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イレギュラー -悲劇の子-  作者: 獅子島 虎汰
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進む時

進む時 登場人物


秋月 紗綾 [あきづき さあや]

 神職の人間であり政府の上の人間

 

牧島 蛍  [まきしま ほたる]

 イレギュラーとして生まれた。女子高校生。

 破壊の能力を持つ。 晴翔に命を救われた。


宮里 優真 [みやさと ゆうま]

 イレギュラーとして生まれた。 男子高校生。

 盾の守護の能力を持つ。 晴翔に救われた。


早乙女 右京 [さおとめ うきょう]

 神職の人間。街外れでカフェを経営している。

 世界で唯一の時空の能力を持つ。紗綾とは縁がある。




紗綾は華子と話した後自室に戻り、鞄の中に入れていた携帯端末を取り出す。

急いで端末を操作し電話帳の欄を開くと目当ての名前をタップし耳に携帯を当てる。

短いコール音の後優しく低い男の声が耳に届く。


「ごめんね、右京くん。こんな遅い時間に」

《いいですよ。キミからなら何時だって構いません。何かありましたか?》

「少し…お願いがあるの」

《ええ、私に出来ることなら応えましょう》

「ありがとう、あのね……」


右京と呼ばれた男は黙って紗綾の言葉を聞く。

聞きこぼしがないように聞いた内容を繰り返し確認する。

ソファに座っていた右京は腰を上げ空高く光る月を見つめ電話を片手に、着崩していたスーツをしっかりと着直すと鞄を持つと、玄関先に向かう。


「はい、分かりました。あまり気は進みませんが資料はこちらから学園と政府に渡しておきましょう」

《こんなこと急に言ってごめんなさい。お願いね》

「いいですよ。こちらはもう解決しましたから、ええ。ではまた明日連絡しますねメールのほうがよろしいでしょうか?…では、そうしましょう。おやすみなさいよい夢を」


右京は携帯端末をポケットに仕舞うとドアノブに手をかける。その時背後に気配を感じ振り返る。


「…どうしたんですか?起こしてしまいましたか?」

「ううん…店長どこか出掛けるんですか?」

「そうですね、少しだけ店を離れます。明日の夜には帰りますのでお店のことは任せてもいいですか?」

「うーん……いいですよ…ふわああ、気を付けてくださいね店長。待ってますから」

「はい。では行ってきますね」


眠たげな顔で尾が二つに分かれた猫を抱きながら右京を見送る少女に右京は少し後ろ髪を引かれる思いで店を後にする。


「さて、急がないと間に合いませんね」


右京は少し明るくなり始めた空を眺めながら店の裏手に止めてあった、ビンテージ風の車に乗り込み街を出た。



「ふぁぁああ」

「大きな欠伸、寝てないの?」

「少しトレーニングをしてた、獅子島先生が居ないから放課後の専攻授業もないし…体訛るかなって」

「そうだよね…獅子島先生もそうだけど、八坂先生も居ないし咲桜先輩も真宮先輩も来てないし…それに」

「晴翔と神威ちゃんも来てない…なんか噂によると八坂先生と真宮先輩は国に帰るから学校辞めたって聞いた」

「なにかあったのかな…」


学校の廊下を蛍と優真は並んで歩く、外は雨が降っていて時折雷が鳴っている。

晴翔たちが居なくなってから、だんだんと教員や生徒の人数が減ってきているように感じた。

テレビのニュースでは最近同じようなことばかりで街は混乱しているようだった。

 獣人界での乱闘騒ぎや、闇商売の話がテレビで取り上げられることが多くなり物騒なニュースに怯え街を離れた人たちも多くいる。


「連絡も返ってこないし…一体どこで何しているのよ」

「きっと忙しいんだよ、待ってよう。ほら僕らが強くなったところを晴翔に見せてやろう?」

「……そうだね、ん?なんか人だかりができてる」

「行ってみよう」


職員室の前にある掲示板に生徒が集まっているのを見て蛍と優真は急いで向かう。

生徒たちの波をかき分けようやく見える位置に辿り着いた2人が見たのは一枚の張り紙だった。


「え……どういうこと」

「僕ら何かしたっけ」

「何もしていないはずなのに…」


そう、そこに書かれていたのは名前と該当者は校長室に来るようにとのことだけだった。

青ざめた表情の2人に悲しむように雨と雷はより一層強くなる挙句の果てに雷が落雷し学校の照明は落ちてしまった。

周りが騒然とする中2人は重い足を引き摺るように校長室へと向かった。

 扉の前で大きく深呼吸をした2人は顔を見合わせ扉を三回ノックするすると中から一言どうぞという声がして恐る恐る中に入る。

するとそこには校長先生ではなくスーツを着た見知らぬ男だった。

優真は蛍の前に立ち少し身構える。


「貴方は…」

「すみません先ほどまでは校長先生もいらしたのですが先ほどの停電に部屋を飛び出していきまして、まぁ私としてはいてもいなくてもどちらでもいいので構わないのですが、身構えなくて大丈夫ですよ取って食ったりしませんので…座ってお話しませんか?」

「………」


優しい顔の男は2人に名刺を渡す。その名刺には政府特務機関特務捜査員 早乙女右京 と書かれていた。

2人は右京と対面する位置のソファに座る。


「私は早乙女右京といいます。政府の人間です」

「政府の人間が僕らに何の用ですか」

「時間がありませんので単刀直入に申しますと、牧島蛍さん、宮里優真さんキミたちお2人の力をお借りしたいのです」

「どうして」

「…高原晴翔をご存知ですね?」


2人は驚きつつも頷く。

瞬間的に晴翔に何かあったのだとそう察した2人の心はざわつく。


「では、高原晴翔がイレギュラーではなく邪神だということは?」

「え…どういうことですか?晴翔くんが邪神って何それ…」

「やはり知らないのですね。ではそのことからお話ししましょう」


淡々と話す右京を前に蛍と優真は唖然とする。2人の中で何かが壊れてしまいそうだった。

晴翔という存在が気持ちが音もなくただ崩れていってしまうそう思った。

今自分たちの前にいるこの人は一体何を言っているのか、それを何故聞かされているのか2人にはわからなかった、一体晴翔が何をしたというのだろうか。

話に出てくる晴翔は自分たちが知っている晴翔とは違った。まるで別人で見てきたものとは違ったもしそれが本当の晴翔だとしたらという恐怖が背中を撫でる。


「やめて。そんなの晴翔くんじゃないでたらめ言わないで!」

「蛍ちゃん、落ち着いて……」


急に立ち上がった蛍は今にも泣きだしそうだ。

右京の目は真剣そのもので蛍の睨み据える目もいとも思っていないようだ。


「その話が本当なら晴翔くんはいま前線にいるってことですか」

「はい。私は真実のみをお伝えに来ました、これはデータ上の彼の話ですが遅かれ早かれそうなるという話です」

「晴翔くんに会えませんか」

「私たちに協力していただけるのであればその願いは叶うと思いますよ」

「分かりました。協力します」

「蛍ちゃん!?何言ってるの?危険だよ戦場に赴くんだよ?」

「そうだよ、折角戦術専攻で培った力を発揮するところでしょ、違う?」


優真は唖然とする。

優真には簡単に命を賭けられるという勇気はない、ましてや優真の能力は戦闘向きではない。トレーニングを積んでいるとしてもそれは身を守るためのためだ誰かを守るためだ。


「僕には…そんな自信はない。怖いんだ守れなかったらどうしようって思う」

「大丈夫よ私の破壊の能力とあなたの盾の守護の力があればきっと守れる」

「どこからそんな自信が出てくるんだよ!死ぬかもしれないんだぞ?!怖くないのか?」


優真は思わず蛍の肩をつかむ。

それでも蛍の意志は瞳は揺らがなかった、真っすぐ見据える濁りのない瞳には希望だけがあった。

その瞳に優真の心が動かされた。


「怖いよ怖くないわけないじゃない、でも何も知らないで何もしないで晴翔くんを見捨てるのだけは嫌。私は晴翔くんにあって真実を彼の口から聞きたい」

「蛍ちゃん…分かった僕も行くよ。何も言わなかった晴翔に喝入れてやらないとね」

「答えは出たようですね、それではこれから私と共に政府に行きましょう。そこで正式な手続きをします」


右京はすべての資料を鞄に仕舞うと携帯端末を取り出し政府機関に電話をする。

先ほどとは違い重い表情と暗い声に緊張感が走る。


「許可が取れました、では行きましょうか」


2人は頷く。

待つものとして進むことを選んだ者たちが歩み始めた瞬間であった。

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