はじめてのお買い物2
おまけのおかげで最高額のメニューとはいえ、八人は座れるはずのカウンターが、料理の皿で埋まっている。明らかにボリュームがおかしい。なんじゃこりゃーなんて、乙女が出すには相応しくない台詞が口をついて出たのも許してほしい。
「え、えっと…お、多すぎませんか?」
「フルコースだからな!」
えっへんとばかりに胸を張る銀熊。順番に出されても食べきれはしないけど、一気に出すやつがあるか!あまりの量にクロードさんすらひきつった顔をしている有り様だ。
先ず、なんか艶かしいポーズでお亡くなりになったキャロッツがこっくりと煮られてバターがのせられた絵面が強い料理と、見慣れた黒パンが籠に沢山。漫画肉みたいな巨大なお肉はどうやら塩とハーブで香草焼きにされているようだ。これがまたデカイ。太ももぐらいの厚さがあり長さも3~40cmはゆうにある。それに塩野菜のスープと、たっぷりとしたソーセージ盛り合わせ。肉の串焼きに、干し肉、コループのジュースとデザートらしい白くて丸い物体、なんというか肉祭りだ。見た目の暴力で胸焼けしそう。しかも信じられないことに取り分けではなく一人一つずつある。死ぬ。
「……こんなに多かったか?」
「クロードが、彼女つれてきたから出血大サービスに決まってんだろ?ガハハ!」
「「彼女じゃない(です)っ」」
「ガハハ!照れるな照れるな、若いっていいねぇ!」
「本当ねぇ、貴方。私たちの若い頃を見ているみたいだわぁ」
否定の言葉を全く聞かずに惚気話を始めるガンツさんとミリィさん。頭を抱えるクロードさんと能面みたいな顔になる私。
「と、とりあえず食べるか…」
「そ、うですね…」
「おう、食べれなきゃ持って帰ってもいいからな!それでなぁ、俺とミリィは…」
延々と終わらない惚気にかこつけて遠慮なく持ち帰らせて貰おう。いくらお腹が空いていても私は大食い選手ではない。野菜スープ、キャロッツ、黒パンをひとつ、漫画肉をほんのひとかけ切り分け、ジュースと白い物体だけを残してあとは一気にアイテムボックスにしまう。皿や籠だけが残り、取り分けた分だけのった皿を自分の前に引き寄せる。
幸い店主さんは惚気に夢中でみてないし、クロードさんにならバレてももういいや。ご飯もったいないし。
「……?なにやったんだ?」
声を潜めて聞いてくるクロードさんに私もこそこそと返す。
「これもあのスキルの一部でして…時間経過無し、容量無制限のアイテムボックスがついてるんです、ただし、食料品限定の」
恥ずかしかったから買い物の時に隠すと決めたのに、もうバラす。根性なしとかポーション運び損かいわないで!
食べ物残すのもったいないし。
「……凄いな。アイテムボックス持ち自体は稀にいるがそんなの聞いたことがないぞ。まぁ、平穏に暮らしたいなら言わない方がいい。国に囲われかねん。」
黒パンと干し肉だけ自分の布袋に詰め込み終えて肉を噛りながらこの世界でのアイテムボックススキルについて話してくれるクロードさん。アイテムボックス持ちといっても容量制限は様々で、小さくて牛一頭ぐらい。大きいと五、六頭ぐらいは入るらしい。時間経過は多少遅くなる程度だが、いれる種類に限りはないようだ。かなり羨ましい。私のスキルは食いしん坊か!といわんばかりに本当に入れられるものがシビアだ。せめて調理アイテムぐらいすんなり入ればいいのに、食料品が触れてないと入らないのだから。
「気を付けます…。あ、クロードさん…あの、この店の通常の量ってどんぐらいなんですか?オマケされすぎて普通がわかりにくくて…」
「シオンの食べる量からだったら大銅貨一枚か、小銀貨一枚にした方が無難だと思う。大銅貨一枚が、黒パンひとつと野菜スープ、串焼き肉ひとつで、小銀貨一枚がそれにプラスして干し肉が少しとデザートとジュースがつく。小銀貨二枚以上はちょっと女性にはきついと思う」
「……ボリューム的に?」
「ボリュームと、肉祭り的に、だな。」
「…お魚とかは?」
「この町じゃ滅多に手に入らないし高くつく。…食べたいなら港町に行かなきゃだが…」
肉を噛りながら困ったようなものをみる目で私を見つめるクロードさん。
言外に『そのHPじゃなぁ…』と言われてる気がするのは気のせいだろうか?
町中で死にかけるやつが、町を出たら死ぬ。
真理である。
「いつか行けるといいなぁ」
「ははは」
軽く笑い飛ばされて地味にショックを受けながらもとりあえず料理に舌鼓をうっていく。憎きキャロッツはなんというか味は人参、食感はホクホク系のじゃがいも。カレーに入れたら人参なのかジャガイモなのかで一波乱起きそう。
バターで甘煮にされてるところをみると砂糖かそれに変わる食材は普通に流通してる?それとも高いコースだからだろうか。他の料理は塩と香草類あとは素材の味。デザートはなんていうか…ミルクゼリーみたいな味と食感。ミルチーの実というダンジョン産の不思議食材でお祝いの時に食べる高級食材らしい。
勿論今日は祝いではない。店主さんの勘違い。話を聞かないのは神だけじゃないのか…!?
色々不安だけど深く掘り下げないでおこう。
「お腹苦しい…」
「……食べすぎたな」
あの体の何処にあれだけの量が入るのか。殆ど空になったお皿達にまじまじとクロードさんを見つめれば不思議そうに首を傾げられた。
食べ盛りの少年でもなかなかこんなには食べない。不思議ミステリーすぎる。大食い選手か!
お会計を済ませ、店を出る瞬間も、まだガンツさんは惚気話をしていて背後からいつまでも聞こえてくる。ミリィさんが他のお客さんの接客をしながら適当に相槌を打っているが…なんというフリーダム。安くて美味しいけど精神的にはクるお店として覚えておくことにして、クロードさんの案内で冒険者の為の雑貨屋さんへ。
長いので分割します