66章
ロミーが持つサブマシンガンVz61――スコーピオンで撃たれても、以前のようにストーンコールドにダメージを与えられない。
鹿ような大きな角が生え、下半身はギリシャ神話に出てくる半人半獣の種族――ケンタウロスような雪虎の四肢、上半身は青い体毛で覆いつくされている身体は、彼女が知っているときよりも強固なものへと変わっていた。
さらには、以前には大ダメージを与えていたハンドグレネードによる爆破の攻撃でさえ、すぐに傷口が再生してしまうあり様だった。
ストーンコールドの鋭い爪が、ロミーに襲い掛かる。
その攻撃ですら、もうロミーが知っている頃とは、比べものにならないほどの速度。
だが、彼女はストーンコールドの前足の間を滑り込み、なんとかそれを避ける。
彼女が、この半人半獣の合成種に勝っているところは、その小柄な体を活かした俊敏性だけだった。
「ちょこまかちょこまかと――オラッ!! 逃げてばっかじゃ俺を殺せねえぞ!!!」
後ろに回ったロミーへ、雪虎の四肢――後ろ足で蹴り飛ばすストーンコールド。
ロミーは、持っていた一番破壊力があるハンドグレネードも使い尽くし、突破口を失っていた。
だが、彼女は――。
……殺す、殺す、殺すッ!!!
こいつを殺せば、この雪の大陸いるキメラは完全に根絶やしにできる。
何年もかけてようやくここまで来たんだ。
必ず殺すッ!!!
ロミーの右目の義眼が、彼女の感情に呼応して激しく赤く光る。
どんなに劣勢でも、その戦意をけして失っていなかった。
振り向いたストーンコールドが、ニヤリと笑みを浮かべて側にあったスチームマシーンの残骸をロミー投げ、続いで体ごと突進してきた。
これはさすがに避けれない。
ロミーが表情を歪めると、突然目の前に入ってきた人影によって、飛んできたスチームマシーンの残骸が打ち返された。
大きなハンマーを持った銀白色ポニーテールの少年――クロムだ。
「ロミー!! 助けに来たよ!!!」
大声をあげながら振り返り、彼女に笑顔を送るクロム。
だが、目の前にはストーンコールドが突進してきていた。
「バカッ!! 何で出てきた!? お前までやられるぞ!!!」
ロミーが叫んだそのとき――。
彼女とクロムのさらに前――。
ストリング帝国の深い青色制服に下に白いパーカーを着た女性――アンが機械の右手をかざして立っていた。
その機械の右腕から、稲妻が迸り始めている。
「喰らえ、このバケモノッ!!!」
アンが放った電撃を喰らったストーンコールドは思わず仰け反り、激しく後退した。
……よし!! こいつには電撃が効く!!!
アンは安心していた。
何故ならば、先ほどの戦闘でストリング皇帝に電撃での攻撃が通じなかった。
もしかしたら、ストーンコールドにも通用しないと心配していたからだ。
「おい、ロミーとかいうの、無事か!?」
アンは声をかけたが、彼女は言葉を返さない。
だが、アンは続ける。
「たった1人で街を救おうなんて、ちょっとカッコつけすぎだぞ。まあ、そういうのは嫌いじゃないけど」
「……あたしは救わない」
アンの言葉を聞いて、ようやく返事を返したロミーはボソボソとした小声で続ける。
「あたしは街を救わない。ただ合成種を殺すだけだ」
「な、なんだと!?」
「邪魔、そこをどけ」
それを聞いたアンの表情が、苦虫を100匹噛み潰したようになる。
労ったつもりで言葉をかけたのに、ロミーの態度があまりにも酷かったからだ。
そして、彼女は無愛想ままアンとクロムに礼も言わずに、再びストーンコールドへと飛び出していった。




