世界が変わる
キャァーッ!
私は暗闇の中、悲鳴をあげた。
私しかいないはずの部屋に何かが居ると恐怖が教えている。
暗くて分からないが、何かが私を掴む。掴んでそのまま倒れ込む。
そして、急に首筋に圧が掛かると、息ができない苦しさに襲われた。首を絞めつけられているのは明白であり、声も出せず、息もできない。聞こえてくるのはキーンッという耳鳴りと何者かの荒い息遣いだった。
必死に抵抗する。命の危機だと咄嗟に頭が判断していた。月明かりで見えた、私の記憶には、私の上に馬乗り状態の全身黒ずくめの男と、私の首を絞める指、服を引きちぎられ全身を弄られる感覚。
それは数分もなかったのかもしれない、もしかしたらもっともっと長い時間だったのかもしれない。
頭がフワフワしてもう何が起きているのか、何をされているのか、全てがどうでもいい感覚になっている。
……私の意識はそこで途切れていた。
「こと……は……箏羽!」
私は朧気ながら、その声を聞いていた。「声が……聞こえる。あれ? あま……ねの声だ」目を開けたのか薄っすらと天井が見える。
私を強く抱きしめている腕の力を感じている。私を抱きしめているのは、隣に住んでいる幼馴染の如月周だった。
その顔が、私が気が付いたことで咄嗟に私の顔を覗き込む。
「箏羽……大丈夫か」
それは静かな、ある種悲しみを含んでいるような言葉だった。
何が起こったのかと体を起こそうとして全身に激痛が走る。
「周……これはいったい」
ぼーっとしながら、事の発端を思い出そうとする。
私確か、その日は学校が終わってから書店に寄ったのよね……、そして参考書を買ったの。夕飯のおかずを買って、親は海外赴任で居ない家に帰って……部屋に入って暗い部屋の中で電灯をつけようとして……。
「い……イヤァーッ!」
思考が現実に追いついて拒絶する。あれは、あれは何だったの! 錯乱状態の私を宥めるように周が叫び続ける。
「もういい! もういいから! 俺がいる、大丈夫だから!」
その言葉で私のオーバーヒートした頭は少し落ち着いてきた。周の温もりがこんなに心地いいなんて……今まで想像すらしなかった。
私、葉月箏羽は、今年高校三年生になった。周とはマンションがお隣同士であり、私立の一貫性の学園に通っていることもあり、幼稚園からずっと一緒だった。周のご両親は研究員で海外赴任されている。あれはいつ頃だっだのだろう……高校に入る頃だったと思う。その頃から周は一人暮らしを始めていた。
私の両親は周のご家族と仲が良かったので、何かと面倒を見ていた。しかし、私たちは周知の事実である「犬猿の仲」だった。全て私の発言に反論をする周。お互いが「苦手な人種」だと思っていただろう。
でも私は周が密かに好きだった。
周のルックスは世にいうメガネ男子で、インドア好きで家が好き、本が好きなインテリ派でもあった。イケメンという類なのであろう、お付き合いしてくださいイベントは色々見てきている。
何人かと付き合っているのを目の当たりにしては、失恋していた。ただ唯一の強みは「幼馴染」という点である。これで私は犬猿の仲でも、彼と接することができていた。
私といったら、体育会系のアウトドア大好き少女であった。二人しかいない同好会「キャンプ同好会」を立ち上げ、休みの日になればその二人で互いにソロキャンプを楽しんでいる。周には「理解できないアホ」といつも週末出かける時に、「激励」と頂いていたが……楽しいのだから仕方ない。そんな言葉は蹴散らして出かけていた。
高校三年生にになって、周のご両親が私の親に研究を手伝ってほしいと、話を持ち掛けていた。私の両親も研究職だったのと、私が高校三年生になったからと、その話を快諾し海外赴任してしまったのだ。お陰でウチも周と同様「一人暮らし」となった。
普通だったらそこで「夕飯は一緒で、そのうち芽生える恋愛」などを期待するのだが、その兆しは一向に現れることは無かった。お互いがお互い生活を謳歌しているため、出会うのは学校のみである。ただ、何かあった時用に合いカギは持ち合わせていた。
その周が……泣いている。