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番外編 食事の時間

白銀の大地には、どこまでも続いている雪景色。


その足元に広がる大地は、すべての生命活動を拒絶しているかのようだった。


ところが、そんな大地に動いている影があった。


反帝国組織であるバイオ·ナンバーの兵士たちと、赤い防寒具を着た少女――マナ。


そして、電気仕掛けの羊――ニコだ。


時間的に見て、まだ日中。


慣れている人間からすれば、まだ暖かいのだろう。


だが、初めてこの白銀の世界に来た者にとっては、寒さが皮膚に突き刺さるようだった。


「もうすぐ着くからな、嬢ちゃん」


バイオ·ナンバーの兵士が、寒さで震えているマナに声をかけた。


マナは笑顔で(うなづ)く。


寒さで参っていると思っていた兵士たちは、それを見て安堵(あんど)の表情を浮かべた。


そのときだった。


マナたちは、雪の中を進んでいたのだが、突然(とつぜん)近くの草むらから巨大な影が飛び出してくる。


思わぬ『敵』の出現に、完全に不意打ちを喰らってしまったっマナが吹き飛ばされた。


「嬢ちゃん!? 大丈夫か!?」


兵士たちは慌てて叫んだ。


ニコは、急いでマナに()け寄る。


それから、マナを吹き飛ばした『敵』の正体がわかって、兵士たちは目を丸くした。


雪虎(スノー·タイガー)かッ!?」


雪虎(スノー·タイガー)は、この地域に生息する野生動物。


世界崩壊後に現れた、大型の白い虎である。


雪虎(スノー·タイガー)の平均体重およそ900キロ。


立ち上がると、頭の高さは4メートルは超える。


「おい!! このルートにはいないはずだろ!? どうなってんだよ!?」


兵士の一人がそんなことを言ったが、現に目の前にいるのだからどうしようもない。


兵士たちは持っている突撃銃――ステアーACRを構えて、一斉に撃ち込む。


だが、雪虎(スノー·タイガー)はその巨体のわりに素早く、軽々と銃弾を()けていった。


「くそッ! 当たらねぇ!!」


「それより、嬢ちゃんはどうだ!? 誰か見てやってくれ!!! この()に何かあったらブラッドやエヌエーに顔向けできねぇぞ!!!」


雪虎(スノー·タイガー)牽制(けんせい)する兵士たちの一人が、マナに声をかける。


肩を揺らされたマナは、むくっと体を起こした。


その傍で、ニコが心配そうに寄り()っている。


「……ムフフ、今夜は久しぶりにジューシーなお肉にありつける」


不気味な笑みを浮かべたマナの体から、炎が立ち上がった。


そして、炎を(まと)ったまま、雪虎(スノー·タイガー)へ飛び出していく。


「肉~!! 肉を食わせろ~!!!」


その様子を見ていた兵士たちは――。


「エヌエーからの手紙で知ってはいたが、すげぇな……」


「どっちのことだ? 体から炎を出せることか? それともあの食欲か? ……というか雪虎(スノー·タイガー)って食えるのかよ……」


(あき)れている兵士たちを尻目に、燃える少女マナの腹の音が、この白銀の世界に低く響いた。


――その頃、地下にある反帝国組織(バイオ·ナンバー)本拠地(ほんきょち)では――。


シックスとメディスンが仲間を引き連れて、この砂漠に生息している野生動物。


砂鰐(サンド·アリゲーター)を大量に狩ってきていた。


「これでしばらくの間、食料は安心だな」


ブラッドがそう言うとエヌエーが、急いで砂鰐(サンド·アリゲーター)をさばいて、燻製(くんせい)にしないと腐ってしまうと騒ぎ出した。


「ほら、急ぎましょう! 早く早くぅ!!」


「わ、わかったよ、そんなに慌てるなって。シックスたちは休んでてくれ。あとは俺たちがやるから」


2人はそう言って、台車に乗せた大量の砂鰐(サンド·アリゲーター)を調理場まで運んでいった。


それを見た後に、メディスンは外へ出てくると言って、その場を去ろうとする。


「待てメディスン。いまブラッドが休むように言っただろう。夕食までゆっくりしよう。そういえばお前、エヌエーのワニ料理は食べたことあるか? ワニの唐揚げとか最高だぞ。鳥の唐揚げに近い感じだ。砂鼠(デザート·マウス)の唐揚げよりもうまい」


メディスンを止め、気さくな感じで話をするシックス。


だが、メディスンは――。


「……見張りを代わってくる。夕食はあとでいただくよ」


そう無感情に返したメディスンは、そのまま外へ出て行った。


その後ろ姿を見てシックスは思う。


……すぐには無理か。


だが時間があれば、いつかは元に戻れるよな。


親父がいた頃のように……。


両目を(つぶ)っていたシックスは、ふとある2人のことを思い出した。


「あいつらにも、エヌエーのワニ料理を食わしてやりたかったな……」


シックスは、そう(つぶや)くと一人笑った。


――そのあいつらことアンとキャスは、海の真ん中で蒸気ボートに乗っている。


今2人は、一旦(いったん)船を()めて、反帝国組織(バイオ·ナンバー)からもらった食料に手を付けようとしていた。


「よし、食べよう。シックスの奴、かなり多めにくれたみたいだな。自分たちも苦しいのに」


アンが食料の入った布の袋を持ち上げて、その中身を、用意していた清潔(せいけつ)な布の上に置いていく。


「どうした? 食べないのかキャス?」


アンがキャスにすすめたが、彼女は目の前に出された食事に手を出さなかった。


それは、目の前にある食事がカエルやヘビの燻製(くんせい)だったからだ。


生まれてから王宮(おうきゅう)暮らしのキャスにとっては、ちと厳しい食べ物だったようだ。


「……失礼なことを訊くかもしれんが、これは食べられるのか? そもそも食すものには見えん……」


グロテスクな食べ物を見て、戸惑うキャス。


アンは(うなづ)いて返すと、キャスは涙目になってそれを食べ始める。


しまいには、両目を(つぶ)ってカエルやヘビを口に放り込むキャス。


そんな彼女を見たアンは、前の自分の姿を思い出していた。


「大事……食べ物の見た目は大事。でも、栄養を取るのはもっと大事」


アンはボソボソと独り言をいった。


――その頃、マナは雪の中にある反帝国組織(バイオ·ナンバー)の支部に到着していた。


マナは今、仕留めたばかりの雪虎(スノー·タイガー)を調理中だった。


ばらした肉を(なべ)でじっくりと煮込んでいる。


その理由は、臭みと固さを取るためだろう。


「はっ!」


鍋の前に立っていたマナは、突然ビクッとなった。


傍にいたニコも驚いて、つられてビクッとなる。


その様子を見た、周りにいた兵士たちが不思議そうに首を(かし)げている。


その中の一人がマナに声をかける。


「どうした? どっか調子が悪いのか?」


「いえ、なんかいま友達がたくましくなったのを感じて……」


兵士たちがそれを聞いて笑った。


マナも、そんなわけないか、と笑みを返した。


だが、マナは内心で思う。


……気のせいかもしれないけど。


きっとアンだ。


マナは、傍にいたニコを抱いて言う。


「ねぇニコ、きっとすぐに会えるよね?」


マナの言葉を理解したニコは、嬉しそうに鳴いて返した。


それぞれが食事を取っているとき――。


一人の男がボロボロに(くず)れた廃墟の中から、その身を起こしていた。


アンたちに倒されたストリング帝国の将軍――ノピア·ラシックだ。


「わ、私が……負けただとッ!? クソッ!! クソッ!! 覚えていろよアン·テネシーグレッチ!!! 貴様の力をいただき、必ず研究室の送ってバラバラにしてやるッ!!」


ノピアは、半壊(はんかい)した身体を動かしながら、空に向かって叫ぶと、側にいたサソリを手で掴んで口の中に放り込んだ。

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