第3章
晴翔は目を見張った、そこには昨日と同じ顔の少年と青年がいた。2人から感じるのは晴翔を突き放すような冷たい目と態度。
「(あの時の…)」
「俺の言っていることは理解出来るか?」
「全く理解出来ない、自我がないってどういう意味だ」
晴翔の言葉に少年はため息をつく。
「お前ずっと施設の中に居たんだろ?だったら仲間の様子とか見てなかったわけ?」
「……」
「はぁ、その様子じゃおかしくなった奴らを見たことは無いらしいな。それにお前の父親がやっていたことも知らないようだし、この話はいまのお前に話しても意味が無いように思うがな」
少年の言葉に晴翔は黙るしかなかった。
確かに晴翔は仲間の様子を常にみていた訳では無い、急に姿を消した者も居た。何処か別の施設に移ったのだと父親から言われていた。イレギュラーの定期検診でも人数が減ってきているのは気付いていた。しかし、何故か不思議と思わなかったのだ。
「おかしいとは思わなかったのか?どうしてあんな施設に居たのか、どうして毎月定期検診があったのか、どうして仲間が減っていることに気が付かなかった?」
「それは……父さんが……!」
「父親がなんだって言うんだ、お前本当に何も知らないんだな。なのに助けた人間に対して礼さえせず責め立てるとはいいご身分で」
「なっ!!!」
「緋色ちゃん!!」
少年の言葉に晴翔がカッとなった時、紗綾が少年の名を叫ぶ。
紗綾が緋色と呼ぶ少年の元に近付き頬をつねった。
「緋色ちゃん、今の言い方はいけないと思うの、どうしてそんな言い方をするの?ダメでしょ、それに晴翔くんの頬の傷は貴方が付けたのだから先に謝るのは緋色ちゃんでしょ!」
「いひゃい」
緋色は紗綾の手を掴むが、紗綾は離そうとしないどころかもっと強く頬をつねる。
「緋色今のはお前が悪い」
「痛ったー……なんだよ透まで」
隣に立っていた青年透は静かに緋色を注意する。
紗綾はムッとしたまま透に顔を向ける。
「連帯責任です!透くんもちゃんと謝る!」
「は?なんでオレも……」
「いいから2人とも晴翔くんに謝りなさい!」
紗綾に怒られ、透と緋色は思わず顔を見合わせる。
中々謝る素振りを見せない2人に我慢が出来なかったのか紗綾は2人の手を引っ張り晴翔の近くまで連れていき、強制的に頭を下げさせた。
「はい、"ごめんなさい"」
紗綾の言葉に透と緋色はなすがままになっていたが小さい声だが確かにごめんなさいの声が2人から聞こえたのを晴翔は聞き逃さなかった。
「もういい、朝からこんなことうんざりだ」
「あぁ全くだ」
「あっ!ちょっちょっと!2人とも、話は終わってないでしょ!」
紗綾が止めるのも聞かずに2人は元来た通りに戻っていった。
静まり返る室内に扉の閉まる音が響く。
「……ごめんね、晴翔くん。夜には落ち着いてると思うから…あの子たちは根は優しい子なの少し事情があって」
「大丈夫ですよ、俺も施設に居たのに何も知らなくてあの人たちが言ってるのは合ってますし、俺こそ助けて貰ったのにお礼も言わずにすみません」
晴翔は頭を下げる。その頭を紗綾は優しく撫でた。
「やっぱり強い子、それに優しい子ね。そういう子私は好きよ」
「えっ…」
紗綾の言葉に晴翔は思わず頬を赤くする。
褒められたのは初めてで優しさが染みる。
その後、昼間になっても緋色達は部屋に現れなかった。
半ば喧嘩したような感じだった為気まずいのは確かだが、晴翔は自分の知らないことを知っている事に気になっていた。
晴翔はソファに腰掛けながら天井を見上げる。
すると、カウンター席に居た出雲が声を掛けてきた。
「朝の話の続き気になる?」
「気になります」
「本当は話していいのか迷ったんだけどここに来てもそこまで混乱もしていないようだし話してあげようか」
出雲のニヤけた顔が目に入る。
晴翔は出雲から目を逸らさずに待った。
「あの施設、本当はイレギュラーの保護施設ではないんだよ」
「え……」
出雲の口から衝撃の事実が語られた。
「保護なんてものの為じゃない、あの施設はイレギュラーを悪用しようと研究や人体実験をする為の施設だ、その施設の管理長がキミのお父さんって訳だけど……大丈夫?」
「……信じられないです」
「お父さんにはなんて言われて施設に入った?」
「ここは、皆が……お前たちのようなイレギュラーが幸せに暮らしていく場所だって」
晴翔は頭を抱える。
父親が言っていた事が嘘だと気付かされる、ずっと騙されていたのだ実の父親に、気付かない内に実験体にされていたのだ。
「それに……母さんを取り戻す為でもあるって」
「お母さんを?」
「出雲」
晴翔の言葉に出雲と紗綾が反応した。
紗綾が目で出雲を止めるが出雲が首を振ると紗綾ら小さくため息をついて作業に戻った。
晴翔が首を傾げると出雲が先程の笑みを晴翔に向ける。
「お母さんは何処に?」
「母さんは俺が小学生の時に居なくなってそれから父さんはその時から俺の能力を研究し始めてた」
予兆はあったのだ、そう父親がおかしくなり始めたのもそこからだ母親が居なくなってから父親はイレギュラーに固執し始めた。
それから施設を作り、沢山のイレギュラーが集まるようになった。
「なんで……忘れてたんだ……あの時も父さんの様子がおかしいのは分かっていたはずなのに……」
「他には?」
「あ……神威がこっちに来てからもっとおかしくなりました施設の雰囲気も……それに神威も昔とは違う…あれ……俺なんで忘れてるんだ?」
「そう暗示を掛けられていたんだよ、あの施設から……いや、お父さんから離れたからだね。色々思い出せるはずだよキミも彼女もね」
晴翔の頭の中の靄がすうっと消えていくのが分かった。ずっと何かが引っかかっていた、それがこの事とは思わなかった。
「顔色が悪いわ、大丈夫?」
「すみません、なんか気持ち悪くて……」
晴翔の顔色を心配した紗綾が近付いてくる。
そっと暖かい手で晴翔の頬を撫でる。晴翔は無理をして少しだけ笑みを見せた。
「辛い時に笑わなくていいの、頼っていいのよ。
出雲、私先にお部屋の用意をしてくるから手伝ってくれない?」
「はいよ」
紗綾はそう言うと出雲を連れ奥の扉の中に入っていった。
晴翔は全てを思い出した。
今まであったこと全部。思い出した。
「泣きそうだ……」
晴翔は上を向く。下を向くと涙が零れそうだと思ったから。
その後、紗綾と出雲が戻ってきて出雲に連れられ部屋へと案内された。
「この部屋を使ってくれ、ちなみに右隣は俺の部屋、左隣が紗綾。んで俺の隣は緋色と透の2人部屋、その隣はまだ会ってないが女性2人が使ってる何かあればすぐ呼んでくれ。」
「ありがとう……ございます」
晴翔は立っているのがやっとだ。
「夜まで休むといいよ、また呼びに来る」
晴翔は部屋に入りすぐにベットへと潜り込む。
布団は暖かい匂いがした。
すぐに微睡み始め気付いたら深い眠りへと落ちていった。
夢を見た。
血溜まりで、1人佇む少年。
その手には1つの刀、少年の顔までは見えない。
だがとても嫌な感じだった。
駄目だと分かっているのに心配で声を掛けてしまう。
するとその少年はこちらを向いた。その顔に驚いた。
その顔は自分と同じ顔だったからだ。