もしあなたが居なかったら(終)
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重い瞼を開けると、そこは白い天井と、白いカーテンが風になびいている。
どうやら保健室で横になっているようだ。
私は今朝の津波のような出来事を思い出していた。大翔に告白され、周に告白され……その前に私は「無事」だった。
魂が抜けるってこんな状態なのかしら? と思いながらボーッとしていた。
カーテンが開いて、保健の先生が私を見て安堵したように声を掛ける。
「葉月さん目が覚めた? 今朝学校に着いたら、如月くんがここにあなたを運んできていたのよ」
先生は私の顔をチェックし、眼瞼を確認すると「貧血じゃあなさそうね」と呟いた。
「基礎疾患は聞いていないけど……何かあったの?」
「いえ……昨日ちょっと寝れていなくて。それでだと思います」
私は天井を見ながらそう答えた。
「夜更かしの結末ね。今日は少し寝てから帰りなさい」
先生は笑顔でそう言い、私の布団を優しくトントンしてカーテンを閉めてくれた。私は風に揺らめいているカーテンを見ながら……少し眠りについていた。
次に目が覚めた時には、周が座って私の手を握りしめていた。
私が目を覚ましたことに気づき、囁くように「ことは……」と声を掛ける。
その握りしめている手は、震えていた。
「ありがとう。私を助けてくれたのは周だよ。本当にありがとう」
私は微笑みながら、思ったことを伝える。嘘を告げられていたショックは無かった。それよりも周が私を見ていてくれたことが、周の優しさを知っているから……周の告白は素直に受け入れることができている。
「私の方がずっと前から好きだっだけどね」
私は笑いながらそう周に伝えた。
一瞬動きが止まった周が、ちょっと泣きそうな顔をして「俺の方がその前から好きだったけどな」と答える。
それを聞いて、私はクスクス笑ってしまった。
周も少し赤くなりながら微笑んでいる。
私たちは今になって初めてお互いの気持ちを「認識」できたようだ。
周の唇が私と重なる。
それは優しいキスだった。
「……朝霧から聞いた。ペナルティ1回な」
「えっ、何を聞いたの?」
私は少し焦る。周を開放しようと思っていたけど、私のやったことは「彼氏が居るのに他の奴とキスをした」という問題行動……だよね。
「でも、周が嘘ついてたんだから、チャラだよ」
私がいたずらっぽく笑って見せた。
ウッと声を詰まらせると、チっと舌打ちする。
「……今回だけな。次は許さない」
そう言うと、また周は唇を重ねキスをする。
それは私にとって忘れられないキスだった。
少しして、大翔が保健室へ来ていつものように「今週もキャンプな、二人で」と周の横で宣言していた。
周がイラッとして、大翔を睨み「これは俺のものだ」と抱き寄せる。
「別にいいじゃん~同好会なんだしー」
ベーっと舌を出し言葉に追い打ちをかける。周のイライラはマックスとなっているようで「どうやら言葉では分からないようだな」と言い出していた。
それを見て私は可笑しくて笑ってしまう。険悪だった二人も私が笑っているのを見て、怒りを抑え「やれやれ」と言いたそうな顔つきになっていた。
その後のことは……
今は、「めでたしめでたし」とだけ伝えておきます。
「箏羽、行くぞー」
その周の私を呼ぶ声が、今日も心地良い風となって私を包んでいたのだった。
※番外編・side周に続きます。