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決断

 俺は嬉しかった。

 箏羽が少しずつ「生きる気力」を取り戻しているかのようで。


「頑張ったな」

 そう言うと、ついつい箏羽の頭を撫でていた。

 可愛くて仕方ない。気を抜いたらギューッと抱きしめてしまいそうな自分が居た。


 いやいや、まだ食事も十分ではないのに何考えているんだ!俺……。



「周、私少しずつ外へ出ようと思う」

 あれは1週間が経過したぐらいだろうか。箏羽がそう呟いた。


 俺はビックリした。

「箏羽、大丈夫なのか」

 俺は不安で仕方なかった。そしてできればこのままずっと「囲って」しまいたかった。

 今、箏羽は全身が俺にだけ向いている。


 俺は「無理しなくていい」と咄嗟に箏羽へ伝えた。

 無理じゃなくても、俺が箏羽の全てを守るから。だから安心して委ねて欲しかった。


「うん、少しずつ前を向いていかなきゃ」

 箏羽のその言葉を聞いて少し寂しく思う。

 しかし同時に嬉しくもあった。


「少しずつでいいからな」

 俺はそう言うと、箏羽を抱きしめていた。




〝俺は箏羽を苦しめているのか?〟




 その言葉に胸が締め付けられる。

 箏羽との関係修復にどれだけの負担を、箏羽に背負わせているのだ……。


 箏羽は俺の気持ちを伝えたら、素直に受け入れてくれるのだろうか。

 いや、それは無いだろう……箏羽の瞳には俺は映っていない。



 ――俺はこんなに臆病者だったんだ。



 金曜日の夜、箏羽は「明日出てみる」と俺に伝えてきた。

「大丈夫なのか?」

 俺は再度確かめる。

 箏羽はコクンッと頷いた。



 箏羽が決めたなら……俺はこいつを支える。



「早朝に行こう。人も少ないし」

 俺は明日早朝に来る、と伝えた。




 その日は眠れなかった。

 箏羽が外に出てしまう。それは嬉しかった。嬉しかったが……。


 また、はばたく練習を始めているのではないのか? という疑問が拭えない。


 でも今は、前とは違う。

 俺が彼女の全てを支えると伝え、彼女はそれを了承した。


 だから〝俺の前から飛び立ってはいかない〟


 何でこんなに弱気になっているんだ……俺。



 次の日

 俺は暗いうちから起き出し、箏羽の部屋に向かった。


 いつも箏羽は眠っていることが多かったから、自然と入る時は静かに起こさないクセが付いていた。


 箏羽の部屋を覗くと、箏羽は眠っていた。

 そのまま眠っていて欲しかったが、箏羽の決めたことは俺も寄り添いたい。


 箏羽の部屋の扉を静かに閉める。

 扉を閉めて、ふっとこの扉を前に潜ったのはいつだっただろうか、と思い始めた。


 あれはまた小学低学年だった気がする。

 箏羽はよく笑う活発な子だった。


 まだ俺たちの仲が良かったころ……二人の家に「垣根」はなかった。



 ――箏羽の笑顔は俺に向けられていた。





 キッチンへ行き、朝食の用意を始める。

 帰ってから箏羽が直ぐに食事できるためだ。


 今朝は何にしよう。

 ほうれん草をソテーして、目玉焼きに冷蔵庫にあった白身魚も添えて……

 色々考えていたら、後ろからの声に気づかなかった。


「周、ありがとうね」


 箏羽が着替えて立っている。

 ジャージで頼りなさそうに壁に寄りかかりキッチンの入り口で微笑んでいた。



 俺は泣きそうになった。

 箏羽の笑顔が嬉しくて……俺に向けられた笑顔。



 無意識に箏羽の傍に寄ると抱きしめていた。

「大丈夫か、無理してないか?」

「うん、大丈夫。少しずつでも歩いて行かなきゃ」


 俺は箏羽から離れたくなかった。

「周……どうしたの?」


 あ、箏羽を心配させてしまう。

 いや、嫌がられているのか!


 咄嗟に離れて、顔をそむけてしまった。

 どんな表情してるんだよ、俺。



 俺は恥ずかしさ紛れに、箏羽のジャージのフードを箏羽に被せてしまった。

「なにするのよ」

 箏羽がクスクス笑っている。


 その笑い声で、俺の方が少し安心させてもらった。


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