6章
ストリング帝国から出発して数日後――。
行軍を続ける総勢50人のストリング兵たち。
日差しは強いが、空気が乾燥しているため、暑くはない。
むしろ夜が近づくと冷えるくらいだった。
無限に広がる砂漠には、所々にかつての文明の跡が残されている。
崩れているビルや住宅、半壊している道路。
それらを見ると、以前にはここに人が住んでいたのだと思わせた。
「そういえば知ってるか?」
リードがアンの横にやってきて、声をかけてきた。
いつも通り軽快な言い回しで言葉を繋げる。
「最近ここらで、キメラを相手に一人の人間が戦っているって話」
リードがいうに、その男は緑色のジャケットを着ていて、体が黒と緑の炎に包まれている男だそうだ。
「その炎で、何体ものキメラを焼き尽くしているのを見た奴がいるんだってよ」
「人間の体から火が出るわけないだろう。それに火は赤いんだ。黒と緑の炎なんてバカげてる」
その話を聞いたアンは、呆れながら返した。
そんなアンの様子を見たリードは嬉しそうに言う。
「いやマジだって。他の部隊も襲われたっていうぜ」
「その男の狙いはキメラじゃないのか? どうして人間を襲う」
「そ、それは……わかんねぇ……。俺も噂を聞いただけだし……」
「思った通りだ。どうせお前が作ったデマだろう」
無愛想に言うアン。
それを見て、後ろにいたストラがクスクスと笑っている。
ストラの横にいるレスが、スティックタイプの携行食を頬張りながら言う。
「でも、ホントだったらすごいよな。インストガンもブレードもなしでキメラを倒せるんだから。もしかしたら、そいつがコンピューター·クロエを止めたんじゃないか?」
「もしそうなら、その男はきっとシワシワでヨボヨボの爺さん……。レス、コンピューター·クロエが何百年前に止まったと思ってるの?」
今度はレスに呆れながら返すアン。
レスは、言われたことなど気にせずに、携行食を食べ続けている。
振り返ったアンは、携行食を口に運ぶレスを見て、苦々しい顔をした。
この数日でアンは、止む得なく携行食を食べているが、やはりなるべくなら食べたくないと、改めて思ったからだった。
「でも、本当だったら怖いね。無差別なんて」
ストラが心配そうに言った。
それを聞いてレスが、ガハハと豪快に笑った。
「大丈夫だって、俺たちのチームは最強なんだ。どんな奴が来たって負けやしねぇさ」
「もう、相変わらず適当こと言うんだから」
「だから俺にはストラがいてくれるんだろう」
そう言われたストラは顔を赤くして、レスを叩くと顔を背けてしまった。
だが、その顔は笑っている。
「アツアツだな、ふたりとも」
リードが羨ましそうに言った。
レスが、背負っているミリタリーリュックから、もう一本の携行食を出して言う。
「なら、お前らも結婚すればいいじゃん。なあ、ストラ」
顔を背けたストラに言葉をぶつけるレス。
ストラは振り返って言う。
「それいいね。式もダブルでやろうか」
「なあ、いいよな、そのアイデア。じゃあ帰ったら4人で結婚式やるぞッ!!」
「絶対にやらない」
レスが右手に持った携行食を掲げて、意気揚々と言ったが、アンは切れ味の鋭い刃物のように、スパッと言い切った。
それを聞いて、リードがしょんぼりしている。
「大事……相手大事」
アンがボソボソ言うと、リードはさらに肩を落とした。
前を歩くモズは、そんな4人をチラッと見て、笑みを浮かべている。
そして行軍が止まった。
どうやら目的地に到着したようだ。
行軍が止まってから、先頭まで確認に来たモズ。
目的地にあるものを見て、つい言葉が漏れてしまう。
「こ、こりゃ……」
そこには砂漠の真ん中だというのに、一際巨大な建物があった。