27章
――次の日の朝。
この地下にある大きな空洞に設置された舞台の上に、拘束されたシックスが立たされていた。
彼は、抵抗もしなければ命乞いもせずに、虚ろな目をしてただ遠くを見ている。
立たされた舞台の下には、人の手で掘られたあろう一部屋分の穴が空けられており、そこには1体の合成種――キメラが呻きながらそこから出ようともがいていた。
このキメラは、反帝国組織とストリング帝国の戦闘が激化する前に、本拠地であるこの基地に単独で現れた。
どこからか穴を掘って入ってきたのかわからないが、メディスンはそのキメラを捕らえて、ここで飼うことにした。
当時のリーダーであるバイオには、キメラの生態を調べるためと言っていたが、彼にそんな気持ちは一切なかった。
“この化け物は秩序を守るために使える”
メディスンは、そのためにわざわざキメラをこの穴に住まわせていた。
これは処刑するためのものだ。
少し離れたところには、大勢の地下住民が穴の周りを埋め尽くしている。
低い騒めきがこの大きな空洞を全体を満たしていた。
この穴で飼っているキメラは、これからのメディスンの権力を象徴するためのもの。
逆らう者はすべてこの穴に叩きこむと、シックスを使って見せつけるつもりなのだ。
「この者――シックスは外でストリング帝国と繋がり、我々反帝国組織を裏切った。よってこれより処刑を執り行う!」
抜け殻のようなシックスの横で、兵士の一人が罪状を述べ、力強く宣告した。
……ブラットたちはアンたちをうまく逃がせたか。
いや、あいつらならきっとうまくやってくれる……。
両目を瞑ったシックスは、アンとマナ、そしてニコのことを考えていた。
それはここへ連れてきてしまったことで、自分たちのいざこざに巻き込んでしまったことに罪悪感を感じていたからだった。
「なにか言い残すことはあるか?」
シックスの背後から声が聞こえる。
そこにはメディスンが立っていた。
シックスは、ゆったりとした口調で言葉を返す。
「……メディスン。この結果は、お前なりに考えてのことなんだよな。だが、もっと親父と話し合うべきだった。そうすればきっと誰も死なずにすんだんだ」
「これから殺されるっていうのに、その態度か……。シックス、俺は昔からお前が嫌いだったよ」
メディスンは、シックスの耳元で囁くように続ける。
「お前は特別だった。風を操り、腕も立ち、それでいて頭も良いんだからな。親父や他の奴らもみんなお前ばかりちやほやしていて、ずっと気にくわなかった」
「ちがうぞ、メディスン。親父もみんなも俺とお前のことを同じように愛している。だからこそ親父はお前を本拠地に残して……」
「黙れ」
メディスンは、シックスの太い首を掴んで言い聞かせるように言った。
そして、今までの冷たい表情が怒気を帯びたものへと変わっていく。
「シックス、お前に俺の気持ちなど永遠にわからない。……まあいい。それよりもな。親父のやり方では、いずれ仲間同士で共倒れになっていた。組織が生き残る方法を俺は何度も親父に進言したが、受け入れてはもらえなかったんだ。もうこうするしかなかったんだよ」
「親父はそのために俺に外へ出るように言い、不安定な食料問題を解決しようとした。お前のやり方は間違っているよ。俺たちは、この荒廃した世界で苦しんでいる人たちのために立ち上がったはずだろう」
「俺は間違ってなどいない。他人を助けるには、まず自分に余裕がないとうまくいくはずがないんだ。もういい、安心して死ねシックス。反帝国組織は俺が守る」
兄弟に殺される。
とても残念だ。
シックスはそう思っていると、何故か住民たちの顔が別の場所を向き始めていた。
シックスが立たされているところの真正面――ほぼ全員が振り返っていてそちらを見ている。
それから騒めきが生まれた。
次第に波のように広がり、大勢の住民たちが指をさして、声をあげ始める。
メディスンも首をねじった。
周りにいる兵士たちも身体ごと振り向いて、住民たちの見ている方向を見た。
そこには2人――。
鋭く強い眼光した白いパーカー姿の女性と、金髪碧眼のロングヘアの女性が、白く光る刃――ピックアップブレードを握って立っている。
アン·テネシーグレッチとキャス·デュ―バーグだ。
「待っていろシックス!! いま助けるッ!!!」
人で埋め尽くされている大きな空洞に、アンの声が響き渡った。




