食事
次の日、箏羽が起きたので、俺は嬉しくておかゆを作ってみた。
箏羽が「美味しい」と言ってくれるのを期待していたからだ。自炊は長かったし、料理ぐらい箏羽のためにいつか作るために、俺は結構バリエーションを広げていた。
今やっとそれが実を結んだことになる。
嬉しくて、つい張り切ってしまう。
しかし……
箏羽は「一口」も喉を通らなかった。
最初は「こんな事の後で食欲なんかあるはずはない」と下膳した食事を流しに置いて唇をかみしめていた。
俺なにやっているんだろう。
あんな目に合ったのに、箏羽に新婚気分を望むとか……自分のアホさ加減に嫌気がさしていた。
朝夕作るが、箏羽はベッドで向こうを向き、時より泣いている姿も見ることがあった。
俺は自分の無力さを痛感した。
せめて……水分は接種してほしい。薬局で経口補水液を買ってきた。
箏羽は日に日に弱っていったのは明らかだった。
俺はどうしていいか、もうパニックの域だだった。
ゲッソリとしている箏羽を抱きしめる。
「病院へ……行こう」
俺は提案した。
箏羽の全身には青あざが顕著に表れている。そして首のアザ……これは隠しきれない。
しかし、もう箏羽の体力が限界になりつつある。
精神疲労も酷くなっているのか、日に日に箏羽は言葉を失っていた。
俺は覚悟を決めた。
何かあった時は、俺が全部責任を負う。それは変わりない。
しかし箏羽は首を縦には振らなかった。
「でも……水分も飲めないのは流石に」
俺はどうしていいのか迷っていたのだ。もう救急車を要請すべきか……。
そう思い電話をしようと携帯を取りに行く。
「周……」
背後でか細い声が聞こえ、立ち止まった。
「大丈夫……飲むから」
箏羽はそう言って「笑って」くれた。
お前ってやつは……辛いはずなのに、口に含むのも辛いはずなのに……
俺は経口補水液のペットボトルの蓋を開ける。
それを飲みやすいようにグラスに移した。
箏羽の手は震えていた。
ゆっくりと口に含む。
ひとくち……ふたくち……
飲めた!
二口目で咽て吹き出してしまった。
俺は慌てて背中を擦る。
でもこうやって一生懸命頑張ってくれている箏羽が、とても愛おしくてついつい後ろから抱き着いてしまった。
「どうしたの? 周?」
箏羽は不思議そうに後ろを振り向こうとしていた。
「ううん、お前が飲んでくれたのが、すっげー嬉しかった」
今は俺は何でも素直に箏羽に伝えられる。
箏羽は俺の「言葉」を聞いてくれる。
俺は本当に最悪なやつだ。
でもそれはあの時からもう心に決めていた。
箏羽の隙間は今度こそ自分が埋めていく。
誰でもないこの俺が……!
次の日から、まずはスープや重湯といったものから始めることにした。
俺は療養食の本を片っ端から図書館で借りて、ネットで穴が開くほど閲覧していた。
学校の図書館で借りると、勘繰られることがあるりで、俺はこっそり公立図書館へ行っては本を漁っていた。
「最初からおかゆとか無謀だったんだよ」
俺の知識の無さに嫌気がしてくる。
流動食は功を奏したのか、箏羽の「ひとくち」が段々増えていった。
俺はその変化にガッツポーズしてしまった。