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最終回・かみんぐあうと

★★★三鷹守みたかまもるのターン★★★


 意中の乙女と2人きりになれたと思ったのに、何故かお婆も相席している!なんで涼もお婆も彼女も皆が神出鬼没なんだ。全く理解が追いつかないぞ。


「お婆さん!何故にこの店に我々がいると分かったんです!?」

「三鷹さんと涼がいるなんて知らんわい。単にこの店はワシの孫娘が経営しとるってだけじゃ」


 どゆこと?


「つまり涼の母親が経営してる店なんじゃな。暇じゃから遊びに来たわけ」

「しーっ!婆ちゃん、それ言っちゃ駄目!」


──なるほど母親の店を選んだのか。ちゃっかりしてんなあ涼のヤツ。


 彼女は深くため息をつく。そして美しい髪に手を当てテーブルに突っ伏した。


「ああっもうっ!何もかも面倒になってきた」

「なんですか急に。俺、なんかマズイことしました?」


 おもむろに彼女は立ち上がる。そして自分の胸に手を当て、真っ直ぐに俺を見つめた。


「私の名前は北川涼。アンタがシェアハウスで『涼』と呼んでる男と同一人物なの」


 思いつめた表情で俺にカミングアウトしているようであったが、一体何をカミングアウトされているのか理解できない。


「同姓同名ってことですか?」

「違うっ!同一人物ってこと」

「またまた。ご冗談を……。だって貴方、女の子じゃありませんか。体格だって全然違うし」


 すると彼女はズボンのポケットから珈琲キャンディーを取り出してみせる。


「そうなの。本来は女なの。でも珈琲成分を摂取すると……」


 彼女が珈琲キャンディーを頬張るや否な……麗しの乙女は消え去り目の前に女装家の涼が現れた。


「男になっちゃうわけ」

「ばかなぁぁぁぁぁ!」


 俺の食べたクレープ、やばい成分が混じってんじゃないだろうな。これ幻覚だろ?


「お前、何してんの。引田天功レベルの壮大なイリュージョンやめろよ」

「店の中でそんなのやるわけないでしょ!」


 嘘でしょこれ。恋した乙女と女装家が同一人物ってオイ!


「もし守が変身を撮ってSNSにアップしても無駄だから。CG使ったフェイク動画って言い張ってやるから」

「しないし。ていうかアップしても誰も信じねーよ。俺が信じきれてないんだぞ」



 その後、何を話していたのか覚えていない。記憶もない。会計の時にお婆から『まいどありー』と言われたことだけ覚えてる。店を後にし呆然と1人シェアハウスに戻る。


──彼女が男になったのが涼だったのか。確かに辻褄は合う。


 洗面所で顔を洗って頭を整理してみる。ここは前向きに考えるべきではなかろうか。これからは意中の乙女と1つ屋根の下で暮らせるわけだし。


 部屋に戻ると、そのままベッドに倒れ込んだ。


 そうだよ。俺は涼とバッティングセンターで会って、その後で一緒にクレープ食ったわけだ。つまり今日は意中の乙女とデートしていたに等しいんじゃなかろうか。少なくとも彼女からすれば男とのデートなわけですよ。


──って無理しかないな!


 想像力にも限界はある。昨日今日の付き合いではあるものの涼は涼だ。とても意中の乙女と解釈できね―!


◇◇◇北川涼きたがわりょうのターン◇◇◇


 あれから10日が過ぎたけれど守の態度はぎこちない。同じ大学なんだから構内を案内してあげるって言ってんのに、丁重に断りよったし。生協前で会ったときも「あ、北川さん」とぎこちなく会釈するだけ。


 なまじ男の姿でフレンドリーに接してしまったから、妙な感じになった気がする。カミングアウトして良かったのやら悪かったのやら……。


「どうしたんじゃ涼。ぼーっとして」


 部屋で新聞に目を通しつつも、婆ちゃんは私の心配をしている。


「なんか秘密を教えてから守の態度がよそよそしくなった気がするの」

「いや、三鷹さんは最初から挙動不審じゃったぞ」


 そうだったかしら?


「お前を見るたびに固まっとったし」


 そうだった。守が普通に接してきたのは私が男の時だけで、女に戻っている時は不審な動きしかしてなかったんだ。


「そっか。あれが守の普通か」


★★★三鷹守みたかまもるのターン★★★


 彼女の美しい瞳で見つめられると、やたらに格好をつけたくなってしまうのは何故だ。昨日に至っては彼女が構内を案内してくるというのに、断るという最悪の判断をしてしまう始末。それのどこが格好いいんだよ俺!


 しかし……カミングアウト以降は男の涼とも前のように接することができなくなっているのが問題。とても前にように「勝負だ涼!」なんて感じにはなれない。こんなことならカミングアウトされない方が良かったかもしれない。



 てなことを考えながら大学構内のベンチに腰掛け悲観していた。すると背の大きな男が突然に隣に座ってくる。


「おっすー!守」


 誰!?と思って見れば涼であった。驚いたことにヤツは構内を男の姿のまま闊歩しているらしい。といっても女子的ではなく髪も服もメンズっぽい格好なので一般学生として馴染んではいるが。


「どしたんだよ涼。大丈夫なのかよ男の姿で!」


 思わず以前のような感じで返事してしまう。ちょっと久しぶりかな、この感じも。


「いや〜学食でコーヒーゼリー食べちゃった〜。慌てて紅茶飲んだけど手遅れ。3限目の授業はこの姿で受けることになるかもね。でもそんなの余裕だから」

「マジ?」


 確かに少人数の授業でなければ、男の姿でも怪しまれないだろう。教室に入って出席簿に名前書けばいいだけだから。


 不意に涼はポケットから携帯を取り出す。


「あ。美樹からLINE来た。アタシが学食から突然に姿を消したから心配してるみたい」


 学生同士のLINEの返信も余裕ですかね。俺から見たら、なりすましに見えるけど本人だし、電話で会話しない限り男ってバレないよね。性別が変わっても上手くやってけるもんだわ。


「ねえ。守の写真を撮ってLINEに載せていい?」

「なんでだよ!」

「美樹ちゃん達に店での守のことを話をしたらさ。みんな顔を見たがっちゃって。お願いお願い!」

「お前もしかして俺の鼻血エピソードを広めてんのか!やめろそれ」


 何度も断っていたのだが不意に涼が女に戻ってしまう。その美しい瞳で見つめられた瞬間、格好をつけて「オッケー」を出してしまった俺。果たしてこれは男として格好が良いと言えるのか?


「やった!面白い写真が撮れちゃった」

「あと20枚ぐらい撮影してもいいですよ」


 やっぱアカンな。俺は女の涼に弱すぎる。


「ところで守は3限目の授業は何を取ってるの?」

「えっと。考古学のヤツ」

「それアタシと同じじゃん。もうすぐ授業はじまるから一緒に行こうよ」


 こうしてシェアハウスでも大学でも涼に振り回される日々がはじまるのであった。(終わり)

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