9章
体を貫かれたレスは、そのまま持ち上げられ、壁に向かって捨てられた。
捨てられたレスは、すぐ近くにある婚約者――ストラと同じように両目を見開いたままだった。
2人とも胸に拳大の穴が開いている。
心臓をやられたのだ。
もう助からないだろう。
「オオオアァァ!!!」
機械化したモズのデジタルな咆哮。
モズの姿は、先ほど倒した鎧甲冑の白い機械人形へと変わっていた。
「ス、ストラ、レス……? な、なんで……なんでモズさんが……?」
アンは抱えていたインストガンを下ろして、ただ茫然と立ち尽くしていた。
言葉も思考も失い、死体となった2人と、以前はモズだったものを見ている。
リードが叫ぶ。
「アン! 早く離れろ!!」
モズだった機械人形が、咆哮しながらアンに向かって行く。
だが、アンは反応できずに動かないままだ。
モズがアンの目の前で止まり、手を伸ばそうとしたそのとき――。
リードがインストガンを連射し、機械人形となったモズの体と頭部を撃ち抜いた。
電磁波で首を飛ばされたモズから、大量の血がアンの全身に振り注ぐ。
「大丈夫かアン!?」
リードが近づいて声をかける。
だが、アンはまだ我を忘れたままだった。
「リード……3人に一体何が……?」
リードに肩を掴まれ、やっと我に返ったアンが何とか言葉を吐いている。
その言葉にリードは何も返せなかった。
「ここから脱出するぞ。他の部隊と合流するか、外にいるノピア将軍のところまで行くんだ」
力強く言うリード。
アンは目の前で起こったことを、まだ受け止め切れていなかったが、リードと共に走り出した。
リードは思う。
……ちくしょう!!
ストラもレスもやられちまって、モズ隊長が機械人形に変わっちまって……一体何が起きてんだよ!!
アンの前では冷静にしていたが、内心ではリードも落ち着いてはいられなかった。
当然だ。
兄妹同然の仲間が目の前で殺され、父親代わりであった男が化け物へと変わったのだ。
こうやって瞬時に行動を起こせること自体がおかしい。
だが、リードには絶対にやらなければならないことがあった――。
……来た道を戻れば、外に出られるはずだ。
なにもわからねぇし、理解なんかできねぇが……。
ともかくアンだけは絶対に俺が守る。
来た道を走っていると、突然横から機械人形が現れる。
「リード危ない!!」
前を走っていたリードの腕が掴まれ、鈍い音が鳴った。
掴まれた腕は、あり得ない方向に曲がり、リードがそのまま投げ飛ばされる。
アンは、持っていたインストガンを捨て、腰に帯びているピックアップ·ブレードを握った。
グリップにあるスイッチを押して、白い光の刃出し、機械人形へと斬りかかる。
右腕を切り飛ばし、さらに胸を刺したが、デジタルな咆哮をあげ、まだ向かってくる。
ギリギリで避けたアンだったが、機械人形は獣のように動きが早く、すべての攻撃を躱すことは不可能だった。
致命傷は避けたものの、追い詰められたアン。
アンがこのままやられると思った瞬間――。
機械人形の胸が白い腕で貫かれた。
そしてそのまま倒れ、動かなくなる。
「アン、大丈夫か」
その白い腕の持ち主はリードだった。
だが、先ほどのリードとは違う。
「リード……お前……?」
アンは自分の目を疑った。
リードの身体が、次第に白い鎧甲冑へと変化していたのだ。
苦しそうに呻くリード。
アンが近寄って触れようとすると、リードはそれを拒絶する。
「ア、アン……俺はもうダメだ……」
「なにを弱気なことを言っているんだ!! ふたりでここから出るんだ!!」
「段々と自分が自分じゃなくなっていく……俺もモズ隊長と同じように……」
「バカッ!! お前は……私と結婚したいんじゃなかったのか!? 簡単に諦めるなよ!!!」
アンが泣きながら絶叫した。
そんなアンを見て、すでに顔以外が機械化したリードが笑みを浮かべている。
「アンってさ……いつもは無愛想だけど……ホントは誰よりも感情的だよな……」
「お前、こんなときになにを言って!?」
「アン……愛してる……」
リードはそう言った後、自らの頭を機械化した白い腕で突き刺す。
血を流し倒れた彼の顔は、何かをやり遂げた者だけが持つ満足感に溢れていた。
「リ、リード……? イ、イヤだ……イヤァァァ!!!」
泣き叫ぶアン。
両手で顔を覆うと、自分の変化に気がつく。
「うそ……? 私も……なのか……?」
アンは、自分の右腕が機械化していることに気がついた。
急速に変わっていく筋肉と骨が、メキメキと鳴ったかと思うと、今度は金属同士がぶつかり合う音へ変化していく。
だが、どうしてだろう。
モズやリードよりも機械化の進行が遅く。
今のところは右腕のみで済んでいた。
アンは、泣きながらインストガンを拾って、外を目指した。
「こんなところで死ねない……死んでたまるか……」
ポツリ、ポツリと呟きながら歩いていると、出入り口の明かりが見えた。
外に出たアンは、目の前に見えるストリング帝国の戦闘車両――プレイテックの前で倒れる。
「……報告します。中には白い機械人形がいて……みんな機械になってしま……」
アンはそのまま気を失い、言葉は途中で切れてしまった。
プレイテックから外に出ていたノピアが、倒れたアンに近づいて行く。
中途半端に機械化したアンを見下ろすノピア。
「この娘……イレギュラーか? 初めてのことだな」
そういったノピアは、外に残っていた兵たちに撤退を命じた。




