第22章
ギラギラと光シャンデリア、テーブルには豪華な食事がズラリと並び、目の前に広がる世界は見たことの無い景色で晴翔は磨き上げられたグラスの中に入った薄緑の炭酸飲料を飲む。
隣では、悩みに悩み選んだ膝丈の綺麗な淡い薄桃のふんわりとしたフリルのあるドレスに身を包み嬉しそうにデザートのケーキを頬張る神威が居る。
少し離れた場所には紗綾と出雲が各所の代表と話をしていた。
「……(凄いな……)」
「ハル、これ美味しいよ」
「お、くれるの?ありがとう」
神威が嬉しそうに差し出したケーキを食べる、優しい甘さが口いっぱいに広がりスイーツの酸味で甘さが中和されとても美味しいケーキだった、様々な種族に合わせた食事が用意されているため食べる事には困らなかった。
続々とパーティー会場に集まる各所の代表や各種族のトップらを見ると緊張で隅っこで固まることしか出来ない。
「大丈夫?いっぱい食べてる?」
「紗綾さん、お話終わったんですか?」
「出雲に任せてきちゃった、私あまり頭の硬いお偉いさんの話って苦手なの」
「へー……意外です、誰にでも優しく接してるのに……」
「そんなことないのよ?私にだって苦手なことってあるからね〜」
「そうなんですね……あれ、なんか騒がしいですね」
「あら、ようやくお出ましかしら」
「??」
紗綾と話していると急に入口付近のほうが女性の黄色い悲鳴と共に騒がしくなる。
男性も女性も頬を赤らめながら道を開ける。
晴翔と神威はお互い顔を見合せ首を傾げる、じっと目を凝らして見つめていると人並みから現れたのは、黒を基調としたスーツに真っ赤なネクタイをつけ整えられた髪に底光りする綺麗な紅の瞳をした真紅とその隣を腕を組み優雅に歩くのは、赤く腰元が締まり体の線に沿ったドレスに耳にはルビーのイヤリングをした美しい姿の琥珀だった。
思わず2人は見惚れたように2人を見つめる。
いつもとはまた違う姿に驚きが勝る。
「なんか……雰囲気違いますね」
「そりゃそうだろうね、彼女らは吸血鬼一族の王と王女、次期国王とその妻でもあるのだからね」
「へぇ……ってえ?国王?!」
「そうよね、知らないのも無理はないわだってあの子たち何も言っていないものね〜」
ワイングラスを片手に戻ってきた出雲は真紅と琥珀を見つめてふっと笑う。
出雲の説明に頭が混乱しそうな晴翔は必死に頭をフル回転させて平静を装う。神威はそんなことお構い無しに隣でまだケーキを頬張っている。
「やぁ、今朝方ぶりだね、どうだい雰囲気には慣れたかな?」
「いや……ちょっと気圧されそうです」
「あらそれは可哀想に……いまから鬼の一族が来るからもっと騒がしくなるわ、今年は"ご兄妹"の揃い踏みだと言うから」
「……へ、へぇ……」
「うふふ、そこまで構えなくても大丈夫よそれに貴方は一度会っているでしょう?」
「まぁそうですけど」
不安を拭いきれない表情でいつにも増して煌びやかな真紅と琥珀の言葉に気圧されながらグラスの中の炭酸飲料を一気に喉に流し込む。
炭酸飲料の刺激に現実だと受け入れろと言われているのだと錯覚させられる。
そうこうしていているうちに、入口がまた騒がしくなる先程よりも賑わいが強くなり近くにいた別種族の女性たちが色めき立つ。
その中を抜けて現れたのは、見慣れない洋装姿の鬼の一族だった。
まず初めに現れたのは鬼の一族鬼頭の煌夜で、ガタイの良さを生かした漆黒のスーツに深紅のネクタイをつけ髪をオールバックにして堂々と歩く姿は勇ましさがある、その後ろを歩くのは顔のよく似た男女で、1人は黒のスーツに青と赤のストライプのネクタイを付け片手を隣に歩く少女をエスコートし歩く緋色だった。その隣にいる少女は、まるで海のようなグラデーションの色合いの細身のドレスに身を包み伏し目がちの瞳と微笑みで儚い印象を与えている。
「あ……あの子……」
晴翔は緋色の隣を歩く少女を見て鬼の里で出会った着物姿の少女を思い出す。
すると、少女がこちらに気づき軽く会釈をして微笑みを深くする。
心臓が脈打ち少し体温が上がるのがわかる。
「???」
「ハル?どうしたの?」
「い、いや、なんでも……」
晴翔は気を取り直し鬼の一族を見送る。
その後、各々が各所の代表との話し合いや食事を取ったりダンスタイムに興じたりとバラバラな時間になったが、晴翔は1人部屋の壁際でグラスを傾けていた。
神威と紗綾は2人で各所の代表の所へ行ってしまい出雲は煌夜の所で話し込んでいる。
その為晴翔は行くあてもなくただ雰囲気を味わっていた。
するとそこにあの少女が現れる。
「こんばんはお久しぶりです、晴翔さん」
「あ、こんばんは……えっと……」
「ごめんなさい、自己紹介がまだでしたね、私は咲桜翡翠と申します」
「よろしくお願いします、翡翠さん」
「翡翠でいいですよ、それと敬語も外して頂いて結構ですので、気楽にお話しましょう?」
「え、でもそんなわけには」
翡翠の言葉に晴翔は戸惑う。
翡翠の後ろに控えている冬真は少し呆れたような顔をして晴翔を見る。
それを察してか翡翠は冬真を下げる。
「護衛はもう大丈夫。兄上の所でも行って差しあげて、冬真」
「ですが」
「私は晴翔さんと2人で話がしたいの」
「かしこまりました、では晴翔様、翡翠様のこと"くれぐれ"もよろしくお願いします。それでは失礼します翡翠様」
「(圧がすごい圧が)」
冬真は軽く一礼すると翡翠の傍を離れ人混みに消えていく。
晴翔はいたたまれない気持ちのまま翡翠を見下ろす。
「踊らないのですか?」
「えっと俺踊ったことなくて」
「では、私が教えて差し上げますわ、これからこういう場が増えるでしょうから覚えておいて損は無いかと」
「でも足とか踏んだら悪いし……(ましてや鬼の一族の顔に泥を塗るような真似なんて死んでも出来ない……!)」
「さ、参りましょう。それにここではゆっくりお話も出来ませんから」
「ええちょっ!!」
微笑みを湛えたままの翡翠に手を引かれダンスタイムの人並みに入る。
ダンスルームでは皆思い思いのダンスを踊っているリズムに合わせステップを踏み進んでいく。
晴翔は翡翠にされるがまま翡翠の腰に手を回しステップを踏む、初めてのはずなのに何故か自然と体が動く。
「さぁこのままあのテラスまで行きましょう?」
「はい!」
緊張した面持ちでテラスの方まで進む。
やはり鬼の一族のトップと踊っているせいか各種族の視線が突き刺さる。
「おや?珍しい組み合わせだ」
「あら本当ね、まさか鬼の一族の巫女姫様となんて」
「護衛も付けずに……まぁ晴翔くんだから大丈夫かな?」
「そうね、それにしても晴翔くんはダンスに慣れているのね」
「そうだね…」
真紅と琥珀から見ても2人のダンスは美しく優雅だった。
組み合わせは珍しく余り見ない光景だが2人とも顔が整っているせいもあり周りの人々も見惚れているようだった。
なんとかテラスに辿り着くと礼儀としての礼をして終わる。
「はぁ……ごめんなさい、私人が苦手で……でも踊れましたねやっぱり覚えているのですね」
「なんで……」
「忘れていてもきっと貴方は貴方ですもの」
「どういうこと?キミは何を知っているの?」
先程まで隠れていた月が姿を現し光が翡翠と晴翔を照らす。
翡翠は先程までの微笑みを消し一瞬だけ強い瞳を晴翔に向けるだがそれもまた微笑みで隠してしまった。晴翔にはそれがやけに心に引っかかる。
何かが違うこの子の表情はこんな表情をするものでは無いのだと訴える。
「……私は、貴方がどこまで知っているのかを知りたいだからお互いの情報を共有しませんか?」
「え?」
「ここは、いいえ。このパーティーは表向きには普通のパーティーです、ですが本当は同盟を結んだ種族同士がお互いの情報を交換し合う場として組まれたものですわ」
「そうなのか…」
「それでは始めましょう?闇王陛下?」
翡翠の一言に晴翔は目を見開く、心の奥底で何が蠢く気がした。
「貴方はご自分が何者かはご存知ですか?」
「あぁ、キミは言ったな俺に、報われないとそれは」
「……それは、記憶の通りです、私は貴方がそのまま闇に落ちるのであれば殺さないといけない、闇王は災厄の象徴です」
翡翠の言葉に晴翔は黙る。
晴翔は翡翠の真っ直ぐな瞳を受止め逸らさない。
目の前にいる少女は単独で挑んできている、強い心を持っているのだから逸らすのは失礼だろう。
「手遅れにならないように貴方がまた過ちを侵さないようにして欲しいのです、もう誰も傷付けないでほしい貴方自身にも傷ついて欲しくは無いのです」
「キミは一体誰なんだ?何を知って!」
焦りで声を荒らげそうになった晴翔の口に手を添え翡翠は首を振る。
夜風が一気に強くなる。
「いけません、怒りと焦りは闇を濃くする。貴方のそれは周りを巻き込みます」
「!!」
晴翔は前に起きた出来事を思い出す、自らが起こした闇で沢山の人が傷ついたのだ。
その時の出来事は脳裏に焼き付いて離れない、その後の悲しげな神威の顔も辛そうに笑う顔も全ては自分のせいだと晴翔はいまだに自責の念に駆られているのだ。
「闇は様々なものを引き寄せるそれは光よりも強く暗く辛いもの、それはとても悲しい……こと闇は人を狂わせる」
「何故……そんなことを俺に?」
晴翔は思わず顔を逸らし下を向く、その顔は後悔や苦痛を感じさせる表情をしていて翡翠は困り顔をする。
「光はすぐ傍にあります、それに気付けるか気付けないかでこの先の選択は大きく変わってきます」
「……キミも巫女なのか?」
「…はい」
「一体誰の」
晴翔の悲しげな瞳が翡翠を捕える。
翡翠は夜風に舞う髪を耳に掛けながら少し伏せた儚げな瞳を晴翔に向ける。
少し戸惑いながら告げる。
「私は……第五神の…『呪神』に仕える巫女です、呪神様は貴方を脅威だと仰いました、そして悲劇の子だとも…」
「呪神……」
「全ての神を覚えておられますか?」
翡翠の問いに晴翔は黙って頷く。
それにそうですかと悲しげな表情で翡翠は呟く、晴翔の表情はどんどん険しくなるばかりだ。
「貴方が忘れても誰かは覚えています。魔の手はそこまで伸びてきている、決して飲み込まれぬように貴方の意志を違えぬように、愛に光に気づけるように…と我が神からの言付けです」
「それをわざわざ?」
「それもそうなのですが、お話してみたかったのです、いまの闇の王『邪神』様とどんな方なのかと、ひな……いいえ、同じなのか違うのか知りたかった」
「同じなのか違うのか?」
「はい」
翡翠はテラスの柵に手を伸ばす。
その隣に晴翔も立ち、目の前に広がる薔薇の庭園を2階から見下ろす。
薔薇は珍しい青い色をしている。
「巫女は前世の記憶を持って生まれません、持っているのは無意識下の想いだけ、それと違って神々は全ての記憶全ての想いを持って生まれます、ですが……」
「俺にはそれがなかった」
「はい、何故なのかは分かりません。秩序の神である『鬼神』様も自覚がありませんでした、記憶を持ってしても自覚が無かったり、全てを忘れて生まれたりと今回はおかしな事が多い。神自身がそう望んだ可能性もあります、それと……」
「それと?」
「これもおかしな事なのですが、一部の巫女が全ての想い全ての記憶を持って生まれています、でもこれには語弊がありますね…持って生まれたのではなく、魂がそのまま取り憑いていると言った方がいいかもしれません」
翡翠の真面目な表情からそれが本当の事だと言うことが分かる、晴翔は驚きで項垂れる。
「それに、貴方は闇王『邪神』として生まれたのにも関わらず記憶が無かった」
「ああ」
「何故なのか貴方を求める人間もいる、それについては心当たりはありますか?」
「全く……」
「その記憶は無いのですね、でもそれが戻った時貴方が正気でいられるかは分かりませんが」
「え」
「それはきっと貴方の出生に関わっています、これは……あまり思い出すことをオススメとしません、不安定な貴方の心は一瞬で砕け散り闇王の思い通りになってしまう。それだけは避けなければ行けません」
翡翠は晴翔の心臓の部分に触れる。
晴翔の額には薄らと汗が滲む、翡翠の真剣そのものの瞳に気圧される。
知らなかったこと思い出してきたこと気付かされたことのまるで答え合わせをしている状態に不思議に感じながらも自然と受け入れられている自分にこれは必要な事だったのだと安心する。
先が見えない未来に焦りを覚えるのは当たり前のことだが、自分の未来はどうなるのか人のままで居られるのかそれとも……そう考えると恐怖が晴翔の中を駆け抜ける。
「晴翔さん」
「はい!」
「貴方の心は強いはずですだから大丈夫です、きっと……戻ってこれる私は……そう、信じています」
「翡翠……」
「仕える神は違います、でも神々は私達生き物にとっては大切な存在、特に五神の神々はこの世界を支える心臓です、どれが欠けてもいけません強すぎても弱すぎてもダメなんです」
「ありがとう」
「!……い、いいえ……まさか貴方から感謝の言葉を頂くとは……」
「え……過去の俺って結構暴君だったの?」
晴翔の言葉に翡翠は目を逸らす。
言いたくなさそうに言葉を探している翡翠の様子を見ると晴翔はなんだか恥ずかしくなってしまう。
「……全ては出生が関わりますから、貴方の場合は仕方がないかと……でもこれだけは言わせてください」
「?」
「貴方のやったことは許せません、ぼくは絶対に許せない」
「……え……」
一瞬晴翔を睨みつけるような氷のように冷たい瞳に晴翔は驚き一歩下がる。
ハッと我に返った翡翠は慌てふためく。
「あ!ご、ごめんなさい無礼をっ!」
「いや、大丈夫!それに俺あまり実感無いしそんな奴にそこまで畏まらなくていいよ、なんか……ごめんね、俺が覚えていればよかったのに」
「……いいえ、それでいいのかもしれません。でもこの世界には闇を望む者と光を望む者が居ます、どちらにも安息の地はありはしないのだから……」
「翡翠!」
「緋色……」
翡翠の言葉は緋色の呼び声に掻き消されてしまう。焦りを含んだ緋色の声に翡翠は少し怯えたようなそんな顔をする。
「護衛も付けずに何してる!」
「ごめんなさい、でも……どうしても晴翔さんと話がしたくて…」
「だとしても1人で行動するな、行くぞ」
「……また後で晴翔さん」
「あ……うん」
翡翠の腕を半ば強引に引っ張りテラスから連れ出した緋色は先程の翡翠と似た冷たい瞳で晴翔を睨み付けた。
「うわ……こわいね〜過保護な兄って感じ」
「いつの間に居たんですか出雲さん」
「大丈夫、ついさっきだよ」
「ニヤニヤしないでください」
「少しは勉強になったかなって思って、いい情報貰ったでしょ?」
何もかもを見透かすような出雲の言葉に何故か苛立ちを覚えその場を立ち去ろうとする。
その背中に出雲が声を投げかける。
「後悔するなよ」
「何の話ですか」
「こっちの話だよ、ほら行った行ったお姫様が待ってるよ」
「ハル?どうしたの?探したよ」
「ごめん、行こう神威」
出雲は何事も無かったかのように煙草に火をつけ柵にもたれかかって空を仰ぐ。
「(全く……困った神様だな)……ん?」
「どうした、出雲」
「キミも神出鬼没だな……煌夜」
「貴様に言われたくはないな、何か気になるものでも見つけたか?」
「いや……上の階にいるのって……」
「犬の一族の村長だな……その隣は誰だ」
「……不味いことになった、あれはシュバルツだ」
「獣人の好奇心に漬け込んだか」
「こうしちゃいられない」
「まぁ、待て」
煙草の火を消しテラスから出ていこうとする出雲を煌夜が襟元を掴み引き止める。
「げえっ!殺す気か鬼頭……」
「そんなことで死ぬよーならとっくに死んでいるぞ貴様」
「チッ……で何」
「慌てるな、まずは探る所からだ」
煌夜はニヤリと笑うと片手を上げる、すると影が3つすぐさま煌夜の背後に現れる。
1つは黒のローブに身を包んだ男ともう1つはくノ一の格好をした少女とも女性とも見れる女、もう1人はスーツを着た冬真だ。
「昴となずなは3階へ行き中の様子を探れ、冬真は皆を集めろ」
「「「御意」」」
3人は一瞬にして散り散りになる。
煌夜は澄ました顔で佇むばかりだ。
「うわ……呪神を顎で使うとは……」
「フン、過去がどうあれいまは主従の関係にある全く問題はない」
「あーはいはい」
「俺は使えるものは使う」
「……さすが鬼頭」
「褒めるな」
「どこをどう切りとって褒めたことになるんだよ」
高らかに笑う煌夜にげんなりする出雲はイマイチ相性が合わない。だが煌夜は鬼の一族の鬼頭であり人間よりも吸血鬼一族よりも上の存在だ。
その分強いのだ、戦いにかける覚悟も守る覚悟も何もかもが人とは段違いに近い。
なのに、優しい生き物それが鬼である。
「さて、戻ったな」
黒のローブに身を包んだ男は煌夜に耳打ちすると、煌夜の言葉に頷き姿を消す。
「どこ行ったんだ?」
「彼が守るべき者の所へ行かせた、ところで調査の結果だが出雲貴様の予想通りだそうだ、ここはもうじき戦いになるぞ」
「……協力感謝する」
「何、構わないさほら、さっさと行け司令塔」
出雲は頷くとテラスを小走りで出ていく。
煌夜はその後ろ姿を無言で見つめる、何かを伝えようにも言葉が見つからないのかそれとも何かを彼の中から見出したのかは分からない、だがそれはきっとこれからの姿なのだろう、煌夜は出雲とは逆の方へと歩き出した。
出雲は、全員を集め事情を説明する。
「じゃあ、近距離戦型の3人はオレと一緒に3階に向かう、あとの3人は屋上で待機いいね」
全員頷くと懐に隠し持っていた武器に触れる。
武器はいつも使っているのとは違いだいぶ軽めのものになっている。
それだと、真紅や透は本領を発揮は出来ない。
しかし、能力で押し切るにも些かの不安もあったここは一応表向きには中立国という事になっていて戦いには干渉しない。
「これ大丈夫なんですか?」
「まぁ、違反してるのはこの国だから大丈夫なんじゃないかな?こうなることは避けられないよ」
「へぇ……」
「僕は些か不安だな……あまり武術は得意ではないましてやスーツだし」
「こんな所で密会している方が悪いだろ、それに数は少ないらしいし大丈夫だろ」
「あら、そんなことを言って足元をすくわれないことね」
「はいはい、喧嘩しないでね。もうすぐでパーティーが終わるそうすれば客も流れるそこがチャンスだ、流れに乗って3階に向かう、紗綾は煌夜と協力して周りの人間を逃がしてくれ」
「えぇ、分かったわ」
そう話し込んでいるうちに最後の挨拶が終わり辺りは拍手喝采が響く。
それが終わると客は一気に出口に流れ込む、人並みに流されないように気をつけながら、晴翔、真紅、透、出雲の4人は3階に向かう。
紗綾を除く残りの3人は警備員に気づかれないように、裏から屋上へと上がる。
外は何の音もしない、静かすぎるくらい静かだった。
「……静かすぎる……」
「ほんとね……気味が悪いわ」
「……ハル……」
なるべくバレないように、緋色達は身を屈め屋上から下を見下ろす。
客が続々と帰っていくそれでも未だに話に花を咲かせ話し込んでいる客もいる。
その時、2階から爆発音が鳴る。
「どういうことだ!」
「私が何も用意していないとでも?」
シュバルツは気味の悪い笑いを浮かべる。
全員が構える。
「ここは素晴らしい実験台になりますよ、お初にお目にかかります、ボクはジョーカー以後お見知り置きを傍観者諸君?」
「ジョーカー……!」
「貴方に名を呼んでいただけて本望でございます闇王……陛下!」
狂った笑みが晴翔の瞳に映る。
その狂気じみた笑みは晴翔の心を掻き立てた。
炎が辺りを包み込んだ時、複数の金属がぶつかり合う音が響いた。
1階では煌夜、冬真、紗綾の3人が逃げ惑う人々を逃がしていた。
「煌夜様!」
「冬真、ここを持ちこたえさせよ!」
「やってますよ!」
今にも崩れそうな壁や天井を冬真の能力、重力で抑え込むが、冬真の能力にも限界がある。
「もっと大人しくやれんのか人間共は!」
「煌夜様!外!」
「何……あれ」
紗綾は夢でも見ているのかと不思議に思う、だがそれはまさに人形のようにカクカクと動き、蠢く"人"だった、まだ若い子供が鋭利な武器を持ちながら外に逃げた人を襲っている。
その中心には、その惨劇をものともしない様子で佇む女、カナリアが居た。
「こんばんは、鬼頭様それと……」
「っ……」
「貴方が生きてるなんて……ねぇ紗綾」
「カナリア……!」
いままで笑わなかったカナリアが嬉しそうに歪んだ笑みを見せる。
それを見た紗綾はとても辛そうに顔を歪めた。