プロローグ
初投稿なので至らぬ点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
―――果てが見えない真っ黒な空間
目が覚めるとそんなところに俺はいた。
「ここは……どこだ?」
周りを見渡してみると、大勢の人が列をなしていた。俺は少しでも情報を得るため列を目で追い、列の一番前に目を向けた。
そこにいたのは――――絶世の美女などという言葉では表しきれないほどの、美しく、神聖な雰囲気を纏った女性だった。
しばらくして、俺は列に並び順番を待っていた。背中に翼がある無表情の少年に「列に並んでお待ちください」と言われたためだ。正直ここがどこなのか、翼のある子供たち――同じような少年少女が何人もいた――がなんなのかはとても気になるが、どうでもよくなっていた。何故なら、列に並んで待てば、あの美女に会うことができるからだ。
俺は、彼女に一目惚れしていた。
列に並んで彼女に間近で会えるならいくらでも待とう。俺には彼女がそれだけの価値があるように見えた。
列に並ぶ人々が数を減らし、ついに俺の番がまわってきた。どうやら俺が最後だったらしく、俺の後ろには誰もいない。俺は彼女の前に行き彼女の話を聞く準備をした。おぉ、間近で見ると彼女の美しさがよくわかるな……
「初めまして片舞幽鬼さん。私はネルエル」
「死神です」
…………は?
「し、死神?」
「はい。私は死神で、ここは冥界です。そしてあなたは――お亡くなりになったのです」
と、彼女がこちらを気遣うように優しく、美しい声で言った。神である彼女より格下の俺を気遣うあたり、彼女の恐らく善良であろう心が伝わってくるようだが、今の俺にはそれを受け止める余裕がない。
なんだと……俺は、死んでいたのか。
自分が死んでいたと知り、かなり動揺したが彼女のこちらを心配するような表情を見て、少しづつ落ち着いてきた。あまり心優しい彼女に心配させるわけにもいかないからな。
「大丈夫ですか!?」
心配する彼女の顔も美しく、神であると納得できる美貌である。彼女が神ならば先ほどの子供たちは天使なのだろうか。翼が生えていたことだし。しかし、あの感情のない顔は俺のイメージする天使とはちがうのだが。まぁそんなことは置いといて。
「はい。少しづつ落ち着いてきました。話の続きをどうぞ」
話を中断させてしまったが、本題があるはずなので話の続きを促す。
彼女は頷き話を再開した。
「分かりました。あなたには今までの記憶を消して、あなたのいた世界とは別の世界に転生していただきます」
なるほど。これは予想していたことだ。ここが死後の世界であるならば、天国か地獄に送られるか、生まれ変わらせられるかのどちらかだろうと思っていた。別世界なのは予想外だったが。
「しかし、もしあなたが私の信者になってくださるなら、記憶を持ったまま転移することができますが、いかがでしょうか」
「なります」
「え?」
「あなたの信者になります」
彼女の魅力的な提案に私は即答した。だってそうだろう?世界一美しい――俺の主観だが――彼女公認の信者になれるだけじゃなく、記憶を持ったまま異世界に行けるんだぞ?しかも転生じゃなく転移でだ。こんな提案断るわけがないだろう。
「ほ、本当ですか!?」
何故か彼女、いや、ネルエル様が不安そうに言う。なんで不安そうなんだ?
「もちろんですよ、ネルエル様」
俺がそういうとネルエル様が突然泣いてしまった。なぜだ!?
結局ネルエル様が泣き止むまで待つことになってしまった。
「実は、今までこの提案を死者のみなさんにさせていただいたのですが、毎回断られてしまってたんです。それで初めて了承してくださったのでつい……」
泣き止んだあとネルエル様が恥ずかしそうにそうかたってくれた。なんでも死神というのが印象が悪く、怖がられて断られてしまうそうだ。縁起が悪いとも言われたそうだ。こんなに美しいネルエル様の、公認信者になれるチャンスをふいにするとは。意味が分からん。ていうか死者が縁起を気にするなよ。
同様の理由でネルエル様は元から信者が少なく、年々信者の数が減っていたそうだ。その対策として先ほどの提案をしていたが、それすらも断られる始末。そんな折、初めて俺が提案を受けたので泣いてしまったそうだ。なんか……可愛いな。美しい上に性格がめちゃくちゃ良くて可愛いとかもう最高では?ますます断ったやつらの気持ちが分からんな。
「で、ではそろそろあなたを転移させます。次はあなたが長生きできるよう特別な能力を授けますね」
おお、ありがたいチート能力というやつか!しかし……
「もうネルエル様には会えないんでしょうか?」
そう、こんなにも美しいネルエル様に会えなくなるとは悲しいな……
俺がそう言うとネルエル様は微笑んだ。
「フフッ。あなたに授けた能力を鍛えればいつか必ず会えますよ。その前にあなたが死んでここに来るほうが先かもしれませんが」
「それは嫌ですね。次は長生きしたいので」
ネルエル様の冗談に俺は苦笑する。しかし、ネルエル様に頑張れば会うことができるのか。安心したぞ。これで会えないなどと言われれば自殺することも考えたからな。不安はなくなった。ならば……
「それにネルエル様の信者も増やしたいですからね。そのためにも頑張って長生きしますよ」
そう、俺はできるだけネルエル様の布教をするつもりだ。この素晴らしい神様のことを知ってほしいからな。
「フフッ。ありがとうございます。楽しみにしていますね。」
「では、あなたを転移させますね。私は、信者の方が増えることも嬉しいですが、今いる信者の方が長生きすることの方が嬉しいです。くれぐれも無理はしないでくださいね。」
「はい!」
そういうと俺の足元に魔法陣が現れた。転移するために必要なのだろう。だんだんと俺の体が薄くなってきた。俺は、しばらく見ることはできないだろうネルエル様の姿を目に焼き付けた。
――――「あなたに祝福があらんことを!」
ネルエル様の言葉を最後に俺の体は完全に消えた。
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