第2章
目の前の男に促されるまま、階段を降り暖簾を潜る。
すると、急に視界が開け暖かい陽の光が差し込み宝石のようなアクセサリーが並ぶ場所に出た。
手前の作業台には1人の女性が座り何やら手作業で作成しているようだった。
「紗綾」
「あ、目が覚めたのね?おはよう晴翔くん」
紗綾と呼ばれた女性は振り返り晴翔を見るとにっこりと微笑んだ。ふんわりとした印象に晴翔は安堵の息をつく。
「えっと……おはようございます」
晴翔は困惑しながらも返事をする。
「体調はどうかな?痛いところとかない?」
「ない……です」
「良かった、あの子達加減っていうのを知らないから…自己紹介がまだだったよね。私は秋月紗綾って言うのよろしくね、晴翔くん」
紗綾は優しい笑顔を晴翔に見せる。心がほっと暖かくなるのがわかるくらい優しい声に晴翔はボーッと紗綾を見つめる。
「晴翔くーん?大丈夫?」
「大丈夫です!すみませんボーッとして…」
「昨日の今日だもの、仕方がないわ」
そう言って紗綾はマグカップを1つ晴翔に渡した。晴翔はそれを受け取り中を見る、中には水が入っていた。
「喉乾いてるでしょ?それ飲んでご飯食べましょう? 食事が終わったら病院に行きます」
「病院?…そうだ!神威!!」
「落ち着いて大丈夫よ。貴方と一緒に居た神威ちゃんは少し怪我をしていたから念の為に1日だけ入院しているのよ」
晴翔は傍に神威が居ないことに気付き狼狽える、それを落ち着かせるように紗綾は晴翔の手首を優しく掴み、まずは腹ごしらえよ!と言って紗綾はキッチンへと入っていく。
晴翔はぐるっと辺りを見渡す、そこは色鮮やかな様々なアクセサリー類が飾られていてどれも陽の光を浴びて輝いている。
一緒に降りてきた男は奥にあるソファに座ると、晴翔を招くような手振りをする。
思わず紗綾のほうに顔を向けると、紗綾がそれに気付いて先程のように優しい瞳を晴翔に向ける
「大丈夫よ彼の隣に座ってて、もう少しで出来るから」
「…はい」
晴翔は恐る恐る男の隣に座り、料理を作っている紗綾を見つめる。ぎゅっと胸を掴まれるような懐かしくて悲しい感情が過ぎる。
思わず下を向いた晴翔に気付いた紗綾が声を掛ける。
「ごめんね」
「え……」
「びっくりしたよね、ううんすごく怖かったよねいきなりこんな所に連れてこられて」
「あ……はい……」
「本当にごめんね」
あの優しい瞳が悲しげな色を帯びていた。
確かに怖かったし死を覚悟した。でもあそこで死ぬ訳には行かなかったどうしても生きなければいけない理由があった、守らなければいけない理由があった。だからー
「大丈夫です」
「……強いのね」
「そんな事ないです」
紗綾は返事の代わりに優しい笑顔を晴翔に向けた。晴翔の目には揺るぎのない強い光があった。
「はい、出来た!どうぞ召し上がれ」
「美味そう!!いただきます!」
晴翔の前に出てきたのは少し焼き目のついたクロワッサンと具が沢山入ったスープだ。
余程お腹が空いていたのか晴翔は一気に平らげた。
「ごちそうさまでした!美味しかったです!」
「それは良かった。さて、ちゃんと説明してあげるのよ、出雲」
紗綾が呆れたように目を向ける先には、お茶を片手に寛ぐ男、出雲がいる。
出雲は少しだけ困った顔をした後、晴翔に言葉を投げる。
「昨日は手荒な真似をしてごめんね。後であの子らにも謝らせる」
出雲は晴翔の顔を見つめ、目を細めて笑う。
何故かそれが怖くて、晴翔は肩を震わせた、本当に笑っていないように思えたからだ。
「そんな怖がらなくてもとって食ったりしないからそこは安心して、俺は男に興味ないから」
「は、はぁ……」
「怪我させるつもりは無かった、もっと穏便に済ませたかったっていうのは言い訳に聞こえるかもね、でもねキミたちイレギュラーを助けたかったのは本当だよ」
急に話始めた出雲の言葉に晴翔は驚く。
昨日の惨状を見てどうしてそう言えるのか、あれだけの犠牲を払っていたのに。仲間が、家族が死んだのに。
「信じられないって顔だね」
「……信じられるわけないだろ……っ」
「じゃあ1つ言っておこうか、生き残ったのはキミと彼女とキミのお父さんともう1人のイレギュラーの子だけだ」
「…でも、皆を殺したんだろ……!」
「……そうだと言いたい所だが少し違う、緋色達が殺したのはもう自我がないイレギュラーだ」
「は?」
晴翔には出雲の言っている言葉がわからなかった。
彼らに自我がないとは言いきれない、あの騒動が始まる少し前までほとんどの人間と話していたというのに。
自我がないとはいえ、殺しても許されることなんてないという事に対し怒りが込み上げてきていた。
「俺は緋色と透に、イレギュラーを殺すなと命じた」
「だからって…何故イレギュラーを殺さないといけなかったんですか…だって彼らは生きていたのに、それでも殺さないといけなかったんですか…!」
「ああ、そうだ。そうせざるを得なかった。それに俺はイレギュラーを殺したんじゃないもう人でも無い人の形をした人形を殺したんだ」
突然耳に届いた、冷たい言葉に晴翔は出雲から目を離しその声のする方に顔を向けた。
そこには昨日施設を襲ってきた少年と青年が冷たい目をして立っていた。