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イレギュラー -悲劇の子-  作者: 獅子島 虎汰
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第8章

晴翔と神威は学校に着いてすぐ職員室に行った。

そこにはジャージ姿の透が居た。

透が学校の教師をやっている事に驚いたが、予定よりも遅く着いた為何があったのか説明をしていると目の前で笑い始めた透に晴翔は少しムッとする。


「あはははははっ」

「そこまで笑わなくても良くないですか?」

「いやだってよー、まさか登校初日に遅刻するとか勘弁してくれ」

「うっ……それはそうですけど」

「緋色達とそう変わらない時間に出たってことはそら遅刻するぞ、アイツら遅刻常習犯だからな」

「え……注意しないんですか?」

「さぁな、2人とも能力値は高いから大目に見られてるのは確かだがなー」


真似するなよと釘を刺されたが晴翔は流石に首を横に振る。

透と共に職員室を出て階段を上っていく、その最中にここでの暮らしを粗方説明される。

あとは慣れだとかかなり雑だが、廊下は始業前なので割と静かで廊下には誰も居ない。

透は晴翔と神威の教室の担任で、体育教師をしているという。

晴翔と神威は透について教室へと入る。


「新しいクラスメイトを紹介する、高原晴翔くんと伊沙羅神威さんだ、皆仲良くしろよー」

「よろしくお願いします」


晴翔が頭を下げると神威もつられて頭を下げる。

生徒から拍手があがり、よろしくと声が飛び交う。


「晴翔の席は……牧島の隣だ、牧島!色々教えてやってくれ」

「はい」


晴翔は透に紹介された牧島という少女の隣の席に座る。


「牧島蛍っていうの、よろしくね高原くん」

「よろしく牧島さん」

「蛍でいいよ」

「分かった、俺も晴翔って呼んで」

「うん」


蛍は優しい笑みを浮かべている。晴翔もつられて笑う。

神威は晴翔の前の席だ、だが神威は朝礼が終わったあと透に呼ばれ教室を出ていった。

授業は滞りなく進んで行った昼休み、蛍が声を掛けに来た。


「ねぇ晴翔くん」

「ん?」

「晴翔くんはどの種族なの?」

「種族?」

「うん、見た目はイレギュラーかなって感じだけど……」

「そうだよ」

「そうなんだ、じゃあ私と同じだね」

「蛍ちゃんもイレギュラーなんだ?」

「うん……」


笑顔で答える蛍だが何処か悲しげだった、晴翔は思わずごめんと謝る。蛍は驚いて首を横に振る。

お互い何も言えなくなり暫く沈黙する。

外のグラウンドで遊ぶ声が聞こえてくる。


「私ね、能力が嫌いなのイレギュラーになんてなりたくなかった。こんな能力さえなければ普通の暮らしが出来たのになって……」

「蛍ちゃん」

「あはは…ごめんね変な事言って、私最近不安定で能力にいつ飲まれてもおかしくないんだって。

晴翔くんはニュースとか見る?」

「ううん、見た事ない」

「そうなんだ……最近ねイレギュラーの暴走が多いんだって各地でイレギュラーが自我を失って人を襲ってるんだって……いつか私もそうなるのかと思うと怖くてさ…」


蛍は悲しい笑みを浮かべるだが、蛍の手は微かに震えていた。

晴翔は施設での出来事を思い出す、最近何か霧が晴れたように頭の中に施設での不穏な出来事が蘇る。恐らくこれは緋色が言っていた『自我を失った人形』の事だろう、それが沢山居る牢獄を父と歩く姿だった。


「分かるよ、その気持ち。俺、自我を失って暴走してる人を見た事あるんだ人を見ただけで襲ってくる。最近はそれを利用して悪さしてる人も居るし、怖いよね」

「うん……」

「でも大丈夫!何かあっても大丈夫!」

「ふふっ凄い自信」


晴翔の無邪気な笑みに蛍は拍子抜けし、笑い出す。

午後の授業もなんとか乗り切り、放課後になった。神威は疲れてしまったようで眠ってしまっている。


「おい、伊沙羅ー起きろー、寝るなら帰ってから寝ろ!」

「とっ……先生、俺連れて帰るので大丈夫ですよ」

「そんな訳にも行かねーだろ、それにお前はこの後専攻分野の見学だろ」

「あ……そうだった」

「コイツも同じ専攻なんだがこれじゃな……」


透が呆れたように溜め息をつく、教室にいる生徒は殆ど居らず、困り果ててる透を笑いながら去っていく生徒ばかりだ。


「俺も専攻の監督しなきゃならねーし生徒は全員この後の専攻の教室に向かうからここも閉めねーと……あ、牧島!丁度いいやお前高原連れてってくれねーか?同じ専攻なはずだ」

「え?」

「牧島戦術専攻だろ?高原もそうだから一緒に行ってやってくれ俺はこの寝坊助保健室連れてくから」

「あ……はい!」


透は神威を背負い、荷物を持つ。

晴翔は蛍と共に教室を出ると、体育館に向かった。体育館に近付くと激しい音が響いてきた。

物が割れるような壊れる音が響いている。


「同じ専攻だったんだね!」

「あ……うん……なんか凄い音が聞こえるんだけど」

「いまは先輩方が後輩の手合わせしてるとこだと思うから……」

「え?戦術専攻って実際に戦うの?」

「そうだよ?知らなかったの?!……でも大丈夫だよ先輩方手加減してくれるから」


不安を抱きつつ、体育館の中に入っていく。

晴翔の不安は的中した、手加減という文字が何処にあるのかが分からないほどに人や能力が飛び交っている。

人ってここまで吹き飛ぶんだと痛感させられるほどに高く飛んでいく生徒もいる。

時々謎の黄色い悲鳴が上がっている、上のギャラリースペースには女子が沢山いて頬を赤く染めながら手合わせを見ている。


「(何ここ……)」

「えっとねあの人は咲桜緋色先輩であっちの奥に居るのが真宮真紅先輩…この学校のトップなんだよ」

「へ……へぇ……」


向かってくる相手を全て投げ倒しているのはつまらなさそうにしている緋色とニコニコと楽しそうに時々女の子に手を振る真紅だった。

とても余裕そうに見える。


「お、今日も派手にやってるな」

「あらあら本当ね」

「琥珀さん……も先生なんですか?」

「あら晴翔くん、登校初日に遅刻は駄目よ。私は保健医をしてるの怪我とかしたらいつでもいらっしゃい?」

「………」


透と琥珀が一緒に体育館の中に入ってきた。

琥珀もやはりこの学校の教師らしく白衣を身にまとい手には救急箱を持っている。

晴翔に手を振り琥珀は吹き飛ばされた生徒のほうへ向かっていった。


「一応人間もいるからな、人外と違って治癒能力が低いイレギュラーはああやって琥珀が治してる」

「へぇ……てか、あんな加減なしでやってもいいんですか?」

「ん?まぁ大丈夫だろ、受け身さえ取れば命に関わらねーよ」

「(雑……)」

「お前も混ざるか?」

「いや、まだ受け身も出来ないので確実に死ぬ…」

「ははっだろーな、今日はしっかり見学しろ帰ったら猛特訓だからな」

「はい……」


透はバシンっと思いっきり晴翔の背中を叩くと一通り投げ飛ばしたのか一段落した様子の2人の方へと向かっていった。

すると緋色がこちらに向かってきた。


「やる?」

「え?無理無理無理怖い怖い怖い怖い」

「心配するな、俺が投げ飛ばしたいだけだ奥に透がいるから受け止めてもらえばいい」

「(なんでだよ!)……はい」


晴翔の意見を聞く気がないのか、中央まで引き摺られるように緋色は晴翔を連れていく。


「何処からでもどうぞ」

「えっと……」

「来ないならこっちから行くから」

「え……」


そう言った緋色の姿は一瞬にして、晴翔の目の前から消え去る、気付けば晴翔は空を舞っていて地面に真っ逆さまだった。

だが、落ちた瞬間痛みはなかった目を開けると奥にいた透が片手で晴翔を受け止めていた。


「呆気ねーな」

「……無理ですよ……」

「ま、これからだこれから」

「はい…」


緋色は満足したのか肩を回している。

晴翔は透の隣に座り込む、体育館で最初に見た光景に気圧されこれからが不安になる。

するといつの間にか、ジャージに着替えていた蛍が隣に立っていた。


「綺麗に投げられてたね」

「見てたの?」

「うん、着替え終わって戻ってきたら丁度晴翔くんが緋色先輩に引っ張られて行く所だったから」

「まじか……(恥ずかしい……女の子にあんな姿見られるなんて)」

「でも羨ましい、私はあの人に近付くのも怖い」

「どうして?(まぁ……初対面で人に刀投げてくる人だもんなー)」

「なんか目が怖いし冷たい……今日は珍しいと思う、緋色先輩が後輩の相手してるの」

「いつもしてないの?」

「うん、皆のこと本気で殺す目してるから怖がってだれも近づかないし先生に言われないと手合わせしてくれないの、今日は自主的にやってるみたいだし珍しいかな」

「へぇ……」


また人を軽々と投げ付けてる緋色を見ている蛍は何処か羨ましそうな目をしている。


「強くなりたいな……だから私は強い人と手合わせがしたい」

「それは、心?それとも能力的な?」

「えっ!ししし真紅先輩?!」

「やぁ、えっと牧島蛍ちゃんだったよね?」

「はい!」


突然目の前に現れた真紅に蛍は驚いて後ろに1歩下がる。それを阻止するように真紅は蛍の手を握る、いつもの邪気の無い笑顔を向ける。

蛍は真っ赤になって下を向く。


「手合わせしないの?」

「でも……私能力が……」

「大丈夫、能力に頼る必要はないよ武器でやろう?投げ飛ばしたりしないよ、女の子だからね」

「男も女も戦いに出たら同じだ甘やかすな、晴翔もいつまで座ってる」

「まぁそうだけど……ねぇ?痛いの嫌でしょ?」


緋色が威圧的な目で蛍と晴翔を見る、晴翔は飛び上がるように立ち上がる。

真紅は余裕そうな笑みで緋色の隣に立つ。

2人は蛍をしっかりと捉えている、まるで蛍を試すかのような視線に蛍は息を飲む、変な汗が背中を伝う。


「……私と手合わせしてもらえませんか!」

「何故?」

「っ……!それは強くなりたいから!」

「強くなってどうする?なんの為にお前は強くなる?」

「それは……家族を守りたいから…」

「心が強くなければお前みたいな奴戦いに出ればすぐに死ぬ」

「!!」

「ちょっ緋色さん!」


晴翔が1歩踏み込もうとした時隣に居た真紅がそれを止める、そして静かにするように促す。

晴翔は渋々引き下がる、その間も緋色はただ蛍を見下ろすだけだった。

蛍の瞳は恐怖の色に滲んでいる。


「本当は怖いです、いつ能力に飲み込まれるか分からないから死ぬのは嫌です、でも逃げるのはもっと嫌!負けたくない!私は強くなりたい……!自分に負けないくらい強くなりたい!」

「よく言った」


蛍はグッと足に力を込め緋色の威圧的な目を押し退けるように立つ。

緋色は蛍の言葉に口角を上げ、面白そうに笑う。

晴翔は蛍の姿に驚いた、それと同時に心が踊った。


「来い、手合わせしよう真紅が」

「あれ?結局僕なの?」

「俺はこの腰抜けを扱く」

「良かったね〜晴翔くん、緋色先輩自ら指導してくれるってなかなかないよ?」

「「よろしくお願いします!」」


2人は顔を合わせ嬉しそうな顔をして真紅と緋色に頭を下げる。

周りがざわつき始め、どちらも構え出すと静まり返る。

そして何の合図もなく、手合わせが始まった。

お互い激しいぶつかり合いの音が体育館に響く何度も何度も弾き飛ばされ、投げ飛ばされようとも蛍と晴翔は立ち上がり真紅と緋色に挑んでいく姿は周りの生徒が唖然とする程だった。

暫くの間能力を駆使しながら戦っていた、真紅と蛍だが真紅の攻撃をまともに受けそうになった時蛍の心を恐怖が過ぎる。


「!!」

「まずい!!」


真紅が気付いた時には遅く赤色閃光が蛍の顔面に向かっていた蛍は咄嗟に腕で顔を隠す。


「(嫌っ!!)」


バキンッという破裂音が響く体育館の窓が全部割れた。ギャラリーに居た女子生徒の悲鳴が響き辺りは騒然となる。

一瞬の所で蛍は透の能力のお陰で頬に怪我をした程度で済んだが、辺りを見た蛍は立ちすくみ震えていた。

真紅がすぐに駆けつける。


「蛍ちゃん!」

「真紅……先輩……私」

「大丈夫だよ少しびっくりしただけだよね」


怯え立ちすくむ蛍のことを真紅は優しく背中をさする。すぐに琥珀が駆け付け蛍を体育館から連れ出した。


「これは思った以上だね」

「ああ、牧島の様子は?」

「あの子も怖がってたよ"またやった"って顔してた、体に能力が追いついてないあれじゃ遅かれ早かれ堕ちる」

「だろうな……晴翔、帰る準備しろ終わりだ」


騒ぎの中走り回る透をよそに緋色と真紅は体育館を出ていった。

晴翔は先程まで蛍がいた場所を見つめる。

恐怖で怯えていた彼女はどうして希望を捨てていないのだろうかと晴翔はぼんやりと思う。

それと同時に壊したいと思う気持ちに晴翔は首を横に振る。


「俺今……なんて……」


晴翔の心の中で何かが疼く。

黒くて深い闇が後ろから迫ってくる。

その時後ろから誰かに抱き着かれた晴翔は驚いて後ろを振り返るとそこには神威が居た。


「神威?!」

「……」


神威は何故か不貞腐れていて、目を合わせようとしない。

何を言っても答えない神威を引き摺るように体育館を出た。


帰り道は疲れが出たのか足が重く家までの道のりがやけに遠く感じた。

家に着くと紗綾がいつもの笑顔で迎えてくれた。


「おかえりなさい晴翔くん!学校楽しかった?」

「ただいま紗綾さん……楽しかったよ」

「晴翔くん?」

「汗かいたから先にシャワー浴びてくるね!じゃっ」

「晴翔くん?!」


晴翔は思わず逃げるように浴室へと走る。

紗綾は不安そうな顔で浴室の方を見る、隣では顔を傾げる神威が居て神威を心配させまいと紗綾は頭を撫でてやる。


晴翔は体育館での出来事が頭から離れず、時々襲われる謎の感覚に戸惑いつつシャワーを浴びる。


自分が自分ではないようなそんな感覚に晴翔は首を横に振る、違うと心を奮い立たせるように頬を叩く。痛みがじんわりと滲む。


夜になると透と琥珀が疲弊した様子で帰ってきた。透は報告書と始末書、怪我をした生徒の親への連絡、琥珀は怪我をした生徒の手当と心のケアにをしてきたのだという。

その為夜の稽古は2人抜きで行われた。

初の稽古はまた晴翔が宙を舞って終わった。




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