宣言
登校初日、箏羽は震えていた。
俺はそっと震える手を握りしめる。
箏羽は俺を見て笑顔を取り戻した。
登校時から注目の的だった。
まぁ俺と箏羽という異色のセットだからなぁ、というのは分かっていたが……正直言ってウザい。
教室へ着くと、箏羽の友人、涼風美咲が駆け寄ってきた。
「ことはーっ! 心配したんだよーっ! インフルエンザだからお見舞いもできなかったし。LIMEも既読にならないし……」
そう言いながら、箏羽に抱き着いてくる。
別に俺はコイツのことは嫌いではなかった。
「ホントだよ、お前が2週間休むとかありえんし」
この言葉を聞いて、おればビクンッと意識し振り向く。
そこには嬉しそうな顔をしている、朝霧大翔が立っている。
一番近寄ってきてくれて欲しくない人材だった。
箏羽は今まで何もなかったかのように、「大翔もありがと。またキャンプいこーぜい」と仲良く拳をコツンッと当てて笑っている。
本気で実に不快極まりない。
俺はそんな箏羽と朝霧のやり取りが見たくなくて、よくつるむクラスメイトのところで話をしていた。
話をしているんだけど、ちゃっかり聞き耳は立てている。俺ってホントストーカーの域だよなぁと軽く自己嫌悪に陥っていた。
「それにしても、流石に驚いたよ。朝の登校……あの如月と来るんだからなぁ」
朝霧の声が聞こえる。
「ほんと、箏羽と如月とは『犬猿の仲』だと思っていたのに~」
涼風も不思議がっている声が響いていた。
箏羽は「まぁ一応『幼馴染』だから……かなぁ」と曖昧な返事をしている。
その言葉で俺は無意識に箏羽のところへ向かっていた。
「違うだろ?」
咄嗟に会話に入ってしまった。
箏羽にとっては俺らの関係ってあまり言いたくないのか? と少し寂しくも思ったが、ここで一度周りに知らしめる必要がある。
「何が違うんだ?」
案の定朝霧が話に割って入ってきた。
ほら、やはりそうだ。
俺は特に朝霧に分からせるため、敢えて目の前で箏羽の頭を軽く抱き寄せる。
「俺の彼女になったからだ」
満面の笑みでそう宣言してやった。
クラス中が騒然となったが、そんなことは知ったことではない。
あの朝霧のショックな顔……今思い出しても優越感だ。
「あ、そういうことだからヨロシク」
俺はかなりご機嫌で廊下へ出て行った。