8章
インストガンの轟音が鳴った方向へと足を進めるアンたち。
アンは、奥では戦闘が始まっているはずなのに、と静かなことに違和感を覚える。
薄暗い道をしばらく歩くと、奥から明かりが見えた。
そこにいたものをみて、リードが思わず仰け反る。
「な、なんだこいつら!?」
そのフロアに入ると、そこには数体の機械が佇んでいた。
もう少し正確に表現すれば、特異な形状の鎧甲冑のような姿をしている人の形をしたものだった。
メタリックな白い装甲が、照明に当てられて輝いている。
よく見ると5体はいる機械人形。
その1体1体の大きさは、160cmから180cmとバラバラだったが、それぞれがまるで鬼神のような威圧感を放っていた。
この廃墟に住んでいた新種のキメラか、反帝国組織バイオ·ナンバーの兵士なのか――。
真っ白な機械人形たちは、アンたちを確認すると突然向かってくる。
アン、リード、ストラ、レス四人がインストガンを構えた。
隊長のモズは右手を振って、「撃て!」と命じる。
次の瞬間、轟音が響いた。
インストガンによる銃声ではなかった。
モズが機械人形によって、壁に叩きつけられた音だ。
「モズ隊長ッ!?」
ストラが叫びながら、飛ばされたモズへと駆け寄った。
アンたちが一斉にインストガンを撃つ。
轟音と閃光が迸る。
放たれた電磁波が、機械人形たちの腕や頭部を破壊していく。
後方にいた2体の機械人形が、前衛で倒された3体を飛び越えて向かってくる。
リードが、アンを庇うように前へ出て、腰に帯びているピックアップ·ブレードを出した。
それに呼応するかのようにレスもブレードを握る。
グリップにあるスイッチを押し、光のサーベルが姿を現す。
二人はその白い光の刃で、残った2体の機械人形の攻撃を受け止めた。
「っく!? なんてバカ力だ」
「ああ、まるで大型のキメラ並だぜ」
リードとレスが冷や汗を掻いていると――。
「二人ともそのままだぞ」
アンが声をかけた。
手にはインストガンを構えている。
そして電磁波を発射。
2体の機械人形は、頭部が吹き飛ばされて、その場に沈んでいった。
リードが、動かなくなった機械人形に近づく。
「こいつら……なんなんだよ……?」
アンもその傍へ行き、リードへ声をかける。
「同じことを2回も言うな。みんなもそう思ってる」
「だ、だけどよ……」
「それよりモズさんは?」
アンが、壁に叩きつけられたモズと、それに近寄ったストラの方を振り返って言った。
モズは口から血を流し、着ていた軍服が切り裂かれていたが、ストラは大した怪我ではないと言い、背負っていたミリタリーリュックから医療キットを出す。
レスもそれを手伝おうと、モズとストラへの傍へ。
モズが顔を歪めて言う。
「すまない。くそッ! 油断した」
「あんなの歴戦の兵士だって避けられないですよ。事故みたいなものです」
笑みを浮かべながら言うストラ。
手慣れた様子で、モズの手当てをしていく。
モズが、少し苦しそうに言う。
「このザマでなんだが、全員周囲の警戒を。まだ残りがいるかもしれん」
「モズ隊長、このザマって、気にし過ぎですよ。ストラの言う通り、あれはしょうがない」
ストラの横に立っているレスが言った。
そんなレスを見て、ストラは嬉しそうにしている。
その様子は、ストラは彼のそういう気遣いを言葉にできるころが好きなのだと思わせた。
それはレスも同じだった。
二人は互いに、こういう危機的な状況でも他人への優しさを忘れないところに惹かれ合っているのだ。
アンとリードは、微笑みながら周囲の警戒に回った。
それから、モズの手当を終えたストラが気がつく。
「あれ? もう血が止まっている? やっぱり大したことなかったんですね」
そうモズに声をかけた瞬間――。
ストラの体が、白い腕に貫かれた。
貫かれたストラの体から飛んだ血が、横にいたレスの顔に飛び散る。
レスはあまりに突然のことに両目を大きく開け、状況を理解できずにいた。
「ストラ……?」
レスが婚約者の名前を呟くと、彼女と同じように白い手によってその体を貫かれた。
何が起こったわからないレスは、そのまま白い手の主を見る。
「モ、モズ……隊長……?」
そこには、身体が機械化していたモズの姿があった。