五話
「今日から新たな訓練生が増えることとなる。お前、名前は」
「木龍友和です」
「よし、友和。戦友との挨拶は終わったな。お前にはまず走ってもらうぞ」
「走るんですか」
「戦場ではまず体力がものを言う。機操士であっても戦術機を失うこともある。そうなった時、お前はただ殺されるのを待つ子羊になるつもりか」
「死ぬのは嫌ですね」
「なら文句を言わず走れ」
「わかりました」
「返事はイエッサーだ」
「イエッサー」
友和は戦友と言われた者達と共にグラウンドを走り始めた。
周りはリュックサックに小銃を抱えて走っているというのにどんどん距離が開いていく。
「なんだ。もうへばったのか。そんなことでは戦死するぞ」
後ろからは監督するようにミレイユが鞭を片手に走っている。
ミレイユは遅れると容赦なくその鞭で体を打ってくる。
友和は痛みに耐えながら走り続けることしかできなかった。
「はぁはぁ・・・。俺は何のために走っているんだ」
「無駄口を叩くな。何も考えずに走り続けろ」
またしても鞭を打たれる。
背中は何度も鞭を打たれて感覚がなくなってきていた。
気が付けば日が沈もうとしている。
その風景を綺麗だと思う余裕すらなく限界を迎えてグラウンドに横になる。
「なんだ。もう限界か。初日だしこれぐらいで勘弁してやろう」
ようやっとこの地獄のようなシゴキから解放されるようだ。
「いつまで寝ている。早くいかないと飯がなくなるぞ」
飯がなくなっては一大事だ。
震える体で何とか立ち上がりヨロヨロと他の訓練生が向かっていく方向に歩いていく。
建物の中に入り廊下を進んでいくと食堂のような部屋にたどり着く。
どうやらトレーに一人分の食事が入れてありそれを自分で取りに行く形のようだ。
ヨロヨロそちらの方に進んでいくと足を出され転んでしまう。
「おいおい。ルーキー。大丈夫か」
何を白々しい。
お前が足を出したせいじゃないかと言いたいがそんな気力もない。
「あはは。おいおい。そう虐めてやるなよ。ミレイユ教官の扱きでボロボロなんだろ」
「ミレイユ教官にワンツーマンで扱かれるなんて幸せなやろうだ」
足を出してきた奴が頭を掴み小声で言ってくる。
「俺達の足を引っ張りやがったら承知しないからな」
俺は求められてこの場所に来たはずなのに蓋を開けてみればどいつもこいつもふざけた奴らだ。
そこにミレイユがやってくる。
「おい。お前ら、この状況はどういうことだ」
「こいつが勝手にこけただけです。今起こすところですよ」
背中を思いっきり押さえつけられながら強引に引き起こされる。
惨めな気持ちのままなんとか食事を受け取り無理矢理、胃に食べ物を詰め込むのだった。