無意識に
合間の一休み
緋色の腕を引き部屋に入る。
部屋では未だにドレス選びで悩む神威とそれに晴翔を挟む形で琥珀が意見していた。
それを遠巻きに見ていた真紅が透に腕を引かれている緋色を見てニヤニヤと笑いワインを飲む。
緋色は恥ずかしくなり手を引くが透の引く力が強くなかなか離れない。
「そろそろ手を……」
「なぁ」
緋色が顔を上げた瞬間真面目な顔をした透と目が合った。
「頬を撫でるのあれは癖か?」
「は?」
「今日、やけに頬撫でてきたなって思ってよ」
「んな!!そんなわけないだろう?!」
「え、じゃあ……なんで、普段しないだろ?触ってきたりもしないのにどうしたのかと思って……痛ァ!!」
緋色は顔を赤くしながら思いっきり透の頬を叩く、その音は部屋に響きドレス選びをしていた神威と晴翔は驚きと焦りで困惑し、真紅は顔を伏せ笑いを堪えている。
「それに!あれは俺がやった事ではない!自覚もないなら変なことを口走るな!」
「ごめんって!痛い!やめっ」
「ずっと忘れてろ!」
「ちょっ緋色ちゃん?!駄目よ落ち着いて!」
「真紅笑い過ぎよ」
「あー笑った笑った〜」
見かねた紗綾が止めに入るも暫く緋色の珍しいくらいの叫び声が響いた。
その夜、透は一人部屋のバルコニーに出て空を見上げていた。
「やあ、眠れないのかい?」
「真紅かそっちこそ寝ないのか?」
「吸血鬼はいまからが活発に動く時間だよ?眠れないならキミも呑むかい?」
「遠慮しておく、明日運転しないといけないんでな」
「そう、それは残念だ」
隣の部屋のバルコニーには真紅と琥珀がお酒を飲んでいた。
「今日は酷くやられてたわね」
「あぁ、でも気にしないさなんか懐かしい気もしたしな」
「あらそう、それは貴方が忘れているものかしら?」
「そうだな……今まで覚えてはいたが自覚がなかったものでな、晴翔の闇にあてられたせいなのか最近は昔の夢ばかり見る、それに……」
透はふと振り返り部屋の中で布団に入り眠っている緋色を見る。
その瞳はいつもの鋭いものとは違い愛おしそうな瞳をしていた。
「緋色が…………」
「ん?なんだい?」
「いや、やめておこう」
「えー気になるな〜ま、いいけどさ。 じゃ、明日はお互い早いわけだしさっさと寝なよ、"鬼神様"?」
「え、何故それを……いねーし……吸血鬼一族はやっぱりこえーな」
透が気付いた時にはバルコニーに2人の姿はなくなっていた。
透は困惑した顔で頭を掻きバルコニーの柵に背を預ける。
「……」
眠っている緋色を見つめながら、今日の出来事を思い出す、優しく触れる手の感覚は今でも覚えている、時々緋色の気配が違うものと混じることがありそれに対しても気づいてはいた、ただ気付かないふりをしていた、なぜかは分からないがそうしたかったのだろう。
いままで自覚の無かったことや物が一気に現実だと叩きつけられる。
ずっと一緒に居た者や、それと過ごした日々が記憶の夢となって現れる。
それはきっと、持っていなければならないもの忘れてはいけないもの、それは知っていなければならないものなのだと思い知らされる。
それはきっと、緋色にとっても同じことなのだろう。
「……なんで今更……無意識下の想い…か、なのにお前は記憶を持って生まれてきたそれに気配が2つ、1つは緋色のものだが、もう1つは……」
「透?」
真剣そうな顔をしてバルコニーに立つ透に目を擦りながら眠たげな表情の緋色が声をかける。
「寒い」
「悪い、寒かったないま閉めるおやすみ」
「あぁおやすみ」
透は急いでバルコニーの扉を閉めて布団に入る。
隣で再び眠る緋色を見下ろす。
誰でもないいつも通りの緋色だ。
それを見た透は安心したのか緋色に背を向け眠りにつく。
緋色は薄らと目を開け大きくて広い透の背中を見つめながら再び眠りに落ちた。