変化
箏羽は俺の元へ駆けてきた。
「周! その……こんな学校で言わなくても……」
その真っ赤になって恥ずかしがっている顔が、とても可愛くてついつい笑ってしまう。
その裏には朝霧に対してしてやったという思いもあった。
俺は箏羽の最近の状態をずっと看病していた。
だから「元気になった」ことの方が嬉しかったのかな。
こうやって喜怒哀楽を出してくれる。ちょっと前の箏羽にはなかった表情だった。それと同時にちょっと寂しくなる。学校やクラスメイトなどの環境って凄いんだな、と俺の至らない部分を認識する結論となった。
「それだけ元気になったのなら安心だな」
俺は素直な感想を述べる。
そんな箏羽を見て……嬉しくてついつい笑顔になってしまった。
表情がコロコロと変わっていた箏羽の表情が急に暗くなる。
俺はその変化を見逃さなかった。
「それは……周の責任じゃない」
箏羽が辛そうにそう呟く。
俺は時が止まるほどの衝撃だった。箏羽はそんなことを思っているのか。
俺の方が箏羽を縛り付けているのに、お前は……自分を責めているのか。
俺は自分自身に嫌気が走る。
でも、それでも箏羽のことが好きで、大切で……どうしても今の関係は壊せない「ズルい自分」を押し殺す。
「俺が決めたことだからいいんだよ」
俺は贖罪を込めて箏羽に微笑む。
ごめん……箏羽。
許してくれとは言わない……ただ、傍にいる権利だけは俺に許してくれ。
「箏羽は何も気負わなくていい」
箏羽の頭を優しく撫でる。
箏羽……そんな顔しないで。
箏羽……いつも笑っていてくれ。
箏羽……俺の傍にいておくれ。
それが俺の唯一の望みだった。
箏羽の全てをオレが守るから……。
小さく頷く箏羽を今すぐ抱きしめたかった。
優しく優しく……包み込んで俺だけのものにしたかった。
あれ?
俺はふっと視線に気づいた。どうやら箏羽は気づいていないらしい。
教室扉にもたれ掛かり、腕を組みながら朝霧がこっちを見ている。
お前……やはりそうなんだな。
俺と朝霧は目が合ったが、逸らすことはしなかった。
俺を見ていた朝霧が教室へ入る。
お前も動くのか……
俺は不安が拭えない。
この関係なら大丈夫だということが、過信だと再認識する。
俺も変わらなければ、箏羽の傍に居続けることはできないことを、その時実感した。