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よろしくお願いしますm(*_ _)m


と筋書きはなっているが、もちろん私はゲーム通りに進む気は全くない。

このまま高等部に進み、いずれ破滅が訪れるのならば極論、進学しなければいいのだ。


それに高等部に入学すれば、今より講義の時間が長くなるためアルフォンス様を探す時間が今よりさらに減ってしまう。


なので私がシナリオ通りに高等部へ入学するメリットはない。

たったひとつ迷いがあるとすれば、アンナがアルフォンスのルートへ進み、私は悪役令嬢として断罪され、魔物としてアルフォンスに会える可能性だが、アンナがアルフォンスのルートに入る保証はないし、アンナとアルフォンスがいちゃいちゃするのを黙って魔物として遠くで見守ることになるのは好ましくはないので、その選択肢は捨てた。


数年前にそう決意を新たにした私はついにゲームのシナリオから外れ、アルフォンス様に会いに行くために、家出の準備をしていた。

明日には高等部の入学式なので、中等部の卒業式を済ませた私を含める学園の生徒たちは現在、各自寮のそれぞれの部屋へ戻り高等部の寮へ引っ越す準備をしている。


荷物をまとめていても怪しまれないこの絶好のタイミングを利用して、私は一人密かに家出するための荷物を詰める。


___コンコン。


「ティーナお嬢様、お入りしてもよろしいでしょうか?」


扉の外からそう声を掛けてきたのは、私が生まれた時から面倒を見てくれているメイドのリーシャだ。


リーシャは元奴隷で、小さい頃に奴隷商に捕まり売られていたところを私の父が買い取り、メイドとして育ててくれたのだと教えてくれた。だから私の父は心の優しい方で、帰ってこないのは仕事が大変だからなのだと当時小さかった私を慰めてくれた。


私は精神年齢は高いので寂しいともあまり思ってなかったのだが、それでもリーシャのその優しい気遣いはとても嬉しかった。そんな出来事もあり親しい人がいない私にとってリーシャは私の一番近くにいた大切な存在だった。


「どうぞ入って」


私はそう答え、荷物を詰めたカバンを閉める。


「…失礼します」


入ってきたリーシャは私の顔を見て、微笑む。


「お嬢様、ご卒業、そしてご入学おめでとうございます。すっかり大きくなられて…」


私の頭を撫でながらリーシャがどこか寂しそうにそう呟く。


「…どうしたの、リーシャ。あなた、いつもより変よ?」


まさか、私の計画がバレているのかと少し不安になりながらも平常心を保ってそう問いかける。


たとえバレていたとしても、ごめんリーシャ。どうしても会いに行きたいの。だからここで止められる訳には行かない。


「いえ、…何でもありません。お嬢様、どうかお気をつけて」


まるで私の心の声が聞こえているかのように、リーシャはどこか泣き出しそうな笑みを浮かべて私を送り出す。


「…行ってくるわ」


たぶんリーシャは行き先はともかく、私がここを出ていこうとしていることは気づいているんだと思う。

だって高等部に入学してもリーシャは変わらず私のメイドとして着いていく予定なのだ。それなのに気をつけては明らかに何かを察している証拠だった。


ごめん、リーシャ。必ずリーシャに会いに帰ってくるから。


そう心に決め、私も笑顔でそう答えた。




荷物を詰めたカバンを持って中等部の寮を出た私は、高等部の寮へと向かう一本道の途中で道を逸れ、木の影に隠れる。

それが出来るのもどこに行くにもついてくる鬱陶しい護衛が、中等部から高等部の寮までは一本道で道は学園の敷地の中にあるからと、拒否出来たおかげだ。


しかし学園の外に出るには警備兵のいる門を通る道しかない。

親の許可のない私にそれは不可能だ。

かといって学園の周りはプライバシーと防犯上の理由で高い塀に囲まれているため、門から出る以外に道もない。


私が普通の家出少女だったならここで手詰まりになってしまうが、魔法を極めた私は違う。

木の影へと周りに見つからないように隠れた私はブラックホールを使い、ギュールという街に降り立った。


ブラックホールは本来は空間を歪め、何も無い亜空間を作り出す魔法だが、研究を重ねた結果ついにブラックホールを使い転移が可能となったのだった。


無事学園を脱出することが出来た私は計画を次の段階へ進める。それはアルフォンスの居場所をみつけることだ。



人気のない路地に入った私は、物を売りに街に行く時に使っていた麻布で出来た質素な服に着替えフードを被り、顔を隠して路地を進む。

この路地を進んだ先はスラム街になっていて、事前にここに情報屋がいると調べがついている。


奥へと進んでいくと廃墟が立ち並ぶ中に一軒だけ新しそうな家があった。

扉を開けてそこへ入ると、中は薄暗い照明が吊るされたまるでバーのような景観が広がっていた。


「いらっしゃい」


そう声をかけてきたのは、カウンターの内側に立っている無精髭を生やしいかつい体型をした中年の男だった。


どうやら、この人がこの店の店主らしい。


「こんにちは。水を一杯もらいたいのだけど」


私は事前に聞いてきた合言葉を口にする。


「…かしこまりました。こちらへどうぞ」


数秒私を見つめた店主は一呼吸置いてそう口にし、カウンターの奥の扉を開けた。


「…ええ、ありがとう」


扉の奥には下へとつながる階段があり、階段は明かりが壁に吊るされた一つのランプしかないため、薄暗かった。


落ち着け自分。地球にいた時の年齢も含めたら私はもういい大人なんだから。こんな暗闇ごときどうってことないでしょ!

何としてもアルフォンス様に会わないといけないんだから。


私は小さく深呼吸した後、その階段へと足を踏み入れた。


読んでくれてありがとうございます。

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