贖罪
「泣いている……の?」
私は全身の痛みに耐えながら、周の頬を撫でた。段々意識が鮮明になっていく。身体は思うように動かないが、状況は分かるようになってきた。
荒らされている室内、割れているガラス……服は破れてほぼ何も纏っていないような状態の私。
「周……私……」
それ以上は怖かった。怖くて聞けなかった……「どうなったのか」認識を脳全体が拒絶しているようだった。
周は私を抱きかかえると、ベッドに寝かせてくれた。
どうしようもなく涙が溢れて止まらない。私はの涙を拭いながら周は私の頭を優しく撫でてくれる。
言葉は無かった。私はそれで何があったのかを悟った。「そうか……生きているだけでも儲けものなのか」そんなことを思うと、悲しくてやりきれなくてまた涙が流れる。淡い期待をしていた大人の階段への経験は夢物語で、もう今後ありえなくなったものと化したのだろう。
周は表情を少し曇らせていた。
そして、静かにこう言った。
「俺がこの先ずっとそばにいてやる」
私は目を見張った。あの私のことを小馬鹿にして、何かあると衝突していた周がそんなこと言うなんて……。
これが普段の告白なら、私は嬉しさ絶好調で舞い上がっていただろう。
でも、周の優しい笑顔には影があった。
「……俺しかこの事実は知らない。だから……背負ってやる」
これは「罪悪感からなのか」と悟ってしまった。周が悪いのではない、これは事故で……周は助けてくれたのだ。周は悪くない。
――でも私は、その優しさに付け入ってしまった。
❖ ❖ ❖ ❖
私は数日眠っていた。
周が学校に「インフルエンザになった」と伝えてくれていた。
そして、その間は周が朝と夕とやってきてくれてはご飯を作ってくれている。私は「意外に周って料理上手なんだ」と感心してしまったが……食事は何も喉を通らなかった。
流石に2日3日経過した時、周は「病院へ行こう」と言ってくれたが、私は外が怖くて首を横に振った。
「でも……水分も飲めないのは流石に」
周の顔が曇る。
悲しい表情が私の中でとても印象に残り、「大丈夫、飲むから」と、なんとか経口補水液――「飲む点滴」と言われるドリンクを含む。ひとくちふたくち飲み込み……むせてしまう私の背中を擦ってくれる周の掌は、とても温かかった。
ひとくちはとても大きかった。
それから少しずつおかゆなどの流動食が、少しずつ喉を通るようになった。
「頑張ったな」
周が嬉しそうな表情をして私の頭を撫でてくれる。今までこんな表情向けてくれたことは無かったし、スキンシップもない。
私の心は虚無感ばかりだったが、少しずつ光が差してきた気がした。
1週間が経過して……、私は少しずつ「リハビリ」をしようと思うことができた。このままでは学校へ行くことができない。
「周、私少しずつ外へ出ようと思う」
夕食を作り持ってきた周にそう伝えた。びっくりした表情で私を見ている。
「箏羽、大丈夫なのか」
「うん、少しずつ前を向いていかなきゃ」
それは私の決意でもあったが、「いつか周を開放してあげないと」という思いもあった。周のことは好きで、こんな境遇になって初めて願いが叶っている感覚である。
それでもこれは「周の本心ではない」と心が叫んでいたからだ。
――周を開放する。それが私の「目標」になった。




