、無駄な女との付き合いばかり増えていた。
今回の事の前に別れておいて良かったと、本気で感謝していた。
「周ってホントにアタシのこと好きなの!?」と言い詰められてウザくなったのが、事の顛末だった。
ただ、その逆恨みが箏羽に向けられていることにはイライラしていた。
直接的には俺がけん制しているので、何もないが……噂や視線は俺でも気付くぐらいの痛いものだった。
箏羽を追い込んだのか、という不安もあったが、それを払拭する愛情で俺は箏羽を守る!と心に決めていた。だから、誰もが羨む「彼氏」でいるように……学校では気を付けていた。
しかし、実際は「自然体」で良いことに気づく。
俺は箏羽が大好きで、箏羽しか頭にない。
自然と言動は優しく甘くなっていた。
「周って……好きな人いないの?」
学校帰りに箏羽が唐突に質問してきた。
俺はそんなこと聞かれることを予測できなかったので、面食らってしまった。
「どうした?」
俺は何か心配してしまう。箏羽は俺の知らない「好きな誰か」がいるのだろうかね、ビクビクしてしまった。
「ううん、周って常に彼女いるじゃん」
と小さい声で呟いている。
それって……気にしてくれていたのか? とちょっと期待してしまった。
「そんな心配、箏羽は心配しなくていいんだよ」
俺はついつい嬉しくて頭を撫でてしまう。
これは期待していいのか?
いいんだよな?
「箏羽はそれとも……辛いのか?」
心配もしてしまう。
俺なんかが傍にいることが負担になってしまっている……のか。
箏羽は慌てた様子で首を横に振っていた。
「周に助けられてばかりだもん」
そう申し訳なさそうに言う箏羽が愛おしくて……
俺は咄嗟に箏羽を抱きしめる。
「俺が箏羽の全てを受け入れるから。ずっとずっと守ってやる」
自然と箏羽に思いが言葉として伝えられていた。
箏羽は……少し切なそうな顔をして微笑んていた。




