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イレギュラー -悲劇の子-  作者: 獅子島 虎汰
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第5章

晴翔と神威は昼食を済ませると、外に出る。

そこには1台の黒い車が止まっていた。

透は運転席に、緋色は助手席に乗っている。

透が晴翔に目配せし乗るよう促す。


「乗れ、時間が無い」

「はい!」


晴翔と神威は急いで車に乗り込む。

それを確認したと同時に透は車を街まで走らせた。

静かな車内に、晴翔は少し緊張する。


「……(気まずっ!)」


隣を見ると神威は外の景色を見て、目を輝かせていた。

暫くして山道を抜けると神威の目に一面の青色が映る。


「ハル!あれ綺麗!」

「うわぁ……凄い綺麗な青色だね」

「あれは海だ」

「「海!」」


緋色の言葉に2人は同時に反応し目を輝かせる。

そんな2人を見て緋色は頬を緩ませる。

だが、そんな景色は急に輝きを失った。

次に目に映ったのは寂れた街だった、もう誰も住んでいないような壊れたビルに半壊した家、シャッターの閉まった商店街を抜ける。


「……ここは?」

「ここが街だ、2、3年前までは人で賑わっていたらしいけどなもう誰も居ない」

「誰も居ない…」

「あぁ、半数は死にあとの半数はこの街を出たか山に逃げた」


透は2人に街をしっかり見せる為にゆっくりと車を走らせる。

何もない静かな街には2、3年経っても壊されたままの状態で残されていた。


「あの、この街を壊したのは……もしかしてイレギュラーですか…?」

「ああ、この街はお前らイレギュラーが暴走して壊したと言われてるが最初はイレギュラー狩りの反発で人間達の攻防戦だったと分かっている」

「イレギュラー狩り?」

「知らないか?イレギュラー狩りをしていたのはお前らが居たあの施設の施設長がやっていた、大分昔から密かにやっていたようだが、それが大っぴらに始まった事と戻らない我が子に腹を立てた人間たちがイレギュラー狩りと呼ぶようになったらしいがな」

「(父さんがそんなことを……)」


イレギュラー育成保護施設の施設長をしていたのは晴翔の父だった、晴翔が聞かされていた施設内容とは違い思わず落ち込んでしまう。

そんな晴翔を見た神威が晴翔の頭を撫でる。


「!……ありがとう神威」


神威はあの日からあまり多くを喋らない、大体は単語のみで未だに言葉に詰まってしまうのか喋りたがらない。

口を開きかけて辞めることもしばしばあり、あの怯えていた時の神威を思い出すとそれも神威の"能力"が影響しているのかと思うと仕方が無いのかとさえ思う。


「着いたぞ」


透の言葉に晴翔と神威は顔を上げる。

車が止まった先には見覚えのある景色があった。

そこにあったのは、元々晴翔と神威が居た施設であり嘘で塗り固められた偽りの平和が確かにそこにあったのだ。

だが、その施設も3日前に透と緋色によって崩壊した、もう残っているのは骨組みと少し残った施設の瓦礫のみだった。

地下があったところはポッカリと穴が空いて地下室が丸見えになっていた。小さい頃からいままでずっとその場所に住んで居た、自分よりも小さい子が沢山いて同い年の子も沢山居たのにいま残っているのは晴翔を含め4人のみだと聞いた。

もうここには何もない、思い出ももう残らず消えていた。


「…………」

「イレギュラーの結末を知っているか?」


透が晴翔の背中に問いかける。

晴翔は振り向きもせずただ頷く。


「イレギュラーは骨も残らない、そして万能じゃない、能力に飲まれれば暴走し自我が消え最後は自分の能力に殺される」


その時晴翔はハッとした、自我が消えたイレギュラーの事を。いつか自分もそうなるのだと、いつか自我が消え暴走した時は、後ろに立つ2人の男に殺されるのだと、急に死の恐怖が晴翔を襲う。意識が途切れないように恐怖に飲まれないように思わず握りこんだ拳に力が入り血が流れる。


「やめろ、傷付ける相手を間違えてる」

「え……」


いつの間にか隣に居た緋色が晴翔の腕を掴む。


「ここでお前に会った時能力に飲まれていないことが不思議だった、他の奴らは全員能力に飲まれて苦しみながら死んでいったからな」

「……」

「それに、お前は俺らが追い付いても自分じゃなくて神威を守ろうとしたお前の目には強い光があった、あの場で死を選ぶ奴らは多いのにお前は違った、お前にも何かあったんだろ?生きないといけない理由が守る理由が」


緋色の言葉に晴翔の心が掴まれたように痛む。

あの時確かに死ねない理由がそこにあった。

負けられない理由が生きられるならその希望に縋る理由があった、大分昔の約束があったからだ。


「約束を守りたかった」

「約束?」

「あぁ、当の本人は忘れてるのかもしれない覚えてないかもしれないけど」


晴翔は透に見守られながら施設の周りをうろつく神威を優しい目で見る。愛おしいようなその目はしっかりと神威を捉えて離さない。


「俺は昔アイツと約束したんだ、何があっても俺が守るって平和な世の中にしてみせるって」


「戦う術を身に付けていなければ何一つ守れない」


「……え」

「昔俺の兄が教えてくれた言葉だ、今のお前は戦う術を持っていない。能力もきちんと使いこなせなければ持っているだけ無駄だ」


緋色の的確な言葉に晴翔は押し黙る。

確かにいまの晴翔には能力を自由自在に操る力はない。ましてや、武器と呼べるものも持っていない、いま能力を使っても能力に負け飲み込まれ約束どころの話ではなくなってしまう。


「いまはこの世界に平和なんてものは存在しない壊れかけの世界でお前はいまやっと目覚めた様なものだ。守りたいなら最後まで守れ貫け負けるな見失うな、武器を取れ覚悟を決めろその覚悟がお前にはあるか?」


晴翔はしっかりと見つめてくる緋色から目を逸らさない逸らしてはいけないと心のどこかで感じる。


「俺は神威を守りたいもう一度あの時の平和を取り戻したい……!だから、俺に戦う術を教えてください!お願いします!!」


晴翔は緋色に頭を下げる。

信じる信じないじゃない、もう頼れるものは何もないなら少しでも何かに縋ってもいいのでは無いのかと思う、それが悪であろうとなんであろうと約束を果たせるのなら縋りたい。


「(強くなるに特別な理由なんて必要ない、ただどうしたいかだ)………」

「まずは能力をどれだけ使えるかだな」

「透」


気付くと透と神威が隣に立っていた。

神威は話についていけないのか困惑した表情を浮かべている、そんな神威の傍に寄り晴翔はニッコリと微笑む。


「大丈夫だからな!神威!俺が絶対守ってやる!」

「!!」


その言葉に神威は驚いた、昔見た小さな彼の顔と同じであの無邪気な何もかもを吹き飛ばすような顔が過ぎる。


「うん!」

「おう!」


神威は晴翔の手を握るあの頃よりも大きくなった掌は暖かくて優しく握り返してくれる。

安心出来るその笑顔と心を守りたいとそう思うほどに。


「これから忙しくなるな」

「全くだ」


緋色と透は2人の無邪気な笑顔を見てため息をつく。

歯車は動き出したばかりで、ゆっくりとその歯車は時を刻む。


「過去は変えられない、でも未来は変えられる」

「……そうだな」

「優しい世界になるといいね……」

「…………ああ」


緋色の優しい目はどこに向けられているのか、透は壊れゆく世界とは裏腹に綺麗な青空を睨む。



「こんにちは」

「「「「!!!!」」」」


突然掛けられた言葉に4人は驚く、咄嗟に透と緋色は晴翔と神威を守るように立つ。

崩れた施設の中に立つのは3人、黒の膝丈までのドレスに身を包んだ少女とその背後に立つ、着物を着て悲しげな表情をした幼い少女と黒いスーツを身に纏い鋭い目でこちらを見る男がいた。


「そんな身構えんなよ、別に取って食ったりしねーよ」

「じゃあ何しに来た!」

「挨拶だよ挨拶」

「挨拶だと……?」


男の言葉に耳を疑う。

すると黒いドレスを着た少女がゆっくりと近付いてきた。

その手には白い封筒が握られている。その封筒を晴翔に向けた。


「お、俺……?」

「シュバルツ様が貴方にと」

「……?」

「またお会いしましょう、フラム様」

「……なんでその名前っ!」


少女は晴翔の耳元で囁くと、スっと消えてしまった。

気付くと着物を着た少女と黒いスーツの男も姿を消していた。


「一体なんなんだ…アイツら」

「久々に顔を見せたと思ったら本当に挨拶だけとはな」


緋色と透が呆れたように話している時、晴翔は手のひらの封筒に目を落とす。

封筒には『愛する息子へ』と書かれていた。


「……父さんっ……」


晴翔はギリッと奥歯を噛み締める、そんな晴翔を神威は心配そうに見つめるしかなかった。


「帰ろう、日が暮れる」


透の言葉に3人は頷き車に乗り込む。

帰り道は誰も家に着くまで一言も喋ることは無かった。

光がなくなった街は真っ暗で不気味だった、もう戻ることは無い場所を名残惜しそうに目を向けるがすぐに目を逸らし前を見る、そこには月明かりに照らされた海が綺麗な色を映し出していた。

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