10章
アンは、気がつくとベットの上に横になっていた。
目を開いてみると、そこは見慣れた場所――。
ストリング帝国の医療施設だった。
城内の中性時代を思わせる作りとは違い、ここは一面が真っ白な空間。
周りにはタッチパネルやモニター、心電図、脳電図を確認するための機械が設置してあった。
「私は助かったのか……?」
アンは自分の右手を顔に当てると、頬に冷たい感触がする。
それから右手を見てみると、そこには機械化していた。
夢ではなかった。
アンは、その機械化した右手を見て涙を流した。
それはその腕が、ストラ、レス、モズ、リードの4人がすでにこの世からいないことを表していたからだった。
「目が覚めたかね」
そこに、ノピアがストリング兵を連れて現れる。
アンは、涙を拭って、すぐに切り替えた。
事態はよく呑み込めていなかったが、ノピアに訊ねる。
「ノピア将軍……。あそこで一体なにがあったんですか?」
体を無理矢理に起こして訊くアン。
ノピアは両手を後ろに組んで、アンを見下ろすように話をし出した。
今回の実験で、多くの者を機械化することに成功したこと。
その機械化した者のことを『オートマタ』と呼んでいるということを――。
ノピアは淡々と言葉を続ける。
「これでストリング帝国に、恐れるものは何もない」
「実験……だったんですか? じゃあ最初から反帝国組織がいるなんて話は……」
「いや、反帝国組織は存在するよ。それよりも、喜びたまえアン·テネシーグレッチ。君だけはさらなる進化を遂げている。マシーナリー·ウィルスに侵されながら自我を保っていられるなんて、初めてのことだ」
――マシーナリー·ウイルス。
ストリング帝国の科学者たちが開発した、人体を侵食する細菌。
このウイルスは、体内で一定の濃度まで上がると成長し、宿主の身体を機械化する。
機械化したものは、人体を超えた力と速度で動けるようになるが、宿主は自我を失い、ストリング帝国の完全なる機械人形へと変わってしまう。
ノピアは説明する。
「マシーナリー·ウイルスは、感情の高ぶりに反応する。特に痛みや憎しみなどがスイッチになるんだ。そのためにわざわざ国を離れてあのような場所で――」
「ふざけるなッ!!」
アンはノピアの言葉を遮って、ベットから立ち上がった。
機械化した右腕から、稲妻が迸っている。
そして、ジリジリとノピアへ近づいて行った。
「私たち兵士はみんな国のために戦って来たんだぞ!? それを……実験だと!?」
アンの怒りに呼応するかのように、機械の腕がビリビリと激しく反応している。
ノピアは笑みを浮かべて、アンの姿に見惚れていた。
「素晴らしい……。他の者はその症状が出るとショートして使い物にならなくなるのだが、君はコントロールできているんだな」
ノピアの恍惚の表情を見たアンは、もの凄い形相で飛び掛かった。
だが、ノピアの後ろにいたストリング兵に撃たれ、その場に沈んでいった。
薄れいく意識の中で、ノピアの声が聞こえる。
「安心したまえ。君は貴重なサンプルだ。すぐには殺さないよ」
アンは思う。
……クソッ!!!
ストラ!! レス!! モズさん!! リードッ!!!
私に力を……。
力強い思いとは裏腹に、アンはそのまま気を失ってしまった。




