93章
酒場にて数時間後――。
ルーザーは酔い潰れていた。
果実酒を飲み過ぎた彼は、フラフラになってだらしなく呻いている。
「なぁんにぃもぉ~覚えてぇ~なぁ~いぃ~。うッ!? うげぇ~」
呂律も回っていない状態で、テーブルに顔をつけ、ブツブツ何か支離滅裂なことを言っていた。
クロムとニコが心配してルーザーの肩を擦り、ルーはそれを見てからかうようにはしゃぐ。
「わぁ……ダメな大人だ」
――ロミー。
「さっきの私の感銘を返せ」
――アン。
2人はそんな姿のルーザーを見て、無愛想に呟いた。
その後に水をもらい、なんとか話せるまでになったルーザーは、もう少し酔いを醒ましてから宿に戻るから、先に帰るようにアンたちに伝える。
まだ酔っ払っている彼を見て、クロムが「でも……」と言ったが、アンとロミーはスタスタと酒場を出て行ってしまった。
それを見て楽しそうにルーが追いかけて行き、クロムもルーザーに先に戻ることを伝え、ニコを抱いて店から出て行った。
急いでアンとロミーを追いかけるクロム。
彼は、2人の背中に“冷たい”と言葉をぶつけ、ニコも顔を困らせていたが――。
「あんな汚らしいところにいたんだ。あたしは早く風呂に入りたい。優先、風呂が最優先」
「自分がどれだけ飲めるかもわからずに、酔い潰れるほうが悪い。大事、反省は大事」
ロミーとアンはそう言いながら、ズカズカと進んでいく。
それからアンたちは、宿に戻ってからクリアの家へ夕食を食べに行くことにしようと決める。
だが、クロムはやはり心配だと言い、酒場へと戻ろうとした。
ついでに、今決めたクリアの家へは1度宿に戻ってからという話も、伝えておく言って足早に消えていった。
「本当にクロムは優しい奴だな」
アンが少し呆れた笑みを見せると、横にいたロミーが俯いた。
「まったく、放っておけばいいのに……」
ロミーはそう呟くと、すぐにルーを連れてクロムの後を追いかけて行った。
その様子を見たアンは、2人の関係を少し羨ましく思っていた。
あの冷たい目をしたロミーが、クロムを何気なく見るとき――。
まるで月や星を見つめるような、そんな目に変わるときがある。
それは、見ていて微笑ましいことであったが、ごくまれに嫉妬とまではいかないにしても、自分にはそういう相手が現れるのだろうか、なんて考えてしまっていた。
そんなアンの手を握るニコ。
彼女は、笑みを浮かべてニコを抱きかかえた。
「そうだったな。私にはお前がいた。ゴメンねニコ」
持ち上げられたニコは、アンの笑顔を見て嬉しそう鳴いて返した。
そんなアンたちの目の前に、漂う煙の中から1人の男の姿が見える。
その男は、緑のジャケットに黒いパンツを穿いて、首にはゴーグル、手には革のフィンガーグローブを付けていた。
「な、なんで……どうしてこんなところにいるんだ……?」
その男が誰か気がついたアンとニコは、身を震わせた。
そう――。
アンたちは知っていた。
この緑のジャケットを着た男のことを――。
「おや? 君はたしか帝国の周辺で会った娘だったよね?」
緑のジャケットを着た男も、アンに気がつく。
アンは口の中に溜まった唾をゴクリと飲み込む。
……この男、ま、まさかグレイを追ってきたのか!?
氷の指で心臓を鷲掴みにされたような――そんな気分を彼女は味わっていた。
元はと言えば、この男が原因でグレイと離れ離れになったのだ。
「ラスグリーン·ダルオレンジ……何故お前がここにいるッ!?」
アンに名を呼ばれたラスグリーンは、口角をあげて、嬉しそうに彼女を見た。




