第20章
朝目が覚めるといつも寝坊助な神威の姿が無く時計を見るといつもよりも早い時間に起きたのだと気付く、不思議に思いながらも学校に行く準備をし部屋を出る。
すると、隣の部屋から眠そうな顔をした緋色と透が出てきた。
「あ、おはようございます」
「おはよ」
「早いな」
「目が覚めちゃって」
他愛もない話をしながら階段を降りていくと1階では紗綾の楽しそうな嬉しそうな声が響いていた。
「うふふ 娘がいるとこんな感じなのかしら〜」
「恋人も居ないのに……」
「いーずーもー?一言余計なのよ全く!」
「ごめんて」
「おはようございます」
「おはよう、皆ご飯出来てるよ〜今日は神威ちゃんが手伝ってくれたのよ〜」
「神威が……?」
紗綾の言葉に驚いた顔の晴翔は神威を見るエプロン姿の神威は使った食器や調理道具を洗っている最中だった、自然に気づいた神威は手を止め晴翔に微笑む。
「!おはよう、ハル」
「……おはよう、神威今日は早いんだな」
「うん、なんだか目が覚めちゃって」
「そ、そっか」
「うん」
何故か神威の姿が昨日と違うように思えて仕方がない、昨日までの神威は何処か幼くて寂しげでなのに今日の神威は大人びている。
それと話し方もいつもと違うことに気づく。
「なんか変わった?」
「え?」
「少し大人っぽくなった気がする、それに話し方もいつもと違うし……もしかして」
「えっと……それはっ」
「記憶戻ったのか?」
「……うん、少し」
「そっか、でも出会った時に戻ったみたくて嬉しいよ、良かった」
「…うん」
納得がいったのか晴翔はご飯が準備されている席に着くと嬉しそうにご飯を食べ始める。
その様子を遠巻きに見詰める神威の瞳は何処か寂しそうだった。
「神威ちゃん、記憶の混乱とかはない?大丈夫?」
「はい、大丈夫です。 変ですよね…この前まで私こんな感じじゃ無かったのに……まるで騙したみたい」
「そんなことないわ、だって仕方がないことだもの、それにそれは必要なことなのでしょ?だから気にしなくていいのよ、ここには貴女を責める人は誰もいない、貴女は貴女の生きたいように生きて?ね?」
「ありがとうございます…」
隣で食器を拭く紗綾の言葉はとても優しい、いつもの紗綾だ、そう思うと神威の心は安心する。
ここに居ていいのだと、彼の傍に居てもいいのだと気付くことが出来る。
学校に着くといつもと違う大人びた神威に生徒たちは群がる特に男子生徒が多い、神威はその中心で戸惑うことも無く冷静に生徒たちに対応する。
「神威ちゃん一気に人気者だね〜」
「そうだね、いいの?晴翔」
「え?なんで?」
「なんでって……君達付き合ってるんじゃないの?」
「いや……違うけど……」
「そうなの?てっきり付き合ってるのかと思ってた……いつも一緒に居るから」
傍から見たらそう見えるのであろうが実際2人は一緒に住んでいるだけで特に晴翔にとって恋心のような特別な感情はない、ただ守るべき存在である事には変わりない。
そこでふと不思議に思った。
「(……あれ?なんで俺神威のことに対してだとこんなにモヤモヤするんだ?守らないといけない……けど何か忘れてるような……)」
「おーい、晴翔?大丈夫か?」
「あ、ああ、大丈夫だよ」
「体調良くないんじゃ……」
「蛍は気にしすぎ大丈夫だって」
「それならいいけど…」
晴翔の浮かない顔を見た蛍と優真はお互い顔を見合せ首を傾げる。
2人の間に謎の溝があるように思えて蛍は心配になる。
4限目の授業が終わるのと同時に蛍は神威の連れて屋上へと向かう。
「あのっ牧島さん?!」
神威の焦った様な声に掴んでいた手を離す。
そして少し拗ねてみせる。
「もー!記憶戻ったのと同時に私のこと忘れちゃったの?……ほーたーる!名前で呼んでよ、神威ちゃん!」
「ご、ごめんなさい、少し……戸惑ってて……」
「結構印象は変わっちゃったけど私にとっては神威ちゃんは神威ちゃんなんだから、そんな急に態度変えられたら悲しいよ……」
「ごめんなさい……」
蛍の悲しそうな瞳に神威は俯いてしまう。
そんな神威の頬を両手で包み込むと優しく上に向けてやるそして満面で笑みで神威を見詰める。
「ごめんなさい禁止ー!これからまた仲良くしてほしいな!ね!」
「うん……!」
「そういえば、晴翔くんと喧嘩でもしてるの?」
「え?!してないよ?」
「なんだかギクシャクしてるなーって思って…前まで何処に行くのもベッタリだったじゃない?でもいまはお互い距離を作ってるふうに見える、気のせいかな?」
蛍の言葉に神威は持っていたお箸をお弁当箱の上に置き考え込む。
その表情は曇っていてあまり良いとは言えなかった。
「特に何かあったわけではないの……私のせいかもしれない」
「記憶が戻ったから?」
「……分からない」
「んー…でも2人には仲良くしててほしいな〜っていうのが個人的な思いかな、何かあったのかと思って焦っちゃった」
「………」
「神威ちゃん、私はいつだって神威ちゃんの味方だから!頑張って!」
「え?えっと……ありがとう?」
「うん!」
神威の両手を掴み目をキラキラと輝かせる蛍はとても楽しそうだ。
その後は2人仲良く会話をし休憩時間も終わりに近付いてきていた為教室に戻る所教室の前は何故か人集りが出来ており各クラスの生徒たちが群がっていた。
騒がしい廊下に後から来た生徒が人集りに走っていくのが見える。
「何かあったのかな?」
「?どうしたんだろう…」
2人は顔を見合せ首を傾げる、蛍は神威の手を引きながら人集りの中に入っていく、するとその中心にはよく知った背中が2人とフリフリのレースでアレンジした可愛い制服を着込んだアヒル口のアイドル風の女の子と対局していた。
「ハル?」
「優真くんも……何してるの?」
「蛍ちゃん、いや……晴翔が他クラスの子に何故か決闘を申し込まれてて……」
「ええ??何それ…」
「晴翔は嫌だって断ってるんだけどあの子頑なに粘ってて…」
「どうするの……?」
「さあ…」
呆れた様子の蛍と優真は不穏な空気の晴翔と女子を見詰める。
神威は蛍の手を離すと晴翔に近付く。
「え、神威ちゃん!」
「神威?」
「ハル、何してるの?」
「!!……伊沙羅神威……」
「……もうすぐで休憩時間終わるよ?…貴女も教室に戻った方がいいと思う」
「余計なお世話だわ!私は貴女が嫌いよ伊沙羅神威、"また"邪魔をするの?」
「…………」
女の子は先程までの笑顔を消し憎しみのような歪んだ表情を神威に向ける。
神威は女の子から視線を外さないその瞳はとても辛そうだ。
「神威、この子と知り合い?」
「……"この子"は知らない」
「??」
「知らないですって?……嘘つき!嘘つき!嘘つき!嘘つき!嘘つき!嘘つき!嘘つき!」
女の子の狂ったような声に辺りは恐怖で静まり返る。
すると突然女の子の頭の上に生徒名簿が乗せられる。いつの間にか教師である透が女の子の後ろに立っていた。
「おいいつまで廊下に居るつもりだ予鈴はとっくに鳴ってるぞ」
「獅子島先生……!」
「ったく、四重お前は自分のクラスに戻れ、戦いたいなら戦術専攻の時にしろ基本的に私闘は禁止だ、バカタレ」
「は〜い」
女の子は笑顔でその場を去っていく。
辺りにいた生徒たちもブツブツ文句を言いながらも各々の教室に戻っていく。
神威は去っていく女の子の後ろ姿を見詰めるすると女の子は不意に立ち止まりこちらを振り向き神威を睨み付けるとそのまま教室に入っていった。
「……ジュリア……」
「神威?」
「え?な、何?ハル」
「教室入らないのか?怒られるぞ」
「えぇ今行くわ…」
5限の授業が終わり4人は仲良く放課後の専攻授業へと向かう。
すると、体育館にはあの女の子が他クラスの女子と仲良さそうに話していた。
「わーあの子もやっぱりここなのか」
「あはは…」
「晴翔くん逃げられないね」
晴翔は肩を落として項垂れる。
各々で準備運動を始め終わった人から戦闘訓練を始める。
結局女の子に捕まった晴翔は体育館中央でギャラリーに見守られながら戦闘訓練を始める。
「承諾して下さり光栄ですわ、晴翔様♡」
「あ……どうも……」
「では、お互い手加減無しでいきましょう?女だからって手加減されては私のプライドに傷がつきますわ…それに私とても強いので」
そういうと、女の子はまるで手品のように何もない空間に武器を取り出す、それは鞭のようだった。
「あぁ忘れてましたわ!私は四重純莉愛、よければジュリアと呼んでくださいませ?」
「…四重さんで……」
「もぉ〜いけずですのね!まぁいいですわ、いずれ……ジュリアと呼んでくださるでしょうし」
気味が悪いくらいの笑顔に晴翔は吐き気を覚える、基本的に人間を拒絶することはないが今回ばかりは違う、絶対にお近付きになりたくないなと思うくらいの嫌悪感を晴翔は抱きつつ腰にある短剣を抜く。
「では、開始!!」
判定と監視のため教師の透が始まりの合図をする。
その合図とともにお互い距離を置くと、睨み合いが始まるかと思いきや動いたのは晴翔だった。
一気に距離を詰めていく、晴翔の短剣では相手の懐に入り込む必要性がある。
だがそんな簡単に入り込めるはずはなくジュリアは晴翔の攻撃を全て避ける。
「そんなんじゃ私には届きませんわよ!」
「くっ!」
ジュリアが鞭を振り下ろす、すんでのところで晴翔は避け難を逃れるがその一撃は凄まじい衝撃波と共に床が割れる。
ギャラリーの半分がその衝撃波に腰を抜かし座り込んでしまう。
「凄いな……透あの子は?」
「あれは四重純莉愛、四重奏の妹だよ」
「……いいのか」
「確実なことが分からない今、下手に動けない俺もここでは1教師だ」
「(敵側の妹……純莉愛……か)」
緋色と透は衝撃波を諸共せず戦闘を見守る。
少し離れた位置では基礎的な事を蛍と優真から教わる神威が居た。
やはり気になるのか度々振り向き晴翔とジュリアを見詰める。
「心配?」
「うん」
「強そうだもんね、四重さんだっけ能力判定もAだってさっき女子達が言ってた」
「……ジュリアは強い、でもあの子は臆病だから」
「?神威ちゃん四重さんのこと知ってるの?」
「……何でもない忘れて?」
「え……うん」
神威は首を振り基礎訓練に戻る。
戦闘はどんどん過激になっていく、お互いが本気のぶつかり合いをしている為怪我は増えていく。
優勢なのはやはりジュリアのほうで晴翔は押されていた。
「どうしたのですか?晴翔様、息が上がっていますわ」
「はぁ…っ(肺が痛い……)」
「なんだか拍子抜けしましたわ……まだ完全に目醒めていないとはいえ、これでは意味がありません」
「なんのっ話……っ」
「全く記憶が無いのではないのでしょう?心の奥底に眠っているだけ…そうなのでしょう?フラム様……」
「!!!」
鞭が首に巻き付くのと同時に呼び声に応えるかのように心の中がザワつく。
意識が"持っていかれる"そう察したとき鞭を掴んでいた手でその鞭に炎を付ける。
ジュリアは咄嗟に鞭を引く、鞭は焼け焦げてしまっている。
少し目を離したその時、晴翔の底無しの闇のような瞳がジュリアを捉える。
殺られるー、そう思った瞬間炎と共に体が壁に叩きつけられる。
「きゃあああああああ」
「…………」
ジュリアの悲鳴に辺りは静まり返る、そして生徒たちは呆然と立ち尽くす。
ただ黙ってゆっくり一歩一歩ジュリアに近付く晴翔の周りは何故か黒く朽ちたような色に染まる。
闇を感じる。
「ハル……」
「晴翔の様子おかしくないか?」
「……どうしちゃったの?晴翔くん」
異変を感じた3人は呆然と晴翔を見詰める。
晴翔の表情は虚ろでその瞳は何も写していない、闇ばかりが彼を包み込もうとしている。
だが、止めようにも2人の戦いは熱を持ったかのように過熱している。
「透!」
「くそっ!2人とも!!やめろ!」
「駄目だ!近付いたらお前も"持っていかれる"!」
「じゃあ、誰がっ……くっ」
闇は周りに広がる、無数の黒い闇の手が晴翔を掴んでいる。
その手が透の足を掴む、一気に心を侵食しようとする為気分が悪くなり透は膝を着く。
闘いの衝撃波と共に闇が分散する。
立っていられないくらいの闇の濃さに生徒たちは次々に倒れ込む。
「透!!」
「聞こえてる!大丈夫だ……っ」
何とか闇を振り払い透は立ち上がる。
だが闘いはいつの間にかお互い譲らずの戦況で、止まらない。
「きゃあああ」
「シールド!!」
「蛍ちゃん!」
「いや!いや!」
「蛍ちゃん!しっかりして!」
闇の手が蛍の肩を掴んでしまった、蛍は恐怖で涙が止まらない、優真が能力で壁を作るがどんどんヒビが入り込み今にも砕けそうだった。
蛍の肩に神威は触れ闇の手を引き剥がす、酷い痛みが神威の手に伝わる。
焼けそうな痛みに視界が揺らぐが耐える、闇が消えた瞬間蛍は意識が途絶える。
それと同時に優真の壁も音を立て崩れる、優真は両手を広げ2人を守るように立つ、その足は震えている。
「優真くん!」
神威が叫ぶが、もう無数の闇の手は目の前まで近付いてきていた。
その瞬間目の前に緋色が立ち指を鳴らし水の壁を作る、同時に少し離れた位置にいた透も足で床を強く蹴ると影の壁を作る。
2つの壁は強く全ての闇の手が払う。
「っ!」
壁を支える腕に傷が付く衝撃が2人の腕に傷を作っているのだ。
誰かが止めなければ彼らはどちらかが死ぬまで戦い続ける。
それでなくても周りにいる生徒たちや近隣住民に被害が及ぶ、それだけは何としても止めなければならなかった。1人はこの世のものでは無い力を持っているのだから、それが止められなければ全てが終わってしまう。
神威は蛍を優真に預け立ち上がる。
すると壁を抜け、緋色の制止も聞かず戦闘範囲に入っていく。
「あのバカ!!戻れ、神威!」
「大丈夫、これは私には届かない」
「?!」
無数の闇の手は神威を避けていく。
緋色と透は驚きを隠せない様子で神威を見詰める。
神威は少しづつ晴翔に近付く、近くまで来た所でジュリアに再度攻撃を仕掛けようとした晴翔の腕を掴む。
「駄目、これ以上は駄目。やめて晴翔」
「……神威……」
「!なんで邪魔するの!」
「いい加減にしてジュリア、どうして貴女達はそうやって悲劇を繰り返そうとするの?!」
神威の悲しそうな辛そうな顔と声にジュリアは押し留まる。
鞭を下ろし、涙で濡れた傷だらけの顔で神威は目いっぱい睨み付ける。
「うるさい!!あなたには分からないわ!!あの人に愛されたあなたなんかに!」
「待って!!」
ジュリアはその場から姿を消した。
神威が伸ばした手は虚しく空をきった。
辺りは一気に静まり返り、誰も何も言わなかった。いや言えなかったのだ。
重たい空気の中、晴翔の体は床に崩れ落ちた。
「ハル!」
その後目を覚ましたのは見慣れたベッドの上で、隣には紗綾が優しい笑みを浮かべ椅子に座っていた。
「起きた?気分はどう?」
「……なんかよく分からないです…だからですかね」
夢を見た、同じ夢を見た。
闇の中で名前を呼ぶ優しい懐かしい声とは裏腹に血溜まりに沈む愛おしい人の姿。
愛していた"はずだった"なのにそう、自らの手でその感情と共に断ち切ったのだ。
「涙が止まらない」
痛みなんてなくてなのにどこかぽっかりと穴が空いていて虚しくて居ないはずの"キミ"を探した、代わりなんて居ないのに、でも分からなくてどうしても分からなくて、怖くて怖くてたまらない。
守らないといけないのに壊したい、壊したくないのに傷付けたい、裏腹な心と体に追い付けない。
自分の心と誰かの心があってそれが合わさって自分が消えそうになる、怒りだけが残っていく。
それでも"キミ"の温かさに触れたいと思うのは悪いことだろうか、そう思うと晴翔は涙が止まらなくなった。
「愛することは難しいこと、言葉じゃ意味が無いの、伝わらないもの」
「分からないです、俺には愛が分からないです」
「そうね…晴翔くんには欠けてるものかもしれない、それでもねいつか気づけることができるから」
「はい……」
闇の中で名前を呼ぶ声がずっと離れない。
1番近くに居てずっとそばにいたのに
ー貴方は報われないのですねー
報われない、彼女の言葉が不意に蘇る。
確かにそうかもしれない、この感情に気付かなければいつまでも同じ事を繰り返そうとするだろう。
忘れているものを思い出さなければ、終わらせなければならない。
晴翔は重い瞼をなんとか開けようとするが強い眠気が襲う。
「少し休みましょう、おやすみなさい晴翔くん」
紗綾の言葉と共に瞼は閉じられる、そして規則正しい寝息が聞こえてくる。
晴翔の頭を優しく撫でてやり紗綾は部屋を出る。
部屋の前には出雲が壁にもたれ掛かるように煙草を吸って居た。
「晴翔寝た?」
「えぇ、凄く疲れてたようだから少し目が覚めてまた寝ちゃった……皆は?」
「下はお通夜みたいになってる、真紅と琥珀もこればっかりはお手上げ状態」
「ふふっじゃあ私の出番かな!」
「そうだね」
紗綾は元気いっぱいの笑顔を見せガッツポーズをすると階段を素早く降りていった。
出雲は真剣な顔で晴翔の部屋を見る。
「(いまここで殺してしまえば…………いやそれでは何も救われない…)」
出雲は顔を背け階段をゆっくり降りていく。
闇の中で不敵な笑みを浮かべる男と怒りを含ませた顔を浮かべる男とで睨み合いが続いていた。
「これ以上は着いていけねぇ俺たちは降りる」
「ほう?もう終わりかね、だがそう簡単に帰られても困るんだが?」
「こちらの情報を持っているのだから、無傷のまま返すとでも?」
シュバルツの後ろからトランプのカードをきりながら現れた男はハット帽を目深に被っていて表情が見えない。
昴はなずなと並び少しずつ窓のある方へ下がる。
「ねぇ昴、僕らはお金が無いお尋ね者だしだから闇商売として子供を売る、そしていつか闇王の忠実なる臣下として生きていく、とても素晴らしいとは思わない?」
「思わねぇな、そんな暴君に組み敷かれて生きるなんて死んでるのと同じだ。そんなもの願い下げだ」
「そう、残念だよ……キミとはいい関係になれると思ったんだけどね…ではここで腕の1つ置いて行ってもらおうかな?クフフ」
切ったカードを1枚引くそれはJOKERのカードでそれを昴目掛けて投げる。
そのカードは昴の肩を深く抉る血飛沫が壁に散る。痛みに顔を歪める。
男は間髪入れずに続けて何枚ものカードを投げるそれは、昴の鎌によって弾かれ辺りに刺さり砂埃が舞い、姿が見えなくなるのと同時に窓が割れる音が響く。
砂埃と共に術で煙幕を貼った為なかなか視界が晴れない中男は、カードを投げる。
それは窓から出ようとした昴の体に突き刺さり昴の体は地面に吸い込まれるように落ちていく。
「全く、弱く見せすぎでは?昴」
「助かったなずな……でもこの受け止め方は勘弁してくれや」
「何か?」
「ちょっとおじさんのプライドが……」
「では綺麗に避ければいいのでは?貴方なら簡単でしょう」
「……」
なずなは落ちていきそうになった昴を抱き抱えそのまま闇の中に会話とともに消えた。
男は不敵に笑った。