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1章

ジャケットにカーゴパンツ姿の男女が並んで歩いている。


上下ともに深い青色、足元には黒のコンバットブーツ――。


二人が着ているのは軍服だ。


二人の(ちが)いは、男は軍服の下にチャコールグレーのバンドカラーシャツ、女は白いパーカーを着ていること。


「それにしても気が早いよな」


切れ長の目の男が、短い髪をかき上げながら(たず)ねるように言った。


その横いた女が、聞こえてはいるのだろう、愛想なく(うなづ)いている。


「結婚式やるなんてさ。俺たちまだ16だぜ、アンもそう思うだろ?」


長身で細身の彼は、両手を後頭部にやり、かったるそうに歩いている。


一緒に歩いているアンと呼ばれた女の名はアン·テネシーグレッチ。


彼女は、先ほどと同じように無愛想に返す。


(うらや)ましいのか? ならリードもすればいい」


(つぶや)くような静かな声。


アンは、ナチュラルブラウンのボブスタイルの髪を、手で横に流しながら答えた。


リードと呼ばれた男――リード·スミスは、笑みを浮かべて、アンの顔に自分の顔を近づける。


「よし! じゃあ俺たちもするか?」


「興味ない」


()き捨てるようにいうアン。


リードは後頭部に当てていた両手で顔を(おお)って叫ぶ。


「ひどいッ! いまさり気なく本気で言ったのにッ!!」


落ち込むリードを気にせずに、アンは一人で前へと進んでいった。


二人が話していた急な結婚式というのは、軍の同じ部隊である同僚の話だ。


この国では、年齢に関係なく夫婦になることができる。


リードは急だといったが、もしかしたら明日にでも命を落とすかもしれないため、同僚の二人は結婚を決めた。


それはこの国の外にいる、キメラと呼ばれる人の形をした怪物を相手に日々を戦っているからだった。


今からおよそ数百年前――。


世界は、ある日を(さかい)崩壊(ほうかい)した。


先ほどの話に出てきたキメラが大量発生したからだ。


なぜキメラが大量発生したのか?


その原因は、クロエと呼ばれているコンピューターが、突然動き出したせいだった。


クロエの暴走で、世界は膨大(ぼうだい)な数のキメラと荒廃(こうはい)した大地に覆いつくされる。


この世界から人類が消え去ると思われたが、ある一人の男がクロエの暴走を止めることに成功した。


噂話だが、その男は顔が隠れるくらい前髪を伸ばしており、高齢なのか、髪の色は真っ白だったそうだ。


それ以降、キメラの数は増えなかったが、世界には文化と呼べるものはもう残ってはいなかった。


だがそんな中、わずかに生き残った人々は国を作った。


その国の名はストリング帝国。


アンとリードが今いるこの国のことだ。


この荒廃した世界で、唯一高度な科学力を(ほこ)る国。


高い城壁に囲まれ、侵入者には壁につけられた電磁波が放出されるため、キメラも入って来れない。


(あるじ)であるストリング王は、キメラに制圧された他の地域を解放(かいほう)するために軍隊を作った。


それでも、もう何度も城壁の外に出ているが戦いは終わらず、数十年も続いている。


この国の兵士であるアンとリードは、部隊隊長から休暇(きゅうか)を言い渡され、その帰りだった。


「まあ式もだけど、楽しみだよな」


「なにが」


「いやさ、グレイの作るメシは旨いんだもんよ。いまでもたまに食わせてもらってるけど。あれ食っちゃうともう他もん食えねぇ」


「わかる。私はグレイの料理のせいで、軍での食事が苦痛になった」


「そうだ、料理といえば、式の後のパーティーの準備、手伝わなくていいのか?」


リードが訊くとアンが返す。


「気にしなくていい。それよりちゃんと二人へ贈る花の準備はできているのか?」


そう言われたリードは、ハッと何かを思い出したような顔をした。


そして気まずそうに、手を振ってその場からいなくなる。


「あいつ……思ったとおりだ」


アンが、リードの背中に向かって(つぶや)いた。


その後、アンが自宅に到着。


丸太で作られた小さな家。


この国――ストリング帝国では、アンが住むこの家以外は、多くの家がレンガ作りである。


この国の高度な科学力からは信じられないくらいオールドタイプの住まいだが、そんな外観(がいかん)の街には、機械人形が(あふ)れている。


機械人形は街で何をしているのか?


それは人間の代わりに労働をしているのだ。


だから、この国の人間は働いていない。


すべて機械がやってくれるからだ。


そのため、生活のコストは下がり、お金がなくても人並みの生活は保障されていた。


アンは、自宅のドアを開いて中へ入る。


「おいおい、ただいまくらい言ったらどうなんだよ」


そこには、大きな目をギョロつかたせた男が、ソファに座って本を読んでいた。


「グレイ、(かぎ)くらいしないと」


グレイは言われたことに、もっともだと返すと、アンがポツリと言う。


「大事……戸締(とじま)りは大事」


男の名はシープ·グレイ――。


三年前から、アンと共にこの丸太小屋で暮らしている。


グレイは、すでに30代後半のはずだが、10歳は若く見えた。


一応、アンの親代わりなのだが、親子というよりは、友人同士に近い関係だ。


アンは彼ことをシープと呼びたかったが、本人はそう呼ばれたくないようでグレイと呼ばせている。


アンが訊く。


「それより式の後のパーティーのことなんだが、準備とか、料理の材料とかは順調に用意できているのか?」


「もうバッチリ! 任せておいてくれよ」


ろくな説明もせずに、自信満々で返したグレイ。


しかし、その顔は少し引き()っていた。


「グレイの“任せて”は信用できない。いつも予定ギリギリ」


アンが顔を(くも)らせてぼやいた。


それを聞いたグレイは、頭を抱えながら、「そうなんだよな~」と、困った顔をした。


アンが(あき)れていると、グレイはただ笑った。

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