18章
少年は、アンの近くにいたキメラを、一心不乱に握った石で殴っていた。
勝てる勝てないではない。
少年は傷だらけのアンの姿を見て、じっとしていられなかったのだ。
キメラは虫でも払うかように、そんな少年を片手で振り払う。
吹き飛ばされた少年は、泣きながら立とうとしているが、それより早くキメラが目の前に立っていた。
「危ない!! 逃げて!!!」
マナが叫ぶが、少年は一歩も動けない。
そして、キメラが肥大化した腕を振り落とす。
もうダメだと思った瞬間――。
アンが機械化した右腕でそれを受け止めていた。
そして、電撃を放ちながらキメラを退ける。
マナが、少年が助かったことに、ホッとしてアンの方を見てみると――。
アンの身体がさらに機械化していた。
右腕の肘までだった機械部分が、今は肩口の方まで機械化している。
マナは思う。
……もしかして右腕の力を使いすぎると、アンは全身が機械になっちゃうんじゃ……?
自分でもそれをわかってるの、アン?
アンは少年を庇いながら、まだ倒れなかった。
もうとっくに限界がきているはずなのだが、それでも奮い立っている。
……アン。
あたし……あたし……。
マナはそんなアンを見て俯き、着ている赤いジャケットに涙をこぼしていた。
「おい、少年。さっきのはなかなかステキだったぞ。今度は私の番だ。あいつらが向かってきたら洞窟の中へ走れ」
涙を拭い、鼻を垂らしいる少年は、アンの言葉にただ黙って頷いた。
プルプルと足が震えているアンに、キメラが一斉に飛び掛かっていく。
これにはアンも、もうダメだと表情を引き攣らせた。
だが、そんなアンの視界が一瞬にして真紅に染まった。
それは、まるで生き物のように躍動する火の壁。
命の息吹を感じさせる鮮やかな赤だった。
広がった紅炎が収まっていくと、目の前には炎を纏ったマナの姿が見える。
「マナ……なのか……?」
両目を見開いたアンが言った。
マナは笑みを浮かべながら思う。
……お父さん、お母さん。
ごめんね、あたし……もう隠すのやめるよ。
だって、こんなにも他人のために頑張れる人と出会えたんだから……。
周囲の炎が、次第に勢いを増していく。
その勢いは知性のないキメラが後退るぐらいだった。
「あたしだって……あたしだって戦える!!!」
マナはそう叫ぶと、纏った炎をキメラへ向かって放っていく。
体から溢れる炎を火球へと変えて、次々に直撃させていった。
フラフラのアンが、その間に少年に洞窟に戻るよう言い、そしてマナの横に並んだ。
「なんで出て来たんだ。その力……隠さなきゃならない事情があったんだろう」
無愛想に言うアン。
マナが呟くように返す。
「もう……いいんだ。もっと大事なことがわかったから……。ありがとね、アン」
「礼を言われる意味がわからん。……でも、今のお前……すごくいい顔をしてるぞ」
二人が目を合わせると、マナはアンにニッコリと微笑み返した。
アンとマナの周囲には、ビリビリと稲妻が程走り、炎がメラメラと立ち上っていく。
「アンは下がっていて、あなたはあたしが守るから」
「何を言っている。互いに守り合えば、半永久的に戦えるだろう」
「そうだね!!」
二人がキメラに向かって行こうとしたそのとき――。
もの凄い突風が吹いた。
だが不思議なことに、その風はアンたちには影響を与えず、キメラたちにだけを吹き荒れている。
「この状況でまだあきらめていないとは……見事だ」
キメラの後ろから声がする。
そこには、褐色の肌をした男が立っていた。




